田舎の実家を相続したが当面住む予定なし。貸す?売る?空き家問題で迷った時の解決法

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、54歳の男性。山梨の実家の不動産を相続したものの、当面は住む予定はないけれど、リタイヤ後に戻るかもしれないとお悩みとのこと。FPの平野泰嗣氏がお答えします。

昨年末に一人暮らしの母親に相続が発生し、長男の私が実家の不動産を相続することになりました。実家は、山梨県の甲府駅から各駅停車で数駅の所にあり、最寄り駅から歩いて20分くらいです。大学を卒業して東京に出るまでは実家暮らしだったので、私にとって思い出のある家です。リタイアする65歳くらいまでは、東京で暮らす予定なので、当分の間は、住む予定がありません。リタイア後は、都心から離れたところでのんびりと暮らすことに憧れていますが、妻にはまだ話していません。当面は、家計の足しになれば良いので、人に貸すことを考えていますが、築40年なので借り手がつくかどうかもわかりません。最近、空き家問題が話題になっていて、早く手放した方か良いのかも気になっています。

【相談者プロフィール】

・相談者:男性54歳、(妻52歳、子ども2人:22歳、18歳)

・東京都在住(持ち家)

【家計の状況】

・年収約700万円(手取り560万円)

・年間支出500万円

・年間貯蓄60万円

・金融資産500万円

【物件(実家)の概要】

・土地165平米

・建物75平米(2階建て、4DK)

・建築年1980年(築40年)


平野: ご相談をいただき、ありがとうございます。相談者様のように実家を相続され、持ち家がある方は、当面は住む予定がないと、人に貸そうか、売ってしまおうか、それとも他に選択肢がないのか、いろいろ迷われる人も多いのではないかと思います。そこで今回は、実家を相続した場合の空き家対策についての考え方について解説します。

全国の空き家率は13.6%、実家の相続で増える空き家

平成30年住宅・土地統計調査によると、全国の空き家数はおよそ846万戸、全住宅に占める空き家の割合(空き家率)は13.6%で、空き家数・空き家率ともに過去最高を記録しました。相談者様の実家のある山梨県の空き家率は21.3%で都道府県別で最も高い割合となっています。ただし、山梨県は別荘が多い県なので、別荘などの二次的住宅を除いた空き家率は17.4%で、全国で6番目に高い空き家率となっています。

空き家が発生する原因として、相談者様のように相続が発生し、相続人はすでに自宅を所有しているため、住む人がいないまま放置されてしまう(空き家になる)というのも考えられます。

空き家を放置してしまう理由は?

相続した実家の不動産や空き家に関する相談をお受けしていると、空き家を継続して放置してしまっている理由として、以下のような意見が多く聞かれます。

・気になっているものの、どうしたらよいのかわからない
・思い出があって、なかなか対策に踏み切れない
・親族の誰かが使うかもしれないと考える
・売却しようとするが、買い手がつかない
・建て替え(賃貸など)を検討するが資金がない
・固定資産税で更地評価にしてしまうと大幅に不利となる
・権利関係で調整が付かない(共有名義になっている)
・相続が絡んだ問題
・地価が下落し、今売るともったいないと感じる

売却が決まっているが買い手がつかない、相続などの権利関係で手続きが進められないなど、やむを得ない事情の場合もありますが、多くは、方針を明確にしない状態になっているケースが多いと感じています。

実家の相続、住む予定があるか、ないかで対策は変わる

実家を相続した場合、実家の不動産をどうするかを決める最初の段階として、実家に住む予定があるのか、予定がないのかが選択の分かれ道となります。

実家に住む予定がある場合

相談者様がリタイアした後、都内から山梨の実家に戻るのかどうかがポイントになります。都心から離れたところでのんびり暮らしたいというお気持ちがあり、その住まいとして実家を想定していらっしゃるということでしょうか。奥様にまだ話していないということなので、10年くらい先の話になると思いますが、奥様の考えもしっかり聞いた上で、判断する必要があるでしょう。奥様が住み慣れた都内で老後も暮らしたいというのであれば、「住む予定がある」という選択肢は取れないでしょう。

