国産EVが続々デビュー、先行するテスラの「入門モデル」に実車して比較

マツダのMX-30、間もなく登場予定のホンダ e、そして日産アリアなど、このところ国産EVの情報が次々に伝わってきています。そんな折にプレミアムEVというカテゴリーを世界で初めて作り上げたテスラの入門モデル「モデル3」に乗りました。より充実した「vr10.0」へとアップデートされたモデル3、そして国産各社の最新EVの情報をまとめてみました。


ホンダの話題作

まずは最新のEV事情をみてみましょう。

話題の中心は「ホンダ e(イー)」でしょう。発売を前にすでに情報が解禁されています。昨年のフランクフルトショーで概要が発表され、スタイルのかわいらしさなどもあって話題となっている都市型コミューターです。

初代シビックのデザインにも通じる

全長3,894×全幅1,752×全高1,512mm、ホイールベース2,538mm(ヨーロッパ仕様)、そしてリチウムイオンバッテリー容量は35.5kWh、満充電でWLTCモードでは283kmの航続距離を実現ということですから、現行リーフの容量、40kWhよりも少ないです。ボディが軽量コンパクトということもあって、一充電当たりの走行距離としては現実的には230kmぐらいになるでしょうから、航続距離はリーフの40kWhと同じか、少し短いかもしれません。

それでも常日頃の通勤や買い物ということであればほとんど困ることのない内容でしょう。ホンダ eに関しては今後もテスト走行をしてレポートをお送りする予定です。

“先駆者”日産は?

さて、EVの先駆者である日産はリーフやキックスなど、色々な形で電動化への取り組みをしています。その注目の的となっているのはクロスオーバーモデルの「アリア」です。もちろんピュアEVで、そのバッテリー容量は90kWhで、WLTCモードによる航続距離は最大610km。毎日の通勤どころか、ロングドライブにも十分に対応できる内容となっています。

こちらはEVとしての未来感あるスタイルが話題で、日産ファン、そしてリーフファン達の間では相当に話題となっています。お得意の「プロパイロット2.0」、「プロパイロット リモート パーキング」、そして独特のアクセルフィールを持った「e-Pedal」などの先進運転システム。さらにバッテリー容量や駆動システムを選択できるなど、量産ピュアEVのパイオニアが放つアリアですが、その日本登場まではあと1年ほどと言われています。予想価格は500万円ほどということですが、できることなら欧州、北米、中国のように2021年末までの発売を目指してほしいと思います。

さらに、前回お伝えしたマツダMX-30ですが、ピュアEVモデルもリース販売という形で日本でももうすぐデビューしてきます。ちょっぴり国内のEV市場が楽しみになってきたところで、改めて世界で最も売れているピュアEVであるテスラのモデル3に少し乗ってみました。

最大規模のアップデートの中身

テスラの魅力と言えば、やはりスーパーカー並の動力性能と満充電での走行距離の長さでしょう。さっそくBピラーにカードキーを当て解錠してドアを開けます。この時点ですでにスイッチON状態です。ドライバーズシーツに座って特別にスイッチを入れたりすることもなく、これで走行可能です。

インパネにあるのはiPadのような大型15インチタッチスクリーンタッチパネルのみ。ナビからエアコン、車両の駆動力の配分などすべての調整はここで行います。

前後左右にあるカメラが360度にわたる映像を映し出します。さらにこの映像は保存できるのでドラレコとして利用できます。

テスラ・モデル3は、モデルSの下にある小型のEVセダンです。ボディも比較的コンパクトで、セグメントで言えばちょうどメルセデス・ベンツCクラスなどと同じです。この日本では実に使いやすいサイズ感で、女性オーナーも多いモデルです。

このモデル3ですが3タイプの仕様があります。リーズナブルな後輪駆動モデルはWLTP推定値で航続距離406kmを可能にした1モーターのモデル「スタンダードプラス」仕様。次にモーターを二つ装備して、より長い560kmという航続距離を実現した「ロングレンジ」仕様。そして0~100km/hが3.4秒と、スーパーカー並の速さを持った「パフォーマンス」仕様の3つです。その価格を整理すると、後輪駆動の「スタンダードレンジプラス(511万円)」、4WDの「ロングレンジ(655万2,000円)」、そして同じく4WD(テスラではAWDと呼ぶ)の高出力モデルの「パフォーマンス(717万3,000円)」です。

今回テストしたのは最上級の「パフォーマンス」です。4輪を2つのモーターで制御しながら、サーキット・モードまで備えた最速モデルです。加速性能はもとより、最高速が261km/h。1回の充電での航続は最大560kmと、性能と航続距離とのバランスが最も取れたモデルでしょう。

