ジョー“電撃退団”の名古屋はなぜ強いのか 秘密は「2つの相乗効果」

J1の名古屋グランパスが好調だ。

昨季13位と低迷した名門クラブは今季、新型コロナウィルスの影響による中断を挟み、開幕からの6試合を4勝2分と無敗で乗り切った。

第8節の柏レイソル戦で今季リーグ戦初黒星を喫したものの、直近の浦和レッズ戦では前半だけで5ゴールを奪うなど状態の良さを見せつけて勝利を収めている。

6月には2018年に得点王に輝いた元ブラジル代表FWジョーとの契約を解除している。

にもかかわらず、ここまで1試合消化が少ないながらも、名古屋が9節終了時点で4位と上位争いに食い込んでいるのはなぜだろうか。

今回の当コラムでは、攻守のバランスが高次元で整っている要因に迫っていきたい。

戦略家である指揮官が基本形とするのは……

複数のシステムを使い分けるマッシモ・フィッカデンティ監督は「4-2-3-1」をメインに据えている。

こちらが今シーズンの基本システムだ。

守護神は安定感抜群のランゲラックで、最終ラインは右から成瀬竣平、中谷進之介、丸山祐市、吉田豊の4人。

ダブルボランチは稲垣祥、ジョアン・シミッチ、米本拓司がローテーションで起用されており、多士済々のタレントが揃う2列目は右サイドが前田直輝、左サイドはマテウスまたは相馬勇紀で、トップ下はガブリエル・シャビエルと阿部浩之が争う。

最前線は金崎夢生が1番手で、山﨑凌吾が後半途中から投入されるケースが多い。

堅守に加えて攻撃力も

今季の名古屋が好調な理由としてはまず、「堅守」が挙げられる。

昨季途中から指揮を執るフィッカデンティ監督は、緻密な守備戦術をチームに植え付ける手腕に定評があり、選手間の距離感が良い守備ブロックを名古屋でも構築。1試合消化が少ないとはいえ、9節終了時点での総失点7はリーグ4位の成績だ。

守備面の評価が高いフィッカデンティ監督だが、これまでJリーグで率いた2クラブでは、攻撃力に乏しいという一面があった。

FC東京とサガン鳥栖では「4-3-1-2」を軸とした手堅いサッカーを披露する一方、攻撃は個人技頼みの印象が拭えず、組織的な崩しを構築できていなかったのである。

しかし、今季の名古屋は得点力も素晴らしい。9節終了時点での総得点17はリーグ3位で、打開力に優れたアタッカーたちの躍動が数字にもしっかり反映されている。

攻撃力に乏しい印象のあったフィッカデンティ監督のチームが、得点力を発揮できている背景には、前任者の存在があった。

好調の理由は“2つの土台の融合”

イタリア人指揮官がチームを託される前の名古屋は、風間八宏氏の下でポゼッションサッカーを標榜していた。

川崎フロンターレ時代にも魅力的なスタイルを作り上げた知将は、名古屋でも同様のメソッドで指導にあたった。ボールホルダーを複数人がサポートし、細やかなパスワークで相手の守備を切り裂いていくスタイルはまさに“風間色”。

本職がボランチのプレーヤーをセンターバックで起用するなど独自の采配で、魅惑のポゼッションサッカーを完成させようとしていた。

だが攻撃的なスタイルを貫いた反面、守備面には不安を抱えていたのも事実で、2019シーズンの途中で成績不振により風間監督は解任の憂き目に遭った。

しかし、2年半に渡り徹底させた組織的な崩しは着実に浸透しており、監督交代があっても攻撃力は落ちなかった。つまり、“攻撃の風間”と“守備のフィッカデンティ”という2つの土台が融合した結果が、今季の好成績につながっているのである。

10年ぶりのリーグ制覇へ向けて

ここまでの好調ぶりを踏まえれば、2010年以来となるリーグ制覇への期待も高まる。最後のセクションでは、優勝に向けて必要なファクターを考察していきたい。

まずは、「主力選手のコンディションを終盤まで維持できるか」という点だ。

今季の名古屋は怪我人が相次いだこともあり、メンバーを固定して戦わざるを得ない状態が続いている。過密日程に加え、夏場の暑さも辛くなるこの時期を乗り越え、シーズン終盤まで戦力値を落とせず戦い抜けるか。

主力の離脱が続けばシステム変更による対応も考えられるが、複数のシステムを巧みに使い分ける指揮官であれば心配は無用。シミッチをアンカーに置いた「4-3-3」や丸山をリベロに据えた3バックをすでに試行しており、今後も戦況に応じて布陣をセレクトするはずだ。

そして、最前線に入る金崎と山﨑の爆発も優勝へ向けたピースと言える。ともに万能型のストライカーで、競り合いの強さとポストプレー、前線からの守備が持ち味だが、今季は両名ともリーグ戦の得点がまだない。

打開力に優れる2列目を活かす役回りをこなしているため致し方ない面もあるが、やはりフォワードが点を取り出せば勢いづくのは間違いない。

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特に金崎は実績・経験ともに十分なだけに、これから彼が2桁得点を記録できれば、リーグ制覇の機運はグッと高まるだろう。

written by ロッシ

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