お金がないと愛も育たない?食べさせてもらうことにプレッシャーを感じる34歳女性の場合

このコロナ禍において、お金が重要だと改めて痛感した人は多いかもしれません。「世の中、金があれば99パーセントのことは解決する」と言った知人がいます。ただ、どうがんばっても収入が増えないケースもあるし、会社員だから自分ではどうにもならないこともあります。少なくとも、自分の食いぶちくらいは自分で何とかすると心がけておく必要がありそうです。


彼と同棲を始めた矢先に

昨年12月に彼と同棲を始めたというアキコさん(34歳)。5歳年下の彼とは2年のつきあいで、アキコさんの賃貸住居が更新になったのを機に、一緒に住むことを提案されたのだそう。

「一緒に住めば経済的かなと思ったんですよ。更新するにしても更新料が必要だし、新たなところを借りるには敷金礼金がかかるし。彼のところは古いけど広い1LDK。お互いに昼間は仕事だし、ふたりならじゅうぶん暮らせるよと言われて決心したんです」

持ち物を大幅に断捨離し、身の回りの最低限のものだけをもって彼の部屋へ。最初はふたりで楽しく暮らしていました。それがこのコロナウイルス感染拡大によって一変します。

「私は契約社員なので、真っ先に自宅待機。彼は違う会社の正社員で、在宅勤務になりました。私のほうは給料もほぼ出ない状態。うろたえていたら、彼が『いいよ、俺が食わせてやるから』って。ちょっと気になる発言だったんですが、それでも頼りになるのは彼だけですからね」

お金をもらって関係性が変わり始め…

多少の貯金はありましたが、将来のことを考えると取り崩すわけにもいかず、アキコさんは彼からお金をもらって家計をやりくりすることにしました。それまでは食事も、できるほうがやっていましたが、アキコさんは「住まわせてもらっている」負い目を感じ、自分がやると引き受けます。

「夫と専業主婦みたいな感じになりまして。彼のほうも稼いでいるのは自分だから、という気持ちが強くなったんでしょうね。なんだかエラそうになっていきました。『コーヒー』『そろそろ昼飯』と、単語で命令するように。父親がそういうタイプで本当にイヤだったので、私はだんだん気が滅入っていったんです」

会社に連絡して、自宅待機期間に他でアルバイトをする許可を得ましたが、なかなかアルバイトも見つかりません。

「たまたま近所のスーパーで荷出しのバイトがあったので、週に3日ほどやることにしました。時給も安かったけど何もしないよりマシですから」彼は、そんなことまでしなくてもと言いました。彼女の苦しさに気づいていなかったのです。

こっそりと実家に戻って

「彼が悪いわけではないと思うんですが、私自身がだんだん精神的なバランスを欠いていって、彼の些細な言葉も悪いようにしか受け取れなくなっていました」

収入が激減したことによって、自分の価値が下がったように思ったアキコさん、彼との関係が対等ではなくなっていきました。

「ご飯も2杯は食べられない。彼が買ったお米だから、と思っちゃうんです。田舎の母と電話で話したとき、ちょっと言ったらお米や野菜を送ってくれたんですが、それはお腹いっぱい食べました。彼はまったく気づいていなかったと思います」

週に1度、出社していた彼がワインを買って帰ったことがあります。4月の末のことでした。ふたりがつきあい始めた記念日だったのです。

「一緒にワインを飲んだまではよかったんです。彼が『プレゼントは改めて。また会社に行けるようになったら買うね』と。『私が無駄飯食いしているからだ』と落ち込みました。彼が言わないからよけいにつらかった」

ただこの話、あとから聞くと、当時はお店やデパートも閉まっていたため、彼は自分が毎日出社できるようになった時期には店も開いているだろうから、そうしたら買うね、という意味だったそうです。お互いの言葉足らずと誤解のせいで、アキコさんの気持ちはどんどん落ち込んでいきました。

「ゴールデンウイークが明けたころ、母に電話して帰りたいと言ったんです。でも母は、『今、こっちに来たら近所で何を言われるかわからないからやめて』と。行き場を失いました」

ふらりと家を出て、人の少ない繁華街を歩き、ひとりでなぜかラブホテルに泊まったというアキコさん。

「正直言って、誰か私を買ってくれないかなとまで思いました。そしてそう思った自分をアブナイとも感じた。もう限界でした。そこで5月の末、彼が会社に行っている間に荷物をまとめて実家に帰りました。近所の人が見ていないのを確認して、こっそり家に入れてもらったんです」

コロナ鬱という言葉がありますが、アキコさんの場合、まさしくそうだったのかもしれません。収入減と将来への不安、彼と何かが噛み合っていない苛立ち。そんなものが一気に押し寄せたのでしょう。

6月に入り、彼は週に4日、出社するようになりました。彼女のほうも会社に戻ってくるよう要請がありました。ただ、彼女は結局退職、彼とも別れてしまったといいます。

価値観に苦しみ

「今は実家近くの居酒屋でアルバイトをしています。実家は兄の代になっているので、私は母が暮らしている離れに住まわせてもらっているんです。眠れない日々が続き、体調を悪くしていたら近所で噂になったりして、いづらいなとは思いますが、もう他に居場所もなくて」

彼からは戻ってきてほしいと言われましたが、「他人に養われる」みじめな生活がよほど堪えたのか、帰るつもりはないそうです。

「今からでも遅くない、何か一生できることを身につけなければと焦っています。私はたぶん結婚には向いてない。自分がきちんと稼いでいないと、男性と恋愛もできないんだとよくわかりました」

女性は男性に食べさせてもらうのが当たり前の時代は昔の話。「女性も稼いで経済的にも台頭にならなければいけない」のは、男女平等の観点からいえば正しいのですが、現実社会がそうなっていないため、その価値観に苦しんでしまうアキコさんのような女性もいるのです。

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