いながきの駄菓子屋探訪(6)愛知県蒲郡市「観音堂菓子店」

全国約250軒の駄菓子屋を旅した「駄菓子屋いながき」店主・宮永篤史が、「昔ながらの駄菓子屋を未来に残したい」という思いで、これまで息子とともに訪れた駄菓子屋を紹介します。今回は愛知県蒲郡市の「観音堂菓子店」です。

東海地方にはおでんを売る駄菓子屋さんがある

駄菓子のメーカーが数多く残る愛知県。そのおかげもあってか駄菓子屋の数も多く、地図アプリで探すとわりと簡単に見つけることができます。蒲郡市内に入ってスマホで駄菓子屋を検索すると「駅前・小学校の隣・神社の参道脇・名前が観音堂」という、ただごとではなさそうな条件が揃ったお店を見つけたので、気になって真っ先に訪ねてみました。

店内に入ると「いらっしゃい」とおばあちゃん(店主)がニッコリ迎えてくれて、おでんの香りがふわっと漂います。東海地方の駄菓子屋の特長、それはおでんを売っているお店があることです。駄菓子屋自体が減って、このスタイルを持っているお店も少なくなってしまったとは聞いていたのですが、今やおでんを出す駄菓子屋は、ほかの地域ではほぼ皆無。旅人の身からすると、こういったお店に普通に立ち寄れること自体が地域の特色を感じられる貴重な機会です。

赤味噌ではなく関西風の味付け

陳列してある駄菓子も種類豊富で、昔の在庫がそのままになった懐かしいおもちゃが売っていたりと気になる部分はたくさんあるのですが、居室と思しき場所と直結した飲食スペースがあるので早速おでんをいただきました。

愛知の駄菓子屋おでんは赤味噌の濃厚なタレを付けて食べるものだと思っていたのですが、こちらのおでんは薄めの醤油味。ダシ粉をかける静岡風でもなく赤味噌の愛知風でもなく、関西の味付けに似たおいしいおでんでした。「なんで、愛知県で関西風なんですか?」と訪ねると、始めた当初からこの味付けで「特に何も考えてなかったけど、ずっとこのまま」なんだそうです。

いつまで続くかわからない

観音堂菓子店は、終戦直後に店主の旦那さんのお母さんが始めたお店だそうです。元々は駄菓子をはじめとする菓子類のみを販売していて、繁盛してお客さんが増えるとニーズが多様になり、それに対応していたら現在の形になったとのこと。「観音堂」という名前は隣の御嶽神社は関係なくて、旦那さんの実家に祀ってある観音様から付けられたそうです。

「最近は仕入先が減っちゃってね。まずおもちゃの問屋さんが閉めちゃって仕入れられなくなっちゃった。そうしたら今度は駄菓子の問屋さんも1軒閉めて、仕入れづらくなって。おでんだけは安泰だけど、問屋さんがなくなっちゃうと、こういう商売は厳しいね。いい場所にあるからお客さんは来るんだけど、わたしももう86歳で数えられるくらいしか寿命がないんだから、いつまで続くかわからないよ!」

長く商売を続けてきたからこそ起こる問題に直面している様子でしたが、本気とも冗談ともつかない自虐ネタをちょこちょこ挟みつつ明るく話してくださった店主。言葉の端々からは、お店の終わりが近いことを感じます。でも、とても健康そうで、まだまだ続けてくれるような気もします。次回この街を訪ねたとき、再びここで「愛知の関西風おでん」にありつけることを願ってお店を後にしました。

観音堂菓子店

住所:愛知県蒲郡市形原町御嶽61

電話:0533-57-5457

営業時間:8:00~18:00

定休日:不定休

[All photos by Atsushi Miyanaga]

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