今季もルーキー当たり年のインディカー。若手ドライバーたちがベテラン優位の勢力図をかき回す

 6月上旬にテキサス・モータースピードウェイで開幕を迎え、6戦を終えたNTTインディカー・シリーズ。昨年に引き続き、今年もルーキー当たり年のようだ。

 日本のスーパーフォーミュラ出身のアレックス・パロウ(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・チーム・ゴー)は開幕3戦目にして3位フィニッシュして表彰台を獲得。

 優勝の可能性すらあったレースで、翌日のレース2ではポールポジション争いも行った。全長が4マイル以上とアメリカにしては長く、マスターが難しいと言われているロード・アメリカでの活躍により早くも逸材であることを証明した彼は、アメリカでの注目度も急上昇している。

アレックス・パロウ(デイル・コイン・ウィズ・チームゴウ)
暑さのために頭を丸めたオリバー・アスキュー(アロウ・マクラーレンSP)

 その次のアイオワでのダブルヘッダーではオリバー・アスキュー(アロウ・マクラーレンSP)が3位フィニッシュ。2019年インディライツ・チャンピオンの彼は第2戦インディアナポリスのロードコースでも好走。開幕前の予想を大きく上回るパフォーマンスを見せてきている。

 そのアスキューと昨年タイトルを争ったオランダ人ドライバー、リヌス・ビーケイ(エド・カーペンター・レーシング)はまだ19歳。開幕戦テキサスでプラクティスと決勝、2回クラッシュしてチームオーナーのエド・カーペンターの雷が落ちたというが、まだ才能のすべてを見せていない荒削りの状態だ。

 しかし、第2戦インディアナポリスでは5位フィニッシュをした通り、磨き甲斐のある素材とみられている。

 ルーキーという括りも当然あるが、昨年、一昨年にデビューしたドライバーたちの中にも将来有望な者が多く、インディカー・シリーズの勢力図はダイナミックに動き出している。

 経験を必要とするオーバルレース、テストの少なさといった要素からアドバンテージはベテランの側にあるはずだが、最近の若手にはそのセオリーがあまり当てはまらない。シミュレーターの進歩なども影響しているのかもしれない。

ロードアメリカ戦レース2では若手ドライバーがトップ3グリッドを占める

 若手の中で一歩抜きん出ているのは、昨年デビューイヤーにして2勝を挙げたコルトン・ハータ(アンドレッティ・ハーディング・スタインブレナー・オートスポート)、最年少優勝記録を持つ若干20歳だ。

 2シーズン目にして「シリーズタイトルが目標」と、寡黙なキャラだが自信はたっぷり。開幕4戦連続でトップ5フィニッシュしてランキング3番手につけるほど成熟度も高い。

 アイオワのダブルヘッダーではその手堅さを保てなかったものの、どんなコースでも速いところが彼の強みだろう。先輩チームメイトのアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)もウカウカはしていられないはずだ。

昨年ルーキーながら2勝を挙げたコルトン・ハータ(アンドレッティ・ハーディング・スタインブレナー・オートスポート)
2018年インディライツ王者のパトリシオ・オワード(アロウ・マクラーレンSP)

 チップ・ガナッシ・レーシングの次代を担うのはスウェーデン出身のフェリックス・ローゼンクヴィスト。そして、メキシコ出身のパトリシオ・オーワード(アロウ・マクラーレンSP)も将来のインディカーを背負って立つスターになるだろう。

 それぞれの母国も盛り上がっており、インディカーは再び世界の注目を集めるチャンスだとも言える。ウイルス騒ぎが収まった後には中南米へ再進出し、レース開催となるかもしれない。

 第4戦ではオーワードがキャリア初のポールポジションを果たし、レースでは初勝利目前までいった。最後の最後でそれを阻んだのはベテランではなく、同じ若手のローゼンクヴィストだった。それが彼にとってのキャリア初優勝。

 ふたりのバトルは熱く、そしてフェアで、今年最初の観客を入れてのウイークエンドをおおいに盛り上げた。2020年ロード・アメリカでのレース2は、彼らの長く続くライバル関係のスタートとなるレースとして後に振り返られることになるだろう。

サンティーノ・フェルッチ(デイル・コイン)

 サンティーノ・フェルッチ(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・バッサー・サリバン)も昨年から才能を見せているひとりだ。

 アメリカ東部出身の元F1候補生は、オーバルでのレース経験を持つオーナー、レース関係者たちを感嘆させ、魅了するパフォーマンスを見せている。

 特にオーバルでの走りのキレで目立っているが、ロードコースが不得意ということはない。怖いもの知らずの性分がオーバルにフィットしている。見た目と違い、調子に乗って無理をしてクラッシュ……というタイプでないところにも将来性を感じさせる。

 F1経験のある29歳のマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)2は、同郷ローゼンクヴィストとチームも同じ。昨年のシュミット・ピーターソン・モータースポーツでの経験は間違いなく生きており、まだレースぶりは大人し目だが、強豪チームで着実にレベルアップしている。

アイオワ戦レース1では初ポールを獲得したコナー・デイリー

 28歳のコナー・デイリー(エド・カーペンター・レーシングとカーリン)も光る走りを見せている。昨年は4チームからスポット参戦し、今季はカーリンからオーバル戦、エド・カーペンター・レーシングからインディ500とロード/ストリートコースへ出場するフル参戦。ヘルメットとスーツ持参で全レースに赴き、チャンスを求め続けた努力がここに来て身を結び始めている。

 イギリス出身の31歳、ジャック・ハーベイ(メイヤー・シャンク・レーシング)も上位で戦える実力を証明している。新興チームからの出場であることを考えれば、インディアナポリスのロードコース戦で予選2番手は素晴らしかったし、ロードアメリカのレース1での予選2番手、アイオワ2レース両方での7位フィニッシュも高評価ができる。

予選で速さをみせるジャック・ハーベイ

 一方、カナダ出身、26歳のダルトン・ケレット(AJ・フォイト・エンタープライゼス)は、もっと経験を積み、スキルを上げてからインディカーに来るべきだった。今のレベルではチャンピオン争いや、優勝争いの重要なバトルに水をささないかが心配される。

 開幕から3連勝を挙げたのはベテランのスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)だったが、勢いに乗る若手ドライバーたちにより、シリーズ中盤以降のレースも必見だ。

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