新型コロナが離婚相談の実務に与えた影響とは 中里妃沙子弁護士インタビュー

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新型コロナウイルスの感染拡大により、在宅勤務によるストレスなどの影響で夫婦関係が悪化したことに起因する「コロナ離婚」が増加するのではないかという見方がある。離婚分野に詳しい中里妃沙子弁護士は、「新型コロナウイルスの影響で離婚したいと考えるようになったというより、(もともとあった)離婚したいという思いをコロナウイルスの感染拡大が後押ししたのではないか」と分析する。新型コロナウイルスが離婚の事件に与えた影響や、弁護士が注意すべき点などについて詳しく聞いた(2020年8月3日インタビュー実施)。

4月と5月は相談が激減、オンラインや電話での相談も少なく

ーー新型コロナウイルス感染拡大が始まった3月以降を振り返って、離婚に関する相談件数に影響はあったか。

4月や5月は外出自粛が求められていたこともあり、相談件数はかなり減りました。私の事務所では、緊急事態宣言が出る前からオンラインや電話での相談にも対応していることをホームページなどで紹介していましたが、それでも相談は少なかったです。

実際に相談に来られた場合でも、アクリル板を設置した相談室で対応し、お茶もペットボトルで提供するなど、感染拡大防止対策をとっていました(※写真参照)。

離婚相談の特徴でもありますが、電話相談よりは、直接会って話を聞いてほしいと考えている人が多いのでしょう。また、テレワークが始まったことで配偶者と一緒に自宅にいる時間が増えて、外出もできないため、電話やオンラインであっても相談できないという背景があったのではないかと思います。

ゴールデンウィークが過ぎたあたりから、徐々に相談が増え始め、6月の相談件数は従前と同じくらいまで戻りました。7月に入り、また感染者が増加し始めましたが、相談件数に大きな変化はありません。

ーー新型コロナウイルス感染拡大は相談内容にも影響を及ぼしているか。

「新型コロナウイルスの影響で『コロナ離婚』が増える」などと言われていましたが、新型コロナウイルス感染拡大が原因で離婚したいと初めて考えた人は少ないように思います。

多いのは、「すでに離婚を考えていたが、新型コロナウイルスの影響で離婚したいと思う気持ちがより強くなった」「離婚したいという願望が、確信に変わった」という人です。離婚したいと考えていても踏み切れなかった人が、テレワークが始まったり、外出自粛が求められたりする中で、配偶者と一緒にいる時間が増え、離婚したい気持ちが後押しされたのでしょう。

例えば配偶者からモラハラやDVを受けていたケースでは、新型コロナウイルスによるストレスで、さらにひどくなったという事例もあります。そうした方は、配偶者のストレスのはけ口になっている状況に耐えられなくなり、かなり精神的に逼迫した状況で相談に来ています。

逆に、すでに別居していて離婚を検討している人の中で、今すぐ離婚するのを思いとどまる人もいました。新型コロナウイルス感染拡大により、これから先、世の中がどのように変わっていくのかわからない状況の中で、今の条件で離婚していいのか冷静に見直したいと考えているのでしょう。

ーー面会交流や養育費の金額、支払いなどにも影響はあったか。

大きな影響を受けたのは面会交流です。直接会う面会交流がほぼなくなり、オンライン面会に変わりました。「感染防止に注意するから実際に会いたい」と希望する人もいますが、「直接会いたい」と申し入れること自体が非常識だという雰囲気もあるように感じています。

今後は、「ウィズコロナ」と呼ばれる状況にある中で、直接の面会交流がどの程度できるかは、今のところ手探り状態です。ある程度、感染者が減少したとしても、親権者が「まだ感染の危険がある」と考えれば、オンライン面会しかできない状況は、しばらく続くのではないでしょうか。

ただ、オンライン面会では一緒に遊べないし、子どもは飽きっぽいので、直接会うよりも話はすぐに尽きてしまいます。オンライン面会を行うのであれば、直接の面会交流をするよりも、何らかの工夫が必要になってくると思います。

