兵士役は若手スターの登竜門⁉戦争映画から羽ばたいた若き男優たち

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サム・メンデス監督が第一次世界大戦を描き、第92回アカデミー賞で撮影賞など三部門に輝いた「1917 命をかけた伝令」のブルーレイ&DVDがリリースされる。ドイツ軍の罠を前線の部隊に知らせる伝令役で主演し注目された二人の若手俳優を筆頭に、戦争映画への出演でステップアップした俳優たちを紐解いてみよう。(文・松坂克己/デジタル編集・スクリーン編集部)

記憶に新しい「1917」&「ダンケルク」ボーイズ

英国の若手&ベテランが揃い踏み

「1917 命をかけた伝令」(2019)

「1917 命をかけた伝令」(2019)ではイギリス出身の2人の20代の若手が伝令役で主演し、映画ファンの注目を集めた。なんとか目的地にたどり着くスコフィールド役のジョージ・マッケイはこれ以前にも「はじまりへの旅」(2016)「マローボーン家の掟」(2017)などで知られていたが、「1917」と前後して『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』(2019)『ア・ガイド・トゥ・セカンド・デイト・セックス』(2019)と主演作を連発、リリー・ローズ・デップ共演で自らを狼だと信じる少年に扮した『ウルフ』の製作がアナウンスされる売れっ子ぶり。

ジョージ・マッケイ

たくましい生命力で戦場を駆け抜けるスコフィールド役のマッケーは、「はじまりへの旅」「マローボーン家の掟」(写真)できょうだいの長男を演じている

かたや前線部隊に兄のいるブレイク役のディーン=チャールズ・チャップマンは大人気TVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のトメン・バラシオン役で美少年ぶりが話題になっていたが、こちらも先日公開されたばかりの「カセットテープ・ダイアリーズ」(2019)やティモシー・シャラメらと共演した「キング」(2019/Netflix独占配信中)など出演作は続々、ダブリンの少年に扮したドラマ『ヒア・アー・ザ・ヤング・メン』の撮影も終わっている。

ディーン=チャールズ・チャップマン

前線にいる兄を探す兵士ブレイク役を演じたチャップマンの代表作は「ゲーム・オブ・スローンズ」のバラシオン家の次男トメン(第4章から登場)

「1917 命をかけた伝令」ブルーレイ+DVD
2020年8月5日(水)発売

販売:NBCユニバーサル価格:4,527円+税(2枚組)特典:サム・メンデスの情熱、メイキング他

英国男優ブームを加速させた傑作

「ダンケルク」(2017)

こういった戦争映画での若手ブレイクといえば、やはり思い起こされるのはクリストファー・ノーラン監督が第二世界大戦での連合国側の大撤退作戦を陸・海・空の三部構成で描いた「ダンケルク」(2017)。人気グループ〝ワン・ダイレクション〞のハリー・スタイルズは別として、ほぼ無名の若手たちがこの映画をジャンプボードに巣立っていった。

冒頭から登場し街なかを逃げ回る英国兵トミーを演じたフィン・ホワイトヘッドはこの後ウィル・ポールター共演のSFミステリー「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」(2018/Netflix独占配信中)、ベン・チャップリンと共演したアドベンチャー・ドラマ『ロード』(2019)などの主演作を送り出している。

フィン・ホワイトヘッド

当時無名だったホワイトヘッドは「ダンケルク」の翌年、「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」(Netflix独占配信中)でも主演に抜擢されるなど大躍進

そのトミーが海岸で出会ったギブソンと名乗る兵士に扮したアナイリン・バーナードもモーツァルト役の「プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレード」(2017)、トム・ウィルキンソン共演のクライム・コメディー「やっぱり契約破棄していいですか⁉」(2018)に主演、キュリー夫妻のドラマ『レディオアクティブ』(2019)、アンセル・エルゴートら共演のドラマ『ザ・ゴールドフィンチ』(2019)、十七世紀が舞台のTVシリーズ『バークスキンズ』(2020〜)などが控えている。

