子どものために“リングフィット”を自作⁉︎ 育児に生かす「プロトタイピング」とは

子どもが喜ぶものを与えたい、というが親心というもの。でももしそれが世の中になかったら?そうしたらとりあえず試しにつくっちゃいましょう。それが「プロトタイピング」なのです。そしてこれを育児に応用するには……。

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「プロトタイピング」ってなんですか?

前回までの記事で何度か私の職業を紹介していますが、技術のなんでも屋さんとして、それこそいろいろな仕事をしています。なかでもよくやる作業のひとつに「プロトタイピング」があります。

「プロトタイピング」とはなんでしょう。よく試作品のことを「プロトタイプ」と言ったりしますが、それとなにが違うんでしょうか。試作品をつくることじゃないの?

今日はまず「プロトタイピング」とはなにかという話からはじめようと思います。「あれ?育児の記事じゃなかったの?」と思われるかもしれませんが、大丈夫。最後にはきちんと育児に着地しますので、よければ最後までお付き合いください。

すごいアイデアが思い浮かんだぞ!

突然ですが、あなたはスタートアップ企業の社長です。なにやらおもしろい製品のアイデアを考えついて、勢いで会社を立ち上げてしまった、せっかち社長さんです。

「とっても便利で世の中のニーズを捉えていてカッコいい製品を考えたぞ!これは売れる!」

なんて考えてワクワクしているわけです。さあ、さっそくその製品を世に出すために開発をはじめよう!……と言いたいところですが、ちょっと待ってください。そのアイデア、本当に「便利で」「ニーズがあって」「カッコいい」のでしょうか。

そもそも「便利」も「ニーズがある」も「カッコいい」も、こちら側が勝手に思っていることです。本当に「便利」で「ニーズがある」で「カッコいい」のかどうか、それを決めるのはユーザーです。つまりアイデアの時点では、「便利」も「ニーズがある」も「カッコいい」も、すべて「仮説」にすぎないわけです。

この「仮説」でしかないアイデアから何千万円や何百時間もかけて開発するのは、いささかリスキーですよね。そんなにお金と時間をかけて、もし全然受け入れられなかったら……。

なので、きちんとしたモノを開発する前に、本当にこのアイデアは「便利」で「ニーズがある」で「カッコいい」のか、それぞれの仮説をひとつずつ確かめていく必要があるんです。

この作業を「仮説検証」と言います。そしてこの「仮説検証」に最適なのが、「プロトタイピング」なんです。

あらためて「プロトタイピング」ってなんですか

「プロトタイピング」は試作品をつくることです。でもただ試作品をつくるのが目的ではありません。先ほど説明したとおり、「仮説検証」のための試作品をつくることが目的です。たとえば先ほどの例でいうと、

  • このサービスは本当に「便利」なんだろうか
  • このサービスは本当に「ニーズがある」のだろうか
  • このサービスは本当に「カッコいい」のだろうか

という仮説をそれぞれ検証するための最低限の機能をもった試作品をつくり、それらを使って自分たちで検証したりユーザーに試してもらって検証するのが「プロトタイピング」です。

そして、どんなタイプの仮説を検証するかによって、さまざまなタイプの「プロトタイピング」があります。

  • 製品の見た目を検証したい → コールド・モックアップ
  • 利用シーンを検証したい → ムービー・プロトタイプ
  • 技術的な実現可能性を検証したい → テクニカル・プロトタイプ

などなど。

なかでも一番はじめに取り組むことが多い、一番基本的なプロトタイピングが「ダーティ・プロトタイプ」です。

ダーティ(ひどい)・プロトタイプ

ダーティ・プロトタイプ takram design engineering『デザイン・イノベーションの振り子』(LIXIL出版、2014年)

ダーティ・プロトタイプは文字通り、「ダーティ(ひどい)」プロトタイプです。アイデアを思いついたあと一番はじめに、雑でもいいからとにかく素早く試してみるためのプロトタイプです。

人間、頭の中で想像するだけでは、わからないことがたくさんあります。そこで、なんとか同じような大きさや形になるよう、雑にプロトタイプをつくってみて、それを触ったり使う所作をしてみたりすることで、「あ、やっぱり便利そうだな」とか「うーん、あんまりよくないな」だとか「もう少しこの部分を工夫しよう」だとか、想像できるようにするのです。

ダーティ・プロトタイプには「こうつくらなくてはいけない」というルールはありません。段ボールやテープ、そこら辺にある文房具など、ただひたすら手に入りやすい材料を使って、細かいことは気にせず素早く組み立てて試してみるのが、ダーティ・プロトタイプです。この細かいことは気にせず、というところが「ダーティ」たるゆえんなのです。