奥様も山梨に住むことに賛成しているのであれば、実家の現状を維持し、リフォームして住むのか、リタイア後に建て替えて住むのか、予め方針を決めておく必要があります。築40年の家をリフォームして住むのであれば、約10年間、ある程度お金をかけて建物を維持する必要があります。建て替えを前提とするならば、必要最低限の維持管理で済むでしょう。

自分たちが移住するまでの間、賃貸に出すという選択肢もあるかもしれません。ただし、賃貸需要があるかどうかは、地元の不動産業者に確認しておく必要があります。ただし、相談者様の実家の場合、戸建て住宅の賃貸といっても築年数も古く、月5-6万円前後が相場と思われます。修繕などのメンテナンス費用、固定資産税等を考えると、それほど多くの収益は見込まれないのではないかと思います。家賃を上げるために大規模リフォームをという考えがあったとしても、投資に対するリターン(賃料アップ)の効果は、それほど見込めません。現状を維持しつつ、移住のときにリフォーム、あるいは建て替えをするという計画の方か良いでしょう。また、将来、自分たちが住むことを前提として、人に貸す場合は、定期借家契約をするなど、予め対策を取っておく必要があります。

実家に住む予定がない場合

実家に住む予定がない場合は、「手放す」か、保有し「有効活用」のいずれかが選択肢になります。手放す方法の第一の選択肢として、売却があります。地元の不動産業者を通して売却を進める方法と、最近では、市区町村単位で空き家バンク事業を行っているので、物件登録をするという選択肢もあります。相談者様の実家周辺の不動産市場を土地総合情報システムの「不動産取引価格情報検索」で調べると、類似の立地・広さで700〜800万円前後が相場のようです。また、登録されている取引も前年に複数の実績があることから、現在のところ、一定の需要がある不動産であると推察されます。売却すると決めた場合、地方では、よほどの特殊事情がない限り、地価が上がることは期待できませんので、早急に実行に移した方が良いでしょう。
・参考サイト:土地総合情報システム(国土交通省)

住む予定がなく、需要が見込めない地域の場合

相談者様の実家の場合、市場での需要がある程度見込める物件ですが、需要が見込めない地域の場合は、価格もつかず、保有コスト(固定資産税、修繕費用、除草などの維持管理費用)だけがかかってしまうので、親戚や隣地の所有者に低額で売却、あるいは、無償で譲渡するという選択肢もあると思います。自治体への寄附を考えられた人もいるかもしれませんが、自治体にとって有用な不動産でない場合は、基本的には寄附は受けられないケースがほとんどです。

「有効活用する」場合の選択肢を知る

不動産を売却せずに賃貸し、有効活用するという選択肢を取る場合、「修繕して貸す」「建て替えて貸す」のいずれかの方法をとると思います。不動産投資として考えた場合、他の選択肢と効率性を比較検討することが重要です。実家の不動産を有効活用するというのは、不動産投資では選択肢の1つに過ぎません。実家を売却し、その売却代金を使って、より有利な不動産投資先があるのであれば、そちらを選択した方が合理的です。不動産投資をする際、実家の不動産に縛られる必要はないのです。

住む予定があるかどうか決められない場合

これまで、実家に住む予定がある、住む予定がない、の2者択一で、対応方法を見てきました。相談者様の場合、実家が、「長年住んでいて思い出のある家」であること、「リタイア後は、都心から離れたところでのんびりと暮らすことへの憧れ」があります。実家の思い出は確かに大切なものでしょう。けれども、「都心から離れてのんびり暮らす」という選択肢の1つとして、山梨県の実家はあるかもしれませんが、実家に限定する必要はありません。リタイアまでの約10年間、奥様とリタイア後の住まい探しを目的に、日本全国を見て回り、夫婦が「ここで一緒に老後を過ごしたい!」という場所が見つかれば、より豊かな老後を2人で過ごせるのではないかと思います。ただし、「都心から離れてのんびり暮らす」、が夫婦共通の希望であることが、大前提であることは言うまでもありません。

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