患者に尽くす医療を

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**大阪市立大学大学院医学研究科 脳神経外科学
後藤 剛夫 教授(ごとう・たけお)**
1994年大阪市立大学医学部卒業。
豪プリンス・オブ・ウェールズ病院低侵襲手術センター、
大阪市立大学脳神経外科学准教授などを経て、2020年から現職。

留学時代を除くほとんどの年月を、教室とともに歩んできた後藤剛夫教授。この春、満を持して大阪市立大学脳神経外科の5代目教授に就任した。これまで受け継いできた伝統を、次世代へとつなぐステージに立つ。

頭蓋底手術を進化

入局したのは、26年前の1994年。教室は当時から頭蓋底外科手術の拠点で、新たな術式の開発にも意欲的だったという。「自分も手術を診る機会が多く、日増しに興味がわいてきました。この世界に入るのは、自然な成り行きだったと思います」

当時は脳腫瘍も脳血管障害も、顕微鏡を用いて開頭手術をしていた時代。頭蓋底の開頭手術は国内外から高い評価を受けていたが、「真逆の手術方法も勉強したらどうか」と前任教授から勧められたことがターニングポイントとなった。

「それが内視鏡手術です。勉強のためシドニーに留学、帰国後も頭蓋底手術に応用するために工夫を重ねました。後に出てきた経鼻内視鏡手術の利点も取り入れながら改良を続けました」

腫瘍切除率の高い内視鏡手術を開発

脳腫瘍の手術はいかに安全に、より多くの腫瘍を取り除くかが重要。その点、頭蓋底最深部で、かつ中心部に発生した場合は、頭蓋底中心部に直接到達できる経鼻内視鏡手術が有効だ。半面、経鼻内視鏡は術野がかなり狭いため、精密に手術操作しづらいというデメリットがあった。

そこで後藤教授(当時は准教授)の研究グループは、脳下垂体の後床突起をうまく切除して脳への入り口を広げる手術法を開発。2016年から手術に用いて良好な成績を残し、2019年、新たな内視鏡手術法として学術誌に報告した。

「視野が広がったことで、安全に多くの腫瘍を切除することが可能になりました。かつ合併症が起こりにくい術式です。切除度が上がると、腫瘍の制御率も上がると考えられます」と期待を寄せる。現在、経鼻内視鏡手術は年間60例程度手掛けていると言う。

経鼻内視鏡下頭蓋底手術ができる施設は限られており、治療法も確立されていないのが現状。今後は、この安全な経鼻内視鏡手術の標準化を目指したいと語る。研究グループでは、廉価なトレーニング用内視鏡を地元企業と共同開発。これを用いた講習会などを広げていく予定だ。

その性質や進行具合によっては、いくら腫瘍を取っても制御できないがんとは違い、脳腫瘍の場合、手術の結果がそのまま予後に影響する。「それが脳外科の醍醐味(だいごみ)の一つ。一方、取れば治るのに発生した部位が悪くて治せない場合がある。そこに少しでも切り込んでいきたいですね」

患者さんのために全力を尽くす

教室では脳腫瘍手術のほか、脳血管障害や脊髄脊椎疾患、難治性てんかんに対する治療でも成果を出してきた。今後、パーキンソン病など変性疾患に対する脳深部刺激療法にも積極的に取り組んでいくという。

脳外科医は全国的に不足しているが、ここ数年、教室への入局者は増加中だ。「若い先生たちが、やりがいを持って打ち込んでおり、その姿を研修生に見せているからだと思います。入局者を見て驚くのは、昔と変わらない高いモチベーションを持っていることですね」。自分の役割は、おのおのがエネルギーを注げるフィールドを見いだし、踏み出すための手伝いだと語る。

「目の前の患者さんに力を尽くす、というのが代々受け継がれてきた教室のモットー。私も教え込まれましたし、教室員もしっかり受け継いでいると思います」。「患者さんのために」という理念を、これからも追い求める。

大阪市立大学大学院医学研究科 脳神経外科学
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