ダーティなおもちゃづくり

話は変わりますが、私はTwitterで何人も「おもちゃ作家」さんをフォローしています。みなさん非常にアイデアあふれた可愛らしい素敵なおもちゃをつくられていて、いつも眺めながらうっとりしています。いつか自分もこんなおもちゃをつくれたらな……なんて思いを馳せてはいますが、その実、私には難しいだろうなと諦めたりもしています。

なんていったって、私はありとあらゆるセンスが壊滅的に欠如している人間です。小さいころからの悩みが「センスがないこと」で、これまで私の人生のなかでいくたびと出会うセンスのいい人たちを見ては、物陰からハンカチの裾を噛んでキーとしてきたような人間です。可愛らしいおもちゃや、あっと驚くアイデア満載のおもちゃなんて、到底つくれそうにありません。

でも、もしダーティ・プロトタイプみたいに、適当でも雑でもいいなら……。まずは雑に簡単につくってみて、もし子どもが気に入ってくれたら、少しずつ可愛くしていくのはどうかな。そんな思いから、ダーティにおもちゃをつくってみることにしました。

リングフィットアドベンチャーを一緒にやりたい

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突然ですが、リングフィットアドベンチャーはご存じでしょうか。そう、ガッキー(新垣結衣さん)のCMでおなじみの、Nintendo Switch を使ってトレーニングができる、あのゲームソフトです。私も年齢的には中年おじさんなので、おなかのお肉のひとつまみやふたつまみが気になるお年ごろ。そんなわけで、休日にリビングでフィットネスにいそしんでいたんです。

そうしたら、うちの娘がトコトコとやってきまして。このソフトで使う、リング状のコントローラー(通称リングコン)に興味を示したんですね。父ちゃんがフィットネスにいそしんでいるのを知ってか知らずか、私の手からリングコンを奪い去り、画面のマネをして押したり引いたり足踏みしたりしはじめたんです。

「もしかして、娘専用のリングコン(もどき)をつくったら一緒にリングフィットアドベンチャーができるのでは?これは、ダーティプロトタイプのチャンスじゃないか!」

と思い立ち、急遽100均で材料を買ってつくってみたダーティ・リングコンがこちらになります。

ダーティ・リングコンの名に恥じない、非常に簡素なつくりである

作り方は簡単。プラスチック製の黒いゴミ箱のふちを切り取って、スポンジテープを巻いただけ。材料費も100均で調達したので計220円(税込)。とっても安上がりに済みました。

ゴミ箱を切ったところ

結論から言うと、この「ダーティ・リングコン」は失敗でした。娘も2度くらいは使ってくれたのですが、どうも本物のリングコンにジョイスティックやボタンがついてるところがよいらしく、やはり本物が奪われてしまいます(笑)。しかもスポンジテープのくっつきが悪く、しばらくすると徐々にはがれてしまいました。これでは、ずっと使うのは難しそうです。

よく見るとすでにスポンジがはがれていることがわかります(笑)

でも素早く失敗して、そこから学ぶことがプロトタイピングの本質です。今回で「ジョイスティックやボタン」が気に入っていることがわかったので、次回はその部分をつくれば気に入ってくれるかもしれません。また「スポンジテープ」は巻き方を工夫して、はがれにくくする必要があることも学べました。

このように、プロトタイピング的にさくっと試してみて、実際に子どもに使ってもらうことで改善点を考えていける。これが冒頭に説明した「仮説検証」なんです。センスがあまりなくても、こうやって少しずつ検証していき、ユーザー(娘)にとって楽しめるおもちゃをつくっていけたらいいなと思います。

と、言いつつ失敗例だけで終わってしまうのは心もとないので……。うちで成功したダーディなおもちゃづくりの例もお見せします。

こちら、おむつをまとめ買いしたときの段ボールがよいサイズ感だったので、おままごとキッチンに改造してみたものです。さっきのリングコンよりは少し複雑ですが、それでも段ボールとグルーガンだけで、1時間くらいでつくれました。

つくったのが、娘が1歳と2か月くらいのころだったので「まだ、おままごとは早いかな」と思っていたのですが、意外にも使ってくれて料理の真似事なんかをしてくれました。なので、後からいろいろアイテムを買い足したり、新たにシンクもつくってみたり。少しずつ改良を加えて、現在ではこんな感じになっています。

現在はこんな感じ

子どもの反応に合わせて、日常のなかで少しずつアップデートしていけるのも、ダーティなおもちゃづくりならではと思っています。

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