【高校野球】甲子園で「ベンチ入りできないはずだった」…途中出場選手に降り注いだ拍手

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選抜出場が決定した際の花咲徳栄ナイン【写真:荒川祐史】

例年ならベンチ入り18人だが今回は20人、背番号20の選手も

新型コロナウイルスの影響で中止となった選抜出場予定32校による「2020年甲子園高校野球交流試合」が10日、甲子園球場で開幕した。一時は失われた目標の場所で、選手たちは最高のパフォーマンスを見せてくれた。スタンドで観戦、取材をしながら、聞こえてきた音や見えたもの……すべてが球児たちの戦った証になるのではないかと思った。

美しく整備されたグラウンドに場内アナウンスが鳴り響いた。心地よく吹きつける浜風。ファインプレーに笑顔が弾け、ヒットや死球での出塁でもガッツポーズを見せる。これまでの甲子園と変わらないシーンも多くあった。熱戦も同じ。プレーしている監督、選手たちは無我夢中で、その一球に全てをかけていた。

一方で、スタンド通路にはアルコールスプレーが置かれ、第1、第2試合の入れ替えではベンチ内の掃除や除菌がされた。一般客は入場できないため、一、三塁側のスタンドには保護者らが座り、横断幕もより選手たちに近いところに広げられていた。父母たちは間隔を開けて座り、声援と拍手を選手たちに送った。

毎年の甲子園でもよく耳を澄ませば聞こえていたのかもしれない。だが、今回だからこそ、よく聞こえたものがあった。選手交代の時に送られるスタンド応援の拍手だった。これから出場する選手へのエール、ベンチへ退く選手へのねぎらい……両方に込められたものだろう。

例年ならば18人のところ、今年は20人のベンチ登録が可能。第1試合に出場した花咲徳栄(埼玉)は14選手が出場した。6回、二塁打を放った飛川征陽外野手に代わり、背番号18の大里侑也外野手が代走で二塁に向かうと、三塁側の観客席からは大きな拍手が送られた。大里は「拍手は聞こえました。応援されているんだなと感じて、本当にうれしかったです」と感謝し、聖地に立てた喜びをかみしめた。

大里は8回に四球を選ぶと、今度は一塁コーチャーを務めていた背番号17の広沢瑠衣外野手と交代。ベンチからの指示に広沢はポケットに入っていたコールドスプレーを急いで大里に渡し、一塁走者として出場した。この時も大きな拍手が送られていた。だが、広沢は「僕は(拍手は)聞こえませんでした」という。無我夢中だったのだから無理もない。

見慣れない背番号20の選手は未来のエース?

広沢は「甲子園に僕は出場できると思っていなかったので、驚きました。選抜のメンバー発表の時、僕はベンチ入りに入っていませんでしたから、20人になったことで入れたと思っています。出場できてうれしかったです。ユニホームもこの通り、汚れていますし……」と視線を自分の体にやった。

途中出場した2人の3年生へ送られた声援や拍手、ユニホームについた土は、この2年半、高校野球と向き合った証として、ずっと彼らの胸に刻まれていく。

また、試合開始直後から、甲子園ではなかなか見慣れない背番号20の選手が投球練習をしていた。花咲徳栄の2年生・高安悠斗投手だった。

「投げる準備をしておきなさいと監督から言われていました。自分は選抜が(予定通り)行われていたら、メンバーに入れていなかったと思います。1週間前にベンチ入りできることになり『やってやるぞ』という気持ちになりました」

登板こそなかったが、同じグラウンドレベルに立てたことは財産となった。

「甲子園は迫力のあるところでした。今年は先輩に連れてきてもらったので、来年(新チーム)にこの経験を繋げられるようにしたいです」と183センチ、83キロの恵まれた体格の右腕はこう語った。大きな経験として、また強い花咲徳栄のピースとして、成長していくだろう。

交流試合でも、甲子園は甲子園。彼らがその場に立った事実は一生、変わることはない。誇りにして次のステップへ進んでもらいたい。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)