イエメン:現場を統括する日本人が語る「長引く内戦、コロナ禍、国際支援の先細りで、医療は壊滅的となる恐れ」

緊急対応コーディネーター兼活動責任者の萩原健(左)と、自主隔離期間のためオンラインで登壇したプロジェクト責任者の落合厚彦(右)

5年を経てなお内戦が続くイエメン。「世界最悪の人道危機」と言われる窮状に、新型コロナウイルス感染症が追い打ちをかける。同国内の医療施設は半分しか稼働しておらず、さらに来院を思いとどまらせるような誤った情報が広がる。市民の生活は今、さまざまなレベルで危機に瀕している。

国境なき医師団(MSF)で現場を統括する萩原健と落合厚彦は、イエメンでそれぞれ1年ほどの活動を終え、7月に帰国した。長年多くの国でプロジェクトに携わってきた2人が、8月6日、東京都内の記者クラブでイエメンの現状について語った。

 

 

 

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MSFのコロナ対応

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MSFはイエメンで、2007年から継続的な医療活動を
行ってきた。現在12カ所の医療施設を運営しており、
ほかに20カ所以上の医療施設を支援している。2019
年度予算は93.4億円で、これはMSFの活動規模の中
で世界3位にあたる。スタッフ数は2538人、そのうち
19人が日本から派遣された

「私たちはイエメン全土、13県で活動しています。各地での紛争はむしろ増えているというのが実感です」と萩原は言う。

アラビア半島に位置するイエメンは2015年、暫定政府軍と反政府武装組織「フーシ派」の衝突により内戦に突入した。以来、サウジアラビアやイランなどの周辺大国や異なる政治勢力が介入し、戦闘は泥沼化。5年間で推定11万人以上の死者を出した。また過去3年で27万人が難民、365万人が国内避難民となった(国連難民高等弁務官事務所・2020年7月)。2019年に和平協議が行われ、空爆は一時的に減少したが、それ以降、紛争が局地化している。

かつて石油開発業に従事していた萩原。MSFの活動で
紛争地へ赴くのは政治的・経済的利害から一線を画し
「公平・中立・独立を掲げるMSF憲章に思いが合致し
た」からだという © MSF Majd Aljunaid/MSF

こうした状況のもと、新型コロナウイルスが発生した。萩原が当時を振り返る。

「3月末には、新型コロナウイルス感染症の疑いがある患者が私たちの病院に訪れ始めました。従来から呼吸器系疾患の患者を受け入れていましたが、コロナ感染と思われる患者が次々運び込まれてくる。MSFの病院では新型コロナ検査を行っていないので、現場が悲鳴をあげました」

無論、50年近い活動実績があるMSFは、さまざまな感染症治療や予防のノウハウを持つ。世界的流行が明らかになった時点で、イエメンでも院内感染を防ぐための施策を徹底しつつ、ただでさえ少ない医療施設としての機能を継続した。また、公立病院への医薬品供給や感染予防研修を行い、一方で、保健省を支援する形で新型コロナ治療センターを6カ所開設した。

20年ほどラジオ番組制作に関わっていた落合。
「情報を届けるだけではなく、状況を変える
仕事に携わるため」人道援助に転身。
© MSF Majd Aljunaid/MSF

周辺地域からの避難民が多く、300万の人口を擁するイッブ県では、「アッサフル・コロナ治療センター」が開設された。立ち上げに携わった落合は、その経緯を次のように語る。

「もともと学校だった建物を、病院へと改修しました。苦労したのは人集めです。新型コロナウイルスの治療センターということで怖がる人も多く、経験豊富なスタッフがなかなか集まらない。人材育成トレーニングがオープン後も続きました」

「この病気の治療で重要となるのは酸素ボンベです。日本では中央管理システムで酸素が注入されますが、医療システムが脆弱なイエメンでは、その設備が整っていません。酸素を充填する施設も県内に1カ所しかなく、当初は酸素ボンベが足りずに、集中治療室のベッド数を制限せざるを得ませんでした」

アッサフルのコロナ治療センターの集中治療室(ICU)。ICUは18床、一般病棟は70床あり、酸素治療が必要な重症患者のみ受け入れている © MSF

医療施設に対する誤った情報や不信が広がる

萩原は3月以降、イエメン国内の感染状況を注意深く見守っていた。

「5月末、ちょうど断食月のラマダンが明けました。お祝いで皆、家族を訪ね合うので、人の移動が活発になる時期です。その頃、市場やある地区がいきなり封鎖されたとか、近所の人が数日間で複数亡くなった、という話をよく耳にするようになりました」

市民の間では「何が起きているのかわからない」という不安の声が高まっていた。そうした中で思わぬ問題が生じる。医療施設にまつわる誤った情報が流れ始めたのだ。イエメンでは、スマートフォンが普及し、ネット環境も悪くない。SNSなどを介して、「病院に行けば拘束され、どこかに収容される」「注射を打たれて殺される」などという流言が全土に広がっていった。

「5月から6月にかけて、MSFの医療施設を訪れる患者数が、目に見えて減り始めました。疑心暗鬼が広まったことが一因だと推測しています。懸念されるのは、重症化してからようやく来院するケースが増えていることです」と萩原は言う。

受診や治療を拒否する傾向への対策として、アッサフル・コロナ治療センターでは透明性を打ち出すことにした。国内の他の病院ではないことだが、一定の距離を取った上で、患者と家族との面会を許可したのだ。

「車椅子に乗れる人は建物の入り口まで出て、そうでない患者さんは病床の窓から、あるいはスマホのビデオメッセージで、家族と会う機会を設けました。死の恐怖と戦う患者が孤独にならないように、精神的サポートの面もあります」と落合は説明する。

アッサフル・コロナ治療センターにて、患者と家族が面会。建物の前にはフェンスが敷かれ、患者用の通路を隔てている © MSF Majd Aljunaid/MSF

今こそ必要とされる国際社会の援助

落合は、紅海に面し、主要な湾岸都市があるホデイダ県でもプロジェクトを率いた。反政府のフーシ派が実効支配する地域だが、2018年6月から暫定政府軍が奪還作戦を開始した。その争いの前線から2kmほどの場所に、MSFが支援するアル・サラカナ病院がある。救急外来や入院に対応するが、3月後半からは新型コロナウイルス感染症治療も行う県内唯一の施設ともなった。

「戦闘による被害で、例えば5月には1日で24人の一般市民が救急搬送されました。事務所はすぐ近くにあります。病院も事務所も流れ弾を防ぐため、窓に鉄板が張られています。換気が悪く、コロナ以後は患者やスタッフの安全を守ることがさらに難しくなってきました」と落合。

萩原も次のように訴えて締めくくった。

「長年続く内戦により、すでにイエメンの医療体制は崩壊していると言えます。その上に今回の新型コロナウイルスの脅威が訪れた。不十分な検査体制や、人びとの間に広がる医療への不信などにより、ウイルスがどこにどれだけ拡散しているのか、実態の把握が非常に難しくなっています。都市部では衛生環境も悪く、脆弱なインフラや人口集中で感染予防策もままなりません。また地方では医療施設はさらに脆弱で、たびたび水害も起きています。

MSFは新型コロナの流行当初から、当局を支援し準備と対応を進めてきました。しかし国際社会からの支援はむしろ先細っています。この国の医療が壊滅する前に、国際的な支援を拡充し、紛争当事者は和平への協議を進め、政治的利害とは無縁の人道医療援助を届けなければなりません」

ホデイダ市のアル・サラカナ病院=2019年4月 © Agnes Varraine-Leca/MSF

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