少女の目で、日常見つめ、あらがう 漫画家の今日マチ子さん #8月のメッセージ

漫画家の今日マチ子さんが描いたプロフィル用イラスト(本人提供)

 少女たちの透明感や日常のきらめきを鮮やかに切り取ることで知られる漫画家の今日マチ子さんは、沖縄戦や原爆などを題材にした作品も数多く手掛けてきた。「政治的な話に関わるのは嫌だった」という今日さんが、少女の目を通して戦争を描く理由を聞いた。(共同通信=尾崎薫子)

 ―体験していない戦争を描くのはなぜか。

 自分から描こうと思っていたわけではなくて、沖縄県出身の若い女性編集者に声を掛けてもらったことがきっかけです。戦争に関する作品を出したいと熱く話す姿に、すごくびっくりして。彼女を突き動かすものって何なんだろうと興味を持ちました。

 それまでは政治的な話に関わることや、作家として戦争を描く人というイメージを持たれるのが嫌で渋っていました。でも、「むしろ普通の女の子のことを描いてほしい」と。それが、2010年に(沖縄戦で戦場に駆り出された)ひめゆり学徒隊が主人公の「cocoon(コクーン)」につながりました。

 ―心掛けたことは。

 もともと戦争漫画が好きではありませんでした。子どものころに読んだ作品だと、女の子は大抵「良い子」で、かわいそうな死に方をした悲劇のヒロイン。「戦争で死んでしまった人」とひとくくりにされることに強い違和感がありました。果たしてその子はそれで良かったのか、もっと別のことを見てほしかったんじゃないか、とずっと思っていました。

 学徒隊の少女たちが、重傷者が次々と運ばれてくるガマ(自然壕)の中で、ノートにきれいな洋服や甘いものを描いて空想にふけって「戦争に勝ったらデートに行く」と盛り上がる場面がありますが、これは自分の中高時代の楽しかったクラスメートとの会話からヒントを得ています。

 ―読者の反応は。

 この作品を読んだという小中学生から「初めて戦争のことを知って、沖縄の歴史に興味を持った」と手紙をもらうようになって、とてもうれしかったです。遠い存在だった戦争が、自分と同じような普通の子が巻き込まれた出来事だったと、身近に感じてもらえたんだと思います。

 ―戦争との接点は。

 幼いころ、親戚の集まりで、部屋の隅っこにいると実体験が聞こえてきました。祖父母の世代は東京大空襲に遭っていたのですが、「遠くから街が燃えるのを見ていた」とか「何もかもなくなった」とか。自分たちがわいわい楽しく集まっている場所が実はもともと焼け野原で、その前にはちゃんと豊かな生活があったということが信じられなくて、とてつもない恐怖を感じました。でも同時に関心も持ちました。

 ―少女の目を通して戦争を描くのはなぜか。

 やはり、戦争の被害者として「消化」されてほしくないという思いがあります。長崎の原爆をテーマにした「ぱらいそ」に登場する少女たちは、焼け野原で亡くなった人の宝石や香水を身につけて遊び、飲み水を盗んで生き延びようとします。被害者の面だけでなく、あえて人間の持つずるい部分にも触れました。

 少女って、大人と子どもの間で揺れています。そんな力のない曖昧な存在が、戦争という(自分では)変えられないものにどう立ち向かうかを考えた時、悲劇の瞬間だけを切り取る描き方はしたくありませんでした。

 ―ご自身にとって、戦争とは。

 当時の人たちにも、楽しかったことや、ばかみたいなこと、失敗したことなど、今の私たちが経験するような普通の生活がありました。そこを描かなければ、戦争に「負ける」ような気がしたんです。日常を見つめ、残すこと。それが、私なりの戦争へのあらがいなんだと思います。そんな作品を、これからも描いていきたいと思っています。

  ×  ×  ×

 きょう・まちこ 東京都出身。東京芸術大卒。2015年、「いちご戦争」で日本漫画家協会賞大賞(カーツーン部門)を受賞。著書に「アンネの日記」をモチーフにした「アノネ、」など。

© 一般社団法人共同通信社