BBC、報道での差別用語使用を謝罪 擁護から一転

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7月にBBCの報道番組で人種差別用語が使用されたことについて、BBCのトニー・ホール会長は9日、謝罪した。差別用語の使用について、1万8600件以上の抗議がBBCに寄せられ、BBCラジオの人気DJが抗議して辞職していた。

BBCニュースは7月29日、イングランド南西部ブリストルで起きた人種差別的な殺人未遂事件について報道した際、事件で使われたとされるNワード(黒人に対する差別表現)を使用した。

国民保健サービス(NHS)で働く、通称「K-Dogg」で知られる黒人男性を車ではねた容疑者たちは、犯行の際に「Nワード」を浴びせて男性を罵倒したという。

BBCはこの事件を報道するにあたり、ニュースの一環としてこの差別用語の使用が必要だと判断したと、当初説明していた。被害者の家族もこの判断を支持したという。

しかし、BBCに対する批判や抗議はBBCの内部からも高まり、通信業界の監視団体Ofcomには2017年以来2番目に多い384件の苦情が寄せられたという。

こうした中でBBC幹部と協議したホール会長は、BBCが別の対応をすべきだったと謝罪した。

ホール会長は謝罪メッセージの中で、「暴行事件の動機とされた人種差別の側面を強調することが、BBCの意図だった」と説明し、「これはBBCが伝えるべき重要な報道内容で、BBCは今後もそうしていく」と述べた。

その上で会長は、「その意図は良かったが、(Nワードを使うことで)大勢を動揺させ、不快な思いをさせてしまったことは認める」として、「BBCは今では放送当時、別の対応をすべきだったと認めるし、そのことを申し訳ないと思う。BBCが発信する内容での不快な差別用語の使用について、指針を強化していく」と説明した。

「どのような組織でも、間違いを犯したら間違えたと認めるべきだ。私たちは今回、間違えた」

人気DJが抗議の降板

ホール会長の謝罪に先立ち、BBCラジオ 1Xtra(ワン・エクストラ)の人気DJ「サイドマン」(本名デイヴィッド・ホワイトリー)氏は8日、「Nワード」の使用とその後のBBCの擁護は、「まるで自分たちのコミュニティーを平手打ちされたみたいだ」、「今回ばかりは、見なかったふりなどできない」と抗議して辞職していた。

BBCの創造的多様性の責任者、ジューン・サーポン氏は9日、ホール会長の謝罪を歓迎し、「Nワードの使用をはっきり明確に謝罪するため、ホール会長自ら関与したことを歓迎する」と

しかし、BBCラジオ 1XtraのDJ「ターゲット」氏は、「若い黒人の放送人」が辞めてやっとBBCが謝罪することにしたのは、

抗議辞職した「サイドマン」氏はインスタグラムで、ホール会長の謝罪の一部を投稿すると共に、降板した自分の「勇気ある信念」をたたえるツイートもあわせて投稿した。

は、「サイドマン」氏の抗議辞職が「自分の魂に触れた」と書き、「彼のしたことがどれほどの犠牲を意味するか、みんな考えてみて(中略)ジャマイカ出身でバーミンガムなまりの男がはい上がって、BBCにたどりついて……そして辞めたんだから」と指摘していた。

「白人には許された」

ホール会長の謝罪に先立ち、BBCワールドサービス(国際放送)の

で、「アフリカ系アメリカ人がNワードを使い、その発言を引用して自分が記事を書いた際、BBCは黒人の自分に対してNワードの使用を認めなかった。けれども白人男性がテレビ放送中に使うのは認められた。『編集上、正当化できる』からだそうだ」と書いていた。


野党・労働党のマーシャ・デコルドーヴァ影の平等担当相も、ホール会長の謝罪に先立ち、BBCが「Nワード」の使用擁護に使った説明は「もちろん不十分」だと批判し、謝罪を求めていた。

同様に、労働党の

も、DJ「サイドマン」氏を支持すると表明し、BBCは自己正当化に「やっきになる」より謝罪すべきだと述べていた。

英民放チャンネル4のクリシュナン・グル=マーシー司会者は、ホール会長の謝罪を評価すると共に、「またしても、BBCの編集方針責任者たちがミスを擁護し、それを覆すのに会長が直接、介入しなくてはならなかった」と指摘した。

グル=マーシー氏はさらに、「当然ながら、(BBCは)サイドマンに降板を取り消すようお願いして、ラジオに復帰させるべきだ」と述べた。

サイドマン氏の辞職を受けてBBCラジオ 1Xtraの広報担当は8日、サイドマン氏は「素晴らしい才能」で番組降板は残念だとして、「将来のプロジェクトに向かって扉はいつでも開いている」とコメントしていた。

人種差別的な言葉を使った事件

問題となった7月22日の事件では、NHS職員の21歳男性が、職場の病院から近くのバス停へ向かう途中で車にはねられた。この男性は「K-Dogg」という名前でミュージシャンとしても活動しているが、脚や鼻、頬骨などを骨折する重傷を負った。

この男性をはねた車に乗っていた人物らが人種差別的な言葉を使っていたことから、警察は人種憎悪に基づく犯罪として捜査している。

これまでに4人が、殺人未遂などの疑いで逮捕されている。

事件を報道する際にBBCは、容疑者たちが使ったとされる差別用語をそのまま伝えた。それは熟慮の末の判断で、Nワードを放送することで多くの人が不快になるのは理解していると、当初説明していた。


<分析> デイヴィッド・シリトーBBCメディア・アート担当編集委員

「K-Dogg」のけがの様子は、見るからにショッキングだ。顔からガラスの破片を取り除くのに、4時間もかかった。

この事件の初報では、人種差別的な動機が背景にあるようだという部分が、はっきりしていなかった。

「人種差別的な表現をそのまま使う」ことにした理由についてBBCは当初、問い合わせサイトに掲載した声明で、被害者家族が事件の全容を「聞いて理解してほしい」と願っていたからだと説明した。

しかし、それから数日の内に1万8000件以上の苦情が寄せられた。BBCの当初の判断が誤りだっただけでなく、いかに大勢にとって侮辱的で、不快極まりないものだったか、この苦情の件数が示している。BBCラジオ 1Xtraのサイドマン氏は、「白人が全国放送でNワードを使うことをBBCが許容した。自分はそれに同調できない」と抗議して降板した。多くの視聴者を代弁した意見だったし、BBC社内の多くの意見も代弁していた。

BBCは昨年秋にも、朝の情報番組「ブレックファスト」のナガ・マンチェッティ司会者をめぐり、編集指針違反だといったん判断しながら、ホール会長が後にそれを一転させた(マンチェティ氏は当時、ドナルド・トランプ米大統領の発言を「人種差別」と批判した)。

また、アメリカで人種差別や警察暴力などに抗議して始まった、黒人の命も白人と同じように大事だと訴える「Black Lives Matter」運動についても、BBC社内ではかなりの議論が繰り広げられている。

ニュース番組で人種差別用語をそのまま放送するのは「間違いだった」と、BBCは認めた。しかしこれは、激しく侮辱的なひとつの差別用語についての問題に限らない。本日の声明にもあるように、BBCは現在、人種について「耳を傾け、そして学ばなくてはならない」局面にさしかかっている。


(英語記事 BBC apologises over racial slur used in news report