アナイリン・バーナード

ホワイトヘッド演じる二等兵と行動していたギブソン役のバーナードは、翌年「やっぱり契約破棄していいですか⁉」でチャーミングな崖っぷちの小説家に

撤退作戦のため徴用された小型船の持ち主の息子ピーター役のトム・グリン=カーニーは「トールキン 旅のはじまり」(2019)でもトールキンの親友の一人でこれまた戦場に行く男を演じ、「キング」では「1917」のD・C・チャップマンと共演している。

トム・グリン=カーニー

その小型船にピーターと一緒に乗ったジョージ役のバリー・コーガンはコリン・ファレル主演のヨルゴス・ランティモス監督作「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」(2017)、エヴァン・ピーターズ共演の犯罪ドラマ「アメリカン・アニマルズ」(2018)で印象を残し、最近は話題のTVシリーズ「チェルノブイリ」にも出演中。

バリー・コーガン

スピットファイアのパイロットを演じたジャック・ロウデンは「イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語」(2017)、サスペンス「最悪の選択」(2018/Netflix独占配信中)といった主演作以外にも「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」(2018)「ファイティング・ファミリー」(2019)などでキーとなる役を演じている。最新作はトム・ハーディ主演の『カポネ(原題)』(2020)だ。

ジャック・ロウデン

トム・ハーディと共にスピットファイアを駆ったロウデンも本作でブレイク。主演作「イングランド・イズ・マイン」をはじめ出演作が日本でも続々公開された

2000年代の戦争映画でブレイクした俳優たち

さて、それでは2000年代に入ってからどんなスターが戦争映画をきっかけにステップアップしていったかを見てみよう。

コリン・ファレル

「ジャスティス」のコリン・ファレル(左)。公開当時のチラシには“ 新鋭” と記されていた

ベトナム出兵前の兵士の姿をジョエル・シュマッカー監督が描いた「タイガーランド」(2000)はコリン・ファレルが主演したが、彼はその後も第二次大戦の捕虜収容所を舞台にしたブルース・ウィリス主演の「ジャスティス」(2002)や「戦場カメラマン 真実の証明」(2009・日本はDVD公開)といった戦争関連の作品に出ており、主演作を連発するようなスターに成長した。

ジョシュ・ハートネット

「パール・ハーバー」「ブラックホーク・ダウン」(写真)と相次いで戦争映画に主演した

リドリー・スコット監督がソマリア内戦に軍事介入した米軍の作戦で起こる悲劇を描いた「ブラックホーク・ダウン」(2001)はジョシュ・ハートネットが主演。この作品ではトム・ハーディとニコライ・コスター=ワルドーがハリウッド・デビューしていることも忘れてはいけない。ハートネットは同じ年に第二次大戦開戦の様子を描いた「パール・ハーバー」(2001)にも出演している。

トム・ハーディー(右)は本作でハリウッドデビュー。左は「トレインスポッティング」のユエン・ブレムナー

朝鮮戦争を舞台にしているのはチャン・ドンゴンウォンビンが主演した「ブラザーフッド」(2004)。ドンゴンはこの作品以降、チェン・カイコー監督の「PROMⅠSE/プロミス」(2005)のような大作に出たり異色西部劇「決闘の大地で」(2010)でハリウッドに進出するようになった。

チャン・ドンゴン&ウォンビン

両者それぞれのターニングポイントとなった「ブラザーフッド」

また、ウォンビンはそれまで主にTVで活躍していたのだが、これを機にポン・ジュノ監督の「母なる証明」(2009)、サスペンス・アクション「アジョシ」(2010)と映画に軸足を移していった。「1917」のサム・メンデス監督が湾岸戦争を舞台に米海兵隊員の姿をほぼ戦闘シーンなしで描いた「ジャーヘッド」(2005)に主演したジェイク・ギレンホールも、この後「ブロークバック・マウンテン」(2005)でオスカー候補になり演技派として認められていった。

ジェイク・ギレンホール

「ジャーヘッド」の主演を経て、オスカー候補になったギレンホール。本作で見事な肉体美も披露している

少女の嘘が悲劇を呼び起こした「つぐない」(2007)で最前線に送られる兵士となったジェームズ・マカヴォイは、この作品でゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞の候補となって演技力を認められ、「ラブストーリーズ」二部作(2013)のような文芸的作品から「X–MEN」シリーズのようなブロックバスターまで、幅広い作品に起用されるようになった。

