【MLB】大谷翔平の「屈曲回内筋群損傷」とは? TJ手術の権威が指摘「制球の悪さがきっかけ」

エンゼルス・大谷翔平【写真:AP】

約700例のトミー・ジョン手術を執刀した慶友整形外科の古島弘三医師に聞く

エンゼルスの大谷翔平投手は3日(日本時間4日)、MRI検査を受けた結果、右屈曲回内筋群の損傷と診断され、投球再開まで4~6週間を要することになった。前日2日(同3日)の本拠地・アストロズ戦に先発し、2回途中無安打5四球2失点で降板。降板後に右腕の違和感を訴え、MRI検査を受けるとチームが発表していた。

今季は60試合の短縮シーズンで行われているため、大谷が今季中に投手復帰することはほぼ不可能とみられる。4日(同5日)からの敵地・マリナーズ戦には同行し、様子を見ながらDHとして出場し続ける予定だ。

今回、診断された「右屈曲回内筋群の損傷」とは、どのような怪我なのだろうか。これまで約700例のトミー・ジョン手術を執刀し、野球における肩肘の障害を専門とする慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師に話を聞いた。

――「右屈曲回内筋群の損傷」とは、どのような症状なのか?

「屈曲回内筋群は前腕内側側副靱帯を覆っており、靱帯を守る役目も果たしています。通常では屈曲回内筋群に疲労が積み重なっていって、その筋肉に負荷がかかり、さらには肘の靱帯への負担が強くなって、肘の靭帯を痛めていくということが多くなります。

筋肉はグッと力を入れると縮んで膨らみます。上腕二頭筋の力こぶが分かりやすい例ですね。筋肉は力を入れたときに引っ張られる動作が加わると損傷したりします。投球動作の中でフォロースルーでは自然と腕は回内していきます。この時に屈曲回内筋群も補助として働きます。しかし、スライダーなどのボールを投げる時には、ボールに回転を加えるため、フォロースルーで自然に前腕が回内すべきところに逆の回外動作が入ります。この時、屈曲回内筋群に強い負担がかかる。今回はその繰り返しで負担が強くかかったのだと思います」

「損傷したからコントロールが悪くなったのではなく、コントロールが悪いことが損傷のきっかけに」

――今回の大谷投手の場合、投手復帰に向けて大きな不安材料となり得る損傷なのか?

「これが何回も続けば心配するべきでしょう。ただ、今回はすでにメジャーのマウンドに復帰を果たした。つまり、ここまで順調で、大谷投手本人はもちろん、チームの首脳陣、監督、トレーナー、ドクターがそれぞれ大丈夫だということであがったマウンド。だから、トミー・ジョン手術による後遺症ではなく、他に原因があると考えた方がいいと思います。

私は大谷投手を実際に診ているわけでも、本人から話を聞いたわけではありませんが、試合中継を見た感じでは、そもそもコントロールが悪かったことにきっかけがあるように思います。ストライクが入らないので、力んで投げてしまっているように見えました。連続四球で押し出しになって、変化球も少し強引に投げていましたよね。引っかけてワンバウンドになる球もありましたが、ああいう風に小手先を使って力を入れすぎて投げると、前腕の屈筋群に力が入ってしまいます。それが、今回痛めたストーリーだと思います。表情を見ていても、かなり力が入っていた感じを受けました」

――コントロールの悪さを修正しようと、力を入れて投げすぎたことにきっかけがある。

「損傷したからコントロールが悪くなったのではなく、コントロールが悪いことが損傷のきっかけになったということです。なので、なぜコントロールが悪くなったのかを考える必要があるでしょう。それは今、フォームを修正中だからなのか、フォームがまだ体になじんでいないのか。そこは分かりませんが、コントロールが悪くなった原因を解決していかないと、また同じことが起こるかもしれません」

――投手にとってフォームを変えることは一大事。

「フォームを大きく変えたら時間はかかるでしょうし、少し変えると言ってもなかなか難しいと思います。今回は思うように球をコントロールできなかったことで、力で抑えこもうとしてしまったのかもしれません。トミー・ジョン手術をしたから球が遅くなったという話ではないと思います。」

――リハビリ期間中も打者として試合に出場していたことが肘に負担を与えた可能性は?

「例えば、ものすごい数の素振りをするとか、ものすごい数のフリーバッティングをするとか、そういうことがなければ影響はないと思います。それよりも、今回はコントロールが悪くなった原因を究明することが大事ですね。手術した=コントロールが悪くなった、というわけではないので、このノースローの期間中に見直すべき点はあると思います」(佐藤直子 / Naoko Sato)

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