さらにテスト車両で一番の注目点はソフトウェアがバージョン10.0(以下vr10.0)にアップデートしています。このvr10.0は“これまでで最大規模のバージョンアップ”として昨年の9月に発表、導入されたのですが、クルマを駐車スペースにナビで誘導したり、目的の場所に呼び寄せることもできる「スマートサモン」という機能も追加されています。

モデル3に限らず、テスラの車は現在もオートパイロット機能を少しずつアップデートしていて、その積み重ねによって自動運転に向けての進化を追求している点が大きな魅力です。さらにボディに装備されたカメラによる映像を保存できるため、360度ドライブレーコーダ機能として使用できる点も大いに評価していいと思います。同時に「なぜ他のメーカーも早くやってくれないのか?テスラを見習え!」と言いたくなるものです。

中身は第一級のスーパースポーツ

乗り込むとすでにエアコンは作動し、室内は快適です。ハンドルの右側にあるシフトレバーを操作してDレンジに入れれば、走行可能です。先にも言いましたがこのモデル3、走りのパフォーマンスも大きな魅力です。まずはその強烈な加速性能ですが、高速の本線への合流で経験できます。0~100km/h加速が3.4秒といえばポルシェ911カレラS(992)やランボルギーニ・ウラカンLP580-2といった超一級のスポーツカーと同じ加速性能なんです。

イザとなればその優しい外観に似合わず、高速道路などでは本線への合流などでは怒濤のフル加速をします。助手席の人たちの中には「意識が薄れていくような感じ」という人もいましたが、あっと言う間に法定速度に達してします。トルクが一気に立ち上がっていく感覚はガソリンエンジンとは違い、いきなり最大トルクを発生するモーターのフィーリングです。おまけに4輪でしっかりとトラクションを確保しながらの加速には安心感が伴っていますから実に快適なスポーツドライブです。

安心で超絶に速いというのはもちろんテスラの魅力ですが、このモーター特有の加減速の走行感覚は、時として慣れないと車酔いする人がいます。普段は少々抑え気味で走ることをお勧めしておきます。その日常使いの範囲内なら、シームレスで滑らかな加減速の感じは、上質な走りはまさにプレミアムサルーンの快適なドライブを約束してくれます。

赤いブレキーキャリパーは高性能なパフォーマンスの証です。

もし、その強烈な加速フィールを存分に楽しみたいならば、サーキットに持ち込んでみましょう。今回は時間の都合もあり、適いませんでしたが「トラック・モード」を選択してサーキット走行をすれば、思う存分その強力な走りを楽しめるのです。ちなみに「前後の駆動力調整」も任意に行えますから、後輪駆動としての走りでドリフトを楽しんだりもできます。

さらにコーナリングの安定感では重心が低いこともあり、フラット感を保ちながら、ステアリングを切るとレスポンスよくノーズが切れ込みます。このクイックな感じはスポーティな走りばかりではなく、低速走行の市街地などでも実に心地いい感触となって伝わってきます。さらにトラクションの効いたコーナーの立ち上がりでアクセルを踏んでいくと、心地よく加速態勢に移り、気持ちよくコーナーをクリアできます。

こうして真夏の都内を中心に数日、ロケや取材も含めて色々な日常の中でテストしてみました。走行距離は150kmほどでした。それでも残りの走行距離は390kmほど。もちろん、使用状況によってこの距離は一気に変わることになりますが、まだ400kmほど走れる、というゆとりの大きさは心強いのです。EVにとって充電インフラの整備だけでなく、やはり一充電当たりの航続距離は大きな関心事になります。

今回、こうしてテスラに乗ってみて再確認できたのですが、一台所有が普通の日本では航続可能距離がやはり大切なんだなぁということでした。少し走りを楽しんだり、エアコンを使ったりしているとEVは思いの外、バッテリー残量が早く減っていきます。充電時間のこと、他の利用者との充電時の確執などを考えると、やはり一充電による走行距離は長い方が心強いのです。実際に試乗途中、充電の様子を撮影しようと充電施設に入ったのですが、本来ならばEVが駐車すべきスペースにはガソリン車が停まっていたのです。実はこうした充電時のストレスはけっこうあるのです。出来れば充電回数は少ないに越したことがありません。それを考えると、ホンダeやマツダMX-30などの実質の走行距離が200km少々というのは十分と言えるでしょうか。バッテリー容量と航続距離のバランスが、さらに重要な問題となるでしょう。

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