ルポ「長崎原爆の日」 追悼の光景が一変 目立つ空間、マスク姿

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 新型コロナウイルスの影響で、75回目の長崎原爆の日はいつもと違う光景が繰り広げられた。例年は一般参列ができる平和祈念式典は感染拡大防止のため招待者だけに絞り、規模を縮小。参列できない被爆者、遺族、市民らは式典が始まる前の平和公園や屋内会場、自宅などで鎮魂の祈りをささげた。コロナ禍で一変した9日の被爆地を歩いた。

 薄暗さが残る午前6時、式典会場となる平和公園。平和祈念像に手を合わせに、ポツポツと人が現れた。「今年は式典に入れないので早く来た。原爆ほどむごいものはない」。被爆者の女性(87)は目を潤ませた。祖母、両親が原爆死没者名簿に記されているという女性(67)は「一瞬にして多くの人の命が奪われたと思うと、涙が出る。式典は毎年早めに来て前列に座っていた。臨場感が違う」と残念そうに語った。

式典前に会場を訪れ、平和祈念像前に線香を手向け手を合わせる被爆者=平和公園

 一方、平和公園そばの爆心地公園。原爆落下中心地碑前で祈りをささげていた男性(70)は、これまでテレビで式典を見るだけだった。だが、今年は「コロナのあるけん、祈りたくなった」。被爆者を追悼し、見守ってほしいと伝えたくなったという。
 午前8時半すぎ、平和公園に向かうと大きな立て看板が目に入ってきた。「新型コロナウイルス感染拡大防止のため一般参列はできません」。市が発行したプレスカードで入場ゲートを通過すると、フェースガードをした市職員が非接触型体温計で発熱の有無を確認。手指を消毒し、さらに進む。暑さ対策でおしぼりと水が用意されていた。

感染防止のため参列が制限された式典会場入り口=平和公園

 「熱中症とコロナ対策で大変ですね」と声をかけると、「ただ、今年は人数が少ないので…」と職員。会場には例年5千席が用意されているが、今年は10分の1の500席。椅子の間隔も約2メートル空けられ、空間が目立った。会場内外を訪れる人はほとんどがマスクを着用。巡回していた警察官は「顔が見えないので警備がしにくい」とつぶやいた。
 屋内会場の一つ、長崎ブリックホールに向かった。ここでも体温チェック。そして来館者名簿の記入を求められた。感染者が出た場合に連絡が取れるようにするためという。会場は千席用意されていたが、来場者は昨年の5分の1の100人。職員は「外出を自粛し、自宅でテレビ中継を見るという方が多いのでしょう。すごく静かです」。来場者は大画面のモニターに映し出された式典映像を見ながら、午前11時2分に黙とうした。

午前11時2分、屋内会場で黙とうをするマスク姿の来場者。感染防止のため、間隔が空けられた=長崎ブリックホール

 市内に鳴り響いた追悼のサイレン。被爆者の平野征博さん(78)は橋口町の自宅でその瞬間を迎えた。例年は市立山里小で被爆講話をしていたが今年は感染防止のため、学校から招待はなかった。自宅は平和祈念像から約200メートル。「やっぱり、リアリティーがない。その場に行って、その場の空気を味わうことで初めて伝わるのかな」。平和教育も同じだと思う。「長崎に来て被爆者の話を直接聞いてください、というのは、こういうことですよね」と実感した。
 式典が終わり、入場制限が解除された平和公園。祈念像前で手を合わせる人は後を絶たなかった。東京都の20代男性は今年3月、東京大空襲を経験した祖母を亡くしたという。「(戦争について)頭の片隅に入れていたい」と被爆地を訪問。マスク姿で「東京から来て、すみません」と申し訳なさそうに話し、長崎原爆資料館に向かった。