テスラの時価総額トヨタ超え、「グロース株」優位はいつまで続く?

銘柄の特性がどれだけのリターンを獲得しているかを測る「ファクターリターン分析」という手法があります。ファクターリターンの大きさを見れば、市場でいまどのような特性の銘柄が人気を集めているのかを知ることができます。

直近でファクターリターンの高いものは、モメンタム(過去1年リターン)やROEなどです。反対にファクターリターンが低いのはバリュー系のファクター(PBRや配当利回り)です。これが示しているのは、成長株やクオリティ(高ROE)株の順張りが奏功しているということです。


常に有効な投資指標はない

従来、ファイナンス理論では小型株とバリュー株が市場を上回るリターンを獲得できるとされてきました。ユージン・ファーマとケネス・フレンチという経済学者が90年代前半に発表した論文で明らかにした事実で、それ以来、株式のリターンを説明するにはこの小型株効果とバリュー株効果を考慮するのがデファクトスタンダードになっています。

ところが現在のマーケットでは逆のことが起きています。特にバリュー系のファクターはまったく効きません。ここからわかることは、常に有効な投資指標はないということです。それはある意味、当たり前のことかもしれません。

常にバリュー株がグロース株より高いリターンをあげるなら、だれもグロース株を買わず、反対にみんながバリュー株を買うでしょう。そうなればバリュー株の株価が上昇し、グロース株の株価は下落し、その結果、両者の差がなくなってしまうでしょう。

ずいぶん前の話になりますが、バリュー/グロースというスタイルの議論は意味がないという論争がありました。バリュー/グロースというのはPBRの高低で決められています。P(株価)に比べB(純資産)はあまり大きく動きませんから、PBRはほぼ株価に合わせて変動します。

株価が下がった銘柄がバリュー株になり、株価が上がった銘柄がグロースに分類されることになります。ところが日本株市場では「リターン・リバーサル」が頻繁に起こるため、上がった銘柄はそのうちに下がり、下がった銘柄が上がることになります。よってバリュー/グロースというのはファクター効果ではなく、単にリターン・リバーサルだという説もあります。

このようにバリュー/グロースというのは、ある意味、表裏一体なのです。例えばいまは成長株優位の展開ですが、その理由はバリュー株投資が機能しなくなったことの裏返しではないでしょうか。

<写真:ロイター/アフロ>

グロース株投資が重視すること

バリュー株とは割安株とも呼ばれ、将来利益や純資産などで評価した企業価値に比べて、株価が割安に放置されている銘柄に投資するものです。しかし、コロナが世の中を一変させ業績見通しの開示を見送る企業が続出しました。

アナリストが予想しようにもそのベースとなる経済の見通しが極端に不透明です。当然、業績予想もかつてないほど不確実性の高いものとなります。企業業績の予想が当てにならないなら、株価が割安かどうかを判断できません。

それに対してグロース株投資は、PERなどの尺度よりも成長のための「エクイティ・ストーリー」を重視します。その企業の事業は世の中の役に立ち必要とされるか、製品・サービスの競争力はどうか、など「数字」ももちろん大切ですが、長期的に成長していけるかどうか、企業理念も含めて総合的に評価します。

特に昨今の株式市場では企業価値を財務指標で説明できる割合が低下し、非財務情報の重要性が増しています。非財務情報とは、例えばバランスシートに載らない無形資産(例えばブランド価値)や財務資本以外の資本(例えば人的資本)、よく知られるようになったところではESGなどです。通年でやっと黒字になったばかりのテスラの時価総額がトヨタ自動車の時価総額を上回ったことが、それを雄弁に物語っています。

ただし、前述したようにファクターリターンの効果もいつ潮目が変わるかわかりません。重要なことは物色傾向の変化は相場の大きな転換点で起きてきました。例えば2016年夏にはファクターリターンの大規模な逆転現象が起きましたが、そこが相場の大底になりました。いまの成長株物色が転機を迎えるときは相場全体にとっても重要な局面となるでしょう。

<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>

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