一方で、現在のところは新型コロナウイルスの影響で、養育費が減額になったり、支払いが滞ったりするようになったというケースは少ないと感じています。今後も養育費への影響はあまりないかもしれません。

漫然と調停に向かうのではなく、明確なビジョンと準備が重要

ーー離婚事件を取り扱う弁護士に対してはどのような影響があったか。また注意すべき点はあるか。

4月や5月は調停と裁判の期日がほとんど取り消されました。判決の言い渡しさえも延長されています。

弁護士の一般的な収入は、着手金と成功報酬です。つまり事件の最初と最後にお金を受け取ります。もともと離婚は解決までに長期化するケースが多いため、今回の新型コロナウイルスによる期日の取消、日程の再調整などが続くと、さらに解決までに時間がかかってしまいます。

つまり、依頼者は離婚したくてもできないし、弁護士も報酬を受け取るタイミングがどんどん遅れます。事務所の規模によっては、経営に影響が出ている可能性もあるでしょう。

離婚調停に発展していても、相手方に代理人がついている場合など、コミュニケーションが取れる状況であれば、協議離婚として決着をつけることにチャレンジするべきだと考えています。

協議離婚であれば、裁判や調停のスケジュールに合わせる必要がないので、相手方との話し合いをスムーズに進められれば、解決までの期間を短くできます。もちろん、依頼者は興奮している状態で相談に来られるケースが多いので、まずは気持ちを落ち着かせることが大切です。気持ちが落ちついて、離婚の条件について考える余裕ができれば、相手方との話し合いを加速化するべきです。

また、調停を行う場合でも、次の期日までの期間を有効に使わなければなりません。

調停はすでに再開していますが、取り消されていた期間の影響はまだ続いています。これまでは1か月に1回程度、期日が設定されていましたが、今は2か月に1回程度になっています。また、4月に申し立てた事件で、1回目の期日が4か月後の8月に開かれるケースもあり、通常のサイクルに戻るまで、まだ時間がかかると思います。

弁護士としては、次回の期日で何を話し合い、どこまで決めるかなど、期日と期日の間に相手方とすり合わせた上で、調停に臨むべきだと思います。

「裁判所の動きが遅い」「調停委員の対応が悪い」といった不満を持つ弁護士もいるようですが、たとえば、2か月ほど調停が開かれていないのであれば、その間に相手と協議を進め、協議の内容を書面としてまとめておくこともできるはずです。

調停が開かれれば、その書面を資料として提出し、どこまで話し合いが進んだかを明確にしておけば、その後の話し合いもスムーズにできるでしょう。依頼者にとっては解決までの期間が短くなるし、弁護士としても報酬を受け取れるタイミングを早くできます。

漫然と調停に向かうのではなく、明確なビジョンを持って、準備しておくことが重要です。

手続きのオンライン化を迅速に進めるべき

ーー最後に、裁判所の手続きについても改善点はあるか。

手続きのオンライン化をどんどん進めるべきだと思います。

たとえば、調停の手続きは、申立人と相手方が交互に調停委員と話し合いをするシステムなので、相手方が話している間は待合室にいなければなりません。1回の期日で2時間程度かかるため、1時間は待合室に入ることになり、これは大きな時間のロスにつながります。すでに電話会議やテレビ会議のシステムが導入されていますが、設備が整っているわけではありません。

民事裁判ではオンライン化が進められていますが、家事事件の手続きにまでまだ及んでいません。新型コロナウイルスによる影響をきっかけにして、迅速にオンライン化を進めてほしいと思います。

中里妃沙子弁護士プロフィール:東北大学法学部(法学士)、南カリフォルニア大学ロースクールLLMコース(法学修士)卒業。吉峯総合法律事務所、東京ふじ総合法律会計事務所を経て、09年7月に丸の内ソレイユ法律事務所を開設。離婚分野を中心に取り組み、著書に「女性弁護士がわかりやすく書いた!離婚したいと思ったら読む本」(自由国民社)などがある。

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