54年前の今日(8月5日)はビートルズ『Revolver』の発売日:この名作を振り返る

筆者が人生で初めて「Taxman」の冒頭の数小節を聴いた場所は正確に覚えている。友達の家で卓球で遊んでいた時に、彼の兄が南ロンドンの地元のレコード・ショップで買ってきたばかりのアルバムをその場で再生したのだった。

『Revolver』がリリースされたのは1966年の8月5日で、私が初めて「Taxman」を聴いたのがいつだったのかは覚えていないが、発売からそう長くは経っていなかっただろうと思う。1966年の夏休み中で、私は感受性の高い15歳だった。その2、3月前にザ・ビートルズの「Paperback Writer」が数週間に亘って1位を獲得していて、私のお気に入りの曲のひとつでもあった。

何が『Revolver』を重要にさせているのか?

一体何が『Revolver』をそこまで重要で、素晴らしいアルバムにさせるのか?まず手始めに「I’m Only Sleeping」の逆再生ギターソロや全く異色の名曲「Tomorrow Never Knows」など、このアルバムによってサイケデリック・ミュージックが世界に知られることになった。ジョンの歌声は完璧で、その風変わりな作風は1966年の夏に初めて聴いた時と同じくらい今でも新鮮に感じられる。

「Taxman」はジョージ・ハリスンが書いた曲であり、今作に収録されている14曲中、実に3曲を彼が手掛けていることを知らなかった方も多いのではないだろうか、私自身もそうだった。この曲はジョージにとって2番目のラヴ・ソングではない曲で、当時ハロルド・ウィルソン政権の下、イギリスの労働党が富裕層に高い税金を義務づけていたことについての歌で、そのMr.ウィルソンが歌詞にも登場する。当時のザ・ビートルズの収入は、イギリスにおける高額納税者のTOPリストに入るほどだったのため、彼らの稼ぎは、毎1ポンドにつき、95セントの税金が課せられていたことになる。「1をあなたに、19を私に /  There’s one for you, nineteen for me」

「Love You To」は従来の”愛”の主題に戻った歌詞の内容になってはいるが、インドの楽器を使っている点が他とは異なっている。1965年10月にはアルバム『Rubber Soul』に収録の「Norwegian Wood (This Bird Has Flown)」でジョージ・ハリスンがシタールを演奏していたが、この「Love You To」では、インドの古典楽器で、2種類の太鼓がペアになっているタブラと、ブーンという音を出すタンブラを演奏し、インドの古典音楽の影響が全編を通して反映されている初のザ・ビートルズ楽曲となっている。

ジョージ・ハリスンによる3曲目は「I Want To Tell You」で、この曲も従来の楽曲とは違い、ジョージ・ハリスンの創造力が歌詞と楽曲の両方で十二分に発揮されている。 

 

こんなレコードは当時存在しなかった

「Eleanor Rigby」は傑作で、ポール・マッカートニーの書いたこの楽曲からはただただ洗練されたものが滲み出てくるかのようで、あの頃そんな曲は他に存在しなかった。アルバムにあわせてリリースされたこのシングルは、イギリスで1位を獲得し、両A面シングルとして収録されていたのが、同じく『Revolver』からの「Yellow Submarine」だった。ジョン・レノンによれば、この曲も「ポールの産んだ子」であり、逆サイドのシングルとは全く異なる作風になっている。ただ、アルバムのクレジットには、”レノン&マッカートニー”とだけ書かれていたために、当時の私たちは全曲がジョンとポールによる共作だと思い込んでいた。 

後にポール・マッカートニーは当時を振り返って、「あの曲を思い付いた時、僕はピアノに座っていたんだ。最初の数小説が浮かんできて、それから”Daisy Hawkins picks up the rice in the church”っていう部分の名前を思い付いて、何故だかわからないけど、それ以上は何も浮かんでこなくて、一日放置したんだ」と語っている。この曲は後に映画『イエロー・サブマリン』で紹介されている。1968年7月に公開された今作の超現実的且つ画期的なアートワークを手掛けたのは、アート・ディレクターのエーデルマン・ハインツだった。

『Revolver』収録のもうひ1曲の傑作「Here, There And Everywhere」は、ジョン・レノンとポール・マッカートニーが、ブライアン・ウィルソンの最高傑作で、1966年5月にイギリスに先立ってアメリカでリリースされたビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』をブルース・ジョンストンによって聴かされた直後にイントロを書き上げた曲だった。 

サイド2は「Good Day Sunshine」で始まり、「And Your Bird Can Song」へと続く。両方とも素晴らしいポップ・ソングで、それぞれ2分と2分8秒と短い尺だが、完璧なものは無駄に長くある必要はないのである。

ジョン・レノンとポール・マッカートニーによる「Doctor Robert」は曲の真意を当時理解しているものはほとんどいなかった曲のひとつだが、とにかく素晴らしくよく出来た曲だと感じられた。「Got To Get You Into My Life」も同様で、このアルバムの収録曲のほとんどが3分未満の尺で構成されいたが、「I’m Only Sleeping」だけは3分ちょうどだった。 

1966年夏、『Revolver』がイギリスとアメリカの両チャートで首位を獲得した時、世間は本能的に時代が変わりつつあることを悟った。合わせてビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』が『Revolver』の直前にイギリスで発売され、まさに人生が変わるような出来事の連続だった。この両アルバムのリリースより、ポップ・ミュージックの存在価値が全く変えられていったのだ。

私はこのような素晴らしい作品をあの当時も、そして現在でも人生のサウンドトラックとして生きていることを光栄に思っている。『Revolver』を奏でれば、どんなときも素晴らしい体験をできる。そして、全てのポップ・ミュージックの傑作がそうさせてくれるように、精神の高まりを感じ、何でも出来てしまうのではという気分になる。

Written By Richard Havers

© ユニバーサル ミュージック合同会社