『ハニーボーイ』レビュー:子役とステージパパの確執から窺える人間ドラマ

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かつて芸能界では「子役が大人になって大成するのは難しい」などと言われたりしていたものですが、よくよく振り返ると必ずしもそうとは言い切れず、要はその人自身の生きざま次第でしかないようにも思われます。

『トランスフォーマー』シリーズなどでスターとして名を挙げたシャイア・ラブーフも10代の頃からスタンダップ・コメディアンとして活動してきた、いわゆる子役出身俳優ですが、スターダムにのし上がって以降、ハリウッドの罠にはまって一時は低迷を余儀なくされたものの、今はまた再び旺盛に活動を再開させています……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街492》

映画『ハニーボーイ』は、そんなシャイア・ラブーフが自身の子役時代の思い出を基軸に構築した脚本を映画化したものです。

そこに綴られているのは、ダメダメなステージパパとの関係性であり、当時と今との自分を比較してみたら、何が違って何が同じなのか? という自問自答が繊細なエンタメとして機能していく見事な“少年の旅立ち”映画であり、秀逸な人間ドラマなのでした!

スターが厚生施設で回想する

子役だった頃の父との関係

『ハニーボーイ』の主人公は、若くしてハリウッドのトップスターに躍り出たものの、激しいストレスから酒に溺れ、泥酔して事故を起こしたことからPTSDの可能性があるとして厚生施設に入れさせられたオーティス(ルーカス・ヘッジス)です。

彼は施設で今までの思い出をノートにまとめるように言われますが、そこで真っ先に思い出すのは父ジェームズのことでした。

しかし、父との思い出をなかなか素直に文字にすることができないオーティスは、カウンセラーにそれを見抜かれ、本当のことを書くように諭されます……。

人気子役として活躍していた12歳のオーティス(ノア・ジュプ)の父ジェームズ(シャイア・ラブーフ)は心に傷を負った退役軍人で、いつも突然感情を爆発させるキレやすい無職の前科者。

つまりはオーティスのステージパパを気取りつつ、その実我が子の稼ぎに頼り切って生きているダメダメな親父なのでした。

子役の仕事そのものは順調なのに、傍若無人なジェームズに振り回されっぱなしのオーティスでしたが、決して全面的に父のことが嫌いなわけではなく、しかしながら少しずつ成長していく中で、次第にエスカレートしていく彼に反抗するようにもなっていき、そして……。

ピノキオのような操り人形から

本物の少年に成長していく過程

本作は冒頭に記したように、シャイア・ラブーフ自身のキャリアを基に創作されたストーリーです。

実際の彼も酒で交通事故を起こし、厚生施設でのリハビリの一環として本作の脚本を記し、それを読んだ友人のアルマ・ハレル監督が映画化を申し出て、その後も両者で脚本アレンジのやりとりなどを重ねがら具現化されていったもの。
(ちなみにタイトルの“ハニーボーイ”とは、シャイア・ラブーフ自身が子役時代に言われていたあだ名とのこと)

本作を煮詰めていく過程でラブーフは、それまで長年音信不通だった実父とも再会しているようです。

アルマ・ハエル監督は本作の主人公オーティスの少年時代を『ピノキオ』に例えて語っています。

つまりは操り人形の少年が、いかにして本物の人間としての少年になっていくのか?

少年時代のオーティスを演じるノア・ジュブは『ワンダー 君は太陽』『フォードVSフェラーリ』などで注目を集めている、本作のオーティスさながらの人気子役です。

恐らくはまだ幼い彼も、この役にはかなり思うところがあって演じたに相違ないでしょう。

また実父をモデルにしたジェームズを自ら演じることになったシャイア・ラブーフも、自身も大人になったことで初めて見えてくる父の内面的苦悩なども肌で理解しつつ演じられていったようです。

こうした父と子の関係性をアルマ・ハレル監督は、特に少年時代は労働者階級のコミュニティでもあるサンバレーのピンク・モーテルを主舞台に据えつつ、独創的に演出していきます。

正直、人気子役がこのようなところに住んでいることに驚きつつ、実はその場が父親の象徴にもなっていて、ではいかに少年はそこから脱出するのか? もひとつのテーマにはなっているでしょう。

またハレル監督は撮影監督ナターシャ・ブライエと細かく打ち合わせしながら、心理学的な視覚効果をもたらす映像の色彩の構築にも腐心したとのことで、こうした彼女たちの試みは、実に映画そのものをファンタスティックに照らすことにも大いに貢献しています。

さらにはモーテルの隣人である年上少女の存在によって、子どもから思春期へ突入していこうとする過程の少年の心の揺れをさりげなくも巧みに描いているあたりも、実に「少年の心をわかってらっしゃる!」と唸らされます。

子どもはいつになったら大人になるのか? 実はいつまでも大人になったふりをしている子どもなのではないか? などなど、さまざまなことを思い浮かべながら見入ってしまうヒューマン映画であり、既に世界中の映画祭などで喝采を浴びてきた秀作が、いよいよ日本上陸しました!

(文:増當竜也)