肥薩線復旧への道筋見えず 豪雨で不通、地元から存続望む声

©株式会社熊本日日新聞社

球磨川の氾濫で駅舎が跡形もなく流されたJR肥薩線の瀬戸石駅一帯=7月19日、八代市坂本町(小野宏明)
JR肥薩線の不通で人影がないJR人吉駅前。手前の店舗も水害に遭ってシャッターが下りたままだ=1日、人吉市

 豪雨災害に見舞われた熊本県南地域の3鉄道のうち、JR肥薩線の不通区間は、発災から1カ月を経過しても復旧への道筋が示されていない。球磨川の鉄橋2本が流されるなど、被害が特に大きかったためだ。経営が厳しい赤字路線には災害を機にバスへの転換を余儀なくされたケースもあるが、被災地からは「肥薩線がなければ観光や生活は元に戻らない」と鉄路存続を望む声が上がる。

 1日の昼下がり。最大の被災地となった人吉市の玄関口、JR人吉駅には人影がまばらだった。不通となった八代-吉松(鹿児島県湧水町)間86・8キロの中間地点。本来なら夏休みに入り、「SL人吉」などの観光列車に子どもらの笑顔があふれている時期だ。

 「昨年とは大違いで寂しか。人吉じゃないみたいだ」。栗めしが名物の「人吉駅弁やまぐち」で、従業員の田川光枝さん(71)はため息をつく。  球磨川から約400メートル離れた駅の周辺にも濁流が流れ込んだ。白壁の駅舎や隣接する同店は大きな被害を免れたが、被災してシャッターが下りたままの店舗も少なくない。

 「天守閣」の屋号でホテルや土産店を営む岩本法悦さん(88)は「何とかここで再建するつもりだが、肥薩線が早く復旧しないと厳しい」とつぶやいた。

 「復旧には、1年以上はかかるだろう」。JR九州の青柳俊彦社長は7月下旬の記者会見で、肥薩線再建の長期化を示唆した。九州の鉄道は自然災害が多いが、今回の豪雨は肥薩線と久大線の計128キロで復旧の見通しが立たないなど、とりわけ被害規模が大きい。

 同社によると、肥薩線で確認された被害は450カ所。球磨川第一橋梁(八代市坂本町)と第二橋梁(球磨村)が流されたほか、瀬戸石駅(坂本町)は跡形もなく崩壊。線路を支える路盤も至る所で損傷を受けた。

 復旧には多額の費用がかかるとみられる。2016年の熊本地震で被災した豊肥線の復旧費は約50億円。被災した赤字路線の復旧費を国と地元自治体が4分の1ずつ支援する18年施行の改正鉄道軌道整備法を活用し、今月8日の全線復旧にようやくこぎつけた。

 一方、17年の九州北部豪雨で不通となった大分県などの日田彦山線の一部区間は、地元自治体との協議の末、バス高速輸送システム(BRT)への転換が決まった。鉄道で復旧した場合の営業赤字がネックになった。

 肥薩線は「日本三大車窓」や球磨川沿いの美観を生かした複数の観光列車があり、人吉球磨地域の重要な観光資源になっている。一方、八代-人吉間の営業赤字は18年度5億7300万円で、JR九州が公表した17線区のうち2番目に大きい。

 さらに、同社は新型コロナウイルス感染拡大に伴う鉄道収入などの減少で経営環境が悪化しており、被災路線の復旧費は一層の負担要因となりそうだ。

 青柳社長は「どういう形になるか最終的には地元の皆さまと決めたい」と述べ、関係自治体の意向も踏まえて再建の在り方を探る方針を示している。

 これに対し、沿線市町村と利用促進策を模索していた県は「生活の足に加え、観光路線として大きな役割がある」(交通政策課)と、鉄道での復旧を求めていく考えだ。(内田裕之、宮崎達也)