フランス版『アウトレイジ』!? ヤクザな兄貴の帰還に南国のパラダイスが地獄と化す!『リベンジ・アイランド』

『リベンジ・アイランド』© 2018 VITO FILMS - NAIA PRODUCTIONS - 7 APACHE FILMS - DIGITAL DISTRICT

フランス産クライム・サスペンス『リベンジ・アイランド』は、世界的な有名キャストも出ていないし予算をかけたド派手なアクションがあるわけでもない。しかし、あの仏産“立てこもり”ドンパチ・アクションの傑作『スズメバチ』(2002年)で知られるサミ・ブアジラが主演の哀しきヤクザ者たちによる泥沼物語……と聞けば、ちょっと気になってしまう映画ファンは少なくないだろう。

『リベンジ・アイランド』© 2018 VITO FILMS – NAIA PRODUCTIONS – 7 APACHE FILMS – DIGITAL DISTRICT

闇の世界から抜け出せないヤクザ者たちの悲哀

本作の主人公は、かつて現金強奪を謀るも1人だけ逮捕され、仲間たちの罪を被って15年間も臭いメシを食う羽目になったメディ(ブアジラ)。罪を逃れ南国タイでセレブのような暮らしていた弟分のイシャムら仲間たちのもとに向かったメディだったが、完全に腑抜けたその姿にイラつきを隠せない。自分の取り分40万ユーロ(約5000万円)をビジネスに使い込んだ仲間たちに対し、過激なやり方で「もっと発奮しろ」と焚きつける。なんとか勢力を広げたいメディたちは、やがて地元の同業者たちと対立することになるが……。

『リベンジ・アイランド』© 2018 VITO FILMS – NAIA PRODUCTIONS – 7 APACHE FILMS – DIGITAL DISTRICT

犯罪者のなかには、ジリ貧の生活から抜け出すために悪事に手を染める者もいれば、闇の世界でしか生きられない者もいる。メディは完全に後者で、アテにしていた金でモメたことだけでなく、いわゆる“沈没組”の仲間たちが許せないのだ。とはいえ、やっていることは主に経営するストリップクラブの縄張り争いだったりするのだが、タイで深刻な問題になっているドラッグ「ヤーバー」ネタを盛り込んだり、そのへんの道で堂々とドライブバイが行われたりと、微笑みの国ならではの一味違う怖さを味わうことができる。

『リベンジ・アイランド』© 2018 VITO FILMS – NAIA PRODUCTIONS – 7 APACHE FILMS – DIGITAL DISTRICT

またイシャムの義兄でエリート警官のピチャイと、大物ビジネスマンだという義父もなかなかのクセ者。同じくヤクザ者を描いた『アウトレイジ』シリーズ(2010~2017年)と大きく異なるのはそのあたりなのだが、最初は話し合いで解決しようとする犯罪者たちよりも警察側のほうが格段に狂っているという、『オンリー・ゴッド』(2013年)的な怖さにゾクゾクしてしまう。そして終盤からは、単なる下剋上モノではない複雑かつ非情な世界に突入し、心の底から絶望すること請け合い。メディのある行動をきっかけにチンピラたちの友情が崩壊し、悲劇的なラストに向かって突き進んでいく。

コワモテのラッパー大集合! リアルにワルいキャスティングに注目

本作には、よくもまあこんな人相の悪い連中ばかり集めたものだな……と感心してしまうキャストが大集合。マチュー・カソヴィッツ作品でおなじみユベール・クンデも仲間の一人を演じていて、フランスのクライム系映画が好きな人ならばかなり見どころが多いはず。そんなコワモテたちの中で、終始無表情なのにしっかり狂気を醸し出しているブアジラもさすがだ。正統派イケメンとしては、Netflixオリジナルシリーズ『OSMOSIS/オスモシス』(2019年~)のヒューゴ・ベッカーのゲス野郎ぶりに注目したい。

『リベンジ・アイランド』© 2018 VITO FILMS – NAIA PRODUCTIONS – 7 APACHE FILMS – DIGITAL DISTRICT

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なお、命の恩人であるメディを慕う刺青だらけの男ザックを演じているセス・グエコはラッパーで、なんと実際にタイで10年ほど暮らしバーも経営していたという納得すぎるキャスティング(現在はフランスでタイ料理店を経営しているらしい)。トラブルメーカーのウィニーを演じるクール・シェンもラッパーで、この2人で本作のサントラに楽曲提供しているのもなかなか胸熱である(その他のチンピラもネスビールらフランスのラッパーたちが演じている)。

『リベンジ・アイランド』はヒューマントラストシネマ渋谷「未体験ゾーンの映画たち2020 延長戦」で2020年8月7日(金)より公開

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