日産はなぜ新型ジュークではなくなぜキックスを導入した!?│新型キックスe-POWER 公道試乗&解説

日産 新型キックス

2代目ジュークは日本に来ず、代わりにキックスがやってきた

最近は全長が4400mm以下のコンパクトSUVが人気だ。トヨタ ライズは2019年1~6月に、小型/普通車の販売1位になった。ホンダ ヴェゼル、ダイハツ ロッキー、トヨタ C-HRも堅調だ。

このようなコンパクトSUVに含まれる新型車として、2020年6月下旬に日産が新型キックスを発売した。

しかし日産は、2019年秋に欧州で発表された2代目の新型ジュークを海外専用車にし、新型キックスを国内に導入している。従来のジュークに代わってキックスを入れた理由を開発者に尋ねると、以下のように返答された。

「SUVでは居住性や積載性が重視される。その点でジュークは、外観がカッコ良く走りも優れていたが、後席と荷室は狭めだった。そこでキックスに変更した。キックスでは後席を使った状態で荷室の奥行(長さ)が900mmだから、ゴルフバッグやスーツケースも積みやすい。コンパクトSUVでゴルフに出かけるお客様も増えており、2セットは収納したかった。」

e-POWERのみを設定しガソリン車がない理由とは

新型キックスのエンジンは直列3気筒1.2リッターをベースにしたシリーズ式ハイブリッドの“e-POWER”のみだ。通常のガソリンエンジンモデルも海外には用意されるが、日本仕様は設定していない。この理由も尋ねた。

「e-POWERは人気の高い技術で、ノートでは圧倒的に売れ筋だ。プレミアム感覚を与えることも視野に入れ、キックスはe-POWERのみにした。選択と集中によって合理化する意図もある」。

なおキックスは2016年から、ブラジル、中国、北米などで順次発売されてきた。その意味でまったくの新型車とはいえないが、2020年5月にタイを皮切りに、e-POWERを搭載したマイナーチェンジモデルを追加設定している。

e-POWERは駆動用リチウムイオン電池を前席の下に搭載するため、ボディに補強を施して剛性も向上した。ショックアブソーバーやスプリングも、海外のノーマルエンジン仕様とは異なる。開発者も「ノーマルエンジンを搭載する従来型のキックスと、2020年に登場したキックスe-POWERは、まったく違うクルマ」と説明した。

日産 新型キックス

ノートから改良されもっと滑らかになったキックスのe-POWER

そこでさっそく新型日産 キックスe-POWERの試乗を開始した。

動力性能は十分だ。モーターの駆動力はノートe-POWERよりも力強く、アクセル操作に対する反応も素早い。巡航状態からの加速力は、ノーマルタイプのガソリンエンジンでいえば2.7リッター車並みと受け取られた。

制御が自然な印象になったことも特徴だ。

e-POWERではエンジンは発電機を作動させて、駆動はモーターが受け持つ。そのためにエンジンは、速度の増減に係わらず高効率な回転域を保てる。しかしこのメリットを突き詰めると、アクセル操作とエンジン回転の音が同期せずに、ドライバーに違和感が生じてしまう。

そこでキックスe-POWERは、効率を下げないよう配慮しながら、ドライバーの操作や走行状態とエンジン回転をある程度同期させた。車両が相応の速度で走っている時は、エンジンを積極的に駆動して発電と充電を行うが、停車状態に近付くとエンジンも止める。

モーターの駆動力にも余裕があるので、登坂路などを除くと、アクセルペダルを深く踏む機会は少ない。モーター駆動だから、ノイズが小さく加速も滑らかだ。e-POWERの走りのメリットを実感できる。

燃費を稼ぎたいならSやECOモードを選択しよう

ノートe-POWERで感じられたギクシャク感は大幅に軽減

ブレーキペダルを踏んだ時に、回生充電量を増やすブレーキ協調制御は、相変わらず採用していない。そのために充電効率を高めるには、DやBレンジではなく、D・SやD・ECOを使う。このモードなら、アクセルペダルを戻した時に、即座に強めの回生が開始されて効率良く充電できる。

D・SやD・ECOでは、ブレーキペダルをほとんど踏まずにアクセル操作だけで速度を調節できるが、ノートe-POWERに比べるとこの制御も見直した。

ノートe-POWERでは、アクセルペダルを戻した瞬間、大きめの減速力が発生している。慣れないと車両の動きがギクシャクする面があったので、キックスでは初期の減速をマイルドに抑えた。アクセル操作による速度調節も容易になり、運転感覚が馴染みやすい。

日産 新型キックス

車高の高いSUVながら走行安定性も良好

キックスe-POWERは走行安定性も良好だ。

全高が1600mmを超えるSUVだが、安定性を保つために操舵に対する反応を鈍く抑える設定にはしていない。ハッチバックに近い感覚で向きが変わり、唐突にボディが傾く不安な挙動も抑えた。ボディの傾く角度は速度に応じて大きくなるが、常に穏やかに動くから、前後輪とも接地性を失いにくい。

峠道を走っても旋回軌跡を拡大させにくく、下りカーブで危険を避ける時も、後輪の接地性が高く安心できる。

またキックスはノートe-POWERよりも背が高いSUVなのに、車両の動きに粘りがあって安定性も上まわる。これらはいずれも、キックスe-POWERのためにボディ剛性を高めたり、サスペンションを変更した効果だ。

極端な燃費追及よりも乗り心地や安定感を重視したチューニング

キックスe-POWERの乗り心地だが、時速50キロ以下では路上の細かなデコボコを伝えやすいが、段差を通過する時の突き上げ感は抑えた。また時速60キロ以上になると快適性が高まる傾向がある。少し高めの速度域に重点を置いた。

タイヤサイズは17インチ(205/55R17)のみで、試乗車が装着していた銘柄はヨコハマ ブルーアースE70だ。指定空気圧は前輪が230kPa、後輪は210kPaになる。

最近は転がり抵抗を抑えて燃費数値を向上させるため、前:250kPa・後:230kPaといった設定も見受けられるが、キックスは適正だ。このタイヤサイズと指定空気圧、足まわりとの相性も、安定性と乗り心地に良い影響を与えた。特に後輪側は、210kPaに抑えたことで、適度に粘る安定性と粗さのない乗り心地を得ている。

開発者は「燃費数値を向上させるため、もう少し高めの空気圧も試したが、走りと乗り心地がダメになった」という。安定性、乗り心地、燃費を上手く調和させている。

[筆者:渡辺 陽一郎]

次回、8月6日(木)は、新型キックスのインテリアの質感や居住性能、価格面でのライバル比較をお届け! お楽しみに☆

© 株式会社MOTA