ジェームズ・マカヴォイ

ある一つの嘘から人生を狂わされる青年を繊細に演じた「つぐない」で、その名を世界に広めた

アカデミー賞で作品・監督賞などに輝いた「ハート・ロッカー」(2008)に主演したジェレミー・レナーは自身も初の主演男優賞ノミネートとなり、「アベンジャーズ」や「ミッション:インポッシブル」といった人気シリーズにも起用されるようになっていった。この「ハート・ロッカー」には、後にMCUで共演するアンソニー・マッキーも出ていた。

ジェレミー・レナ―

自身初のオスカー候補にもなった「ハート・ロッカー」への出演が「アベンジャーズ」など大作への足掛かりに

「アベンジャーズ」シリーズのファルコン役でおなじみアンソニー・マッキーも出演

スティーヴン・スピルバーグ監督の「戦火の馬」(2011)で主演に抜擢されたジェレミー・アーヴァインは、この後「追撃者」(2014)「ストーンウォール」(2015)などを経て「マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー」(2018)「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」(2018)といった話題作に出演している。

ちなみに「戦火の馬」にはブレーク直後のベネディクト・カンバーバッチトム・ヒドルストンも出ているのでお忘れなく。

「パーシー・ジャクソン」二部作(2010、2013)などのボーイズ・スターだったローガン・ラーマンも、ブラッド・ピット主演の第二次大戦ドラマ「フューリー」(2014)に新たに配属された戦車兵役で出演、一皮剥けた魅力を見せた。

ローガン・ラーマン

ブラッド・ピットと共演した「フューリー」では日々成長する戦車兵として、新たな一面を見せた

エル・ファニングと共演したサスペンス「シドニー・ホールの失踪」(2017・日本はDVD公開)では製作にも進出、最近はTVシリーズ「ナチ・ハンターズ」(2020)でアル・パチーノ、レナ・オリンらと共演している。

アカデミー賞二度受賞のマハーシャラ・アリも、マシュー・マコノヒー主演の南北戦争が舞台のドラマ「ニュートン・ナイト 自由の旗を掲げた男」(2016)に出演して注目され、この後は続けて「ムーンライト」(2016)「ドリーム」(2016)「グリーンブック」(2018)と一気に花開いていった。

マハ―シャラ・アリ

「グリーンブック」の気品あふれるピアニスト役がハマっていたアリ。「ニュートン・ナイト」でも気高い魂を持つ逃亡奴隷を存在感たっぷりに演じた

アン・リー監督作なのになぜか日本では劇場未公開でDVDスルーだった「ビリー・リンの永遠の一日」(2016)で主演に抜擢されたジョー・アルウィンは、以後「女王陛下のお気に入り」「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」「ある少年の告白」(いずれも2018)「ハリエット」(2019)と話題作に立て続けに出演している。こうして見ると、やはり戦争映画は若手ブレイクのかっこうのテーマと言えるだろう。

ブレーク前夜の若き姿を発見!戦争映画に出演していたスターたち

「プラトーン」のジョニー・デップ(右)

いまやトップスターになっている面々にも若き日に戦争映画に出ていた人もいる。まず有名なところではジョニー・デップ。オリヴァー・ストーン監督がベトナム戦争を題材にした名作「プラトーン」(1986)に通訳係の兵士ガーター・ラーナーというちょい役で出演。これはストーン監督直々のご指名だったとか。

「プライベート・ライアン」のマット・デイモン(右)とヴィン・ディーゼル

スピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」(1998)にはマット・デイモンとヴィン・ディーゼルが出演。デーモンは救出対象のジェームズ・フランシス・ライアン二等兵役、ディーゼルは救出隊の一員で敵に狙撃されるエイドリアン・カパーゾ二等兵役だった。

「シン・レッド・ライン」のジャレッド・レト(左)

テレンス・マリックの20年ぶりの監督作となった「シン・レッド・ライン」(1998)にはジャレッド・レトが顔を見せていた。ガダルカナル島の日米の激戦を描く中、レトはホワイト少尉という将校に扮していた。ベトナム戦争を舞台に無名に近い俳優たちが大挙出演した「ハンバーガー・ヒル」(1987)にはドン・チードルが出ていた。

「ハンバーガー・ヒル」のドン・チードル(左)