ユニクロを買っていたら68倍に!コロナショックを乗り越え、盛り上がるIPO市場

新型コロナウイルスの影響で、一時は休止していた新規株式公開(IPO)が好調です。銘柄の動きを示すIPOインデックス(加重平均)が堅調に推移しています。これは対象銘柄の騰落率を時価総額で加重平均したもので、国内株式市場のIPO銘柄の上場後1年間の平均的な動きを表す指数です。QUICKが算出、公表しています。


3月、公開価格を上回ったのはわずか6銘柄

今年のIPOは、例年通り2月から始まりましたが、新型コロナウイルスが世界的に感染拡大となったことを背景に、IPO市場にも大きな影響が出ました。

3月のIPOは24銘柄あった一方、公開価格を上回る初値を付けたのは、わずか6銘柄でした。

IPO銘柄は初物であり、おおよそ投資家に顔なじみが少ない銘柄です。さらに、上場前なので詳細な情報の開示が十分でないことも多分にあります。

その分、公開価格は本来の価値から値引きされているのが一般的です。市場吸収金額(公開価格×公開株式数)が多額である、IPOの資金用途が借入金返済に充当する予定、再上場銘柄など、投資マインドが低下させられるような条件が重ならなければ、初値は大方、公開価格を上回る傾向にあります。

しかし、今回のコロナ禍では、前述したような場合でなくても初値不振が続出しました。そして、19銘柄が上場を延期しました。

市場は約2か月半の沈黙後、再開

市場では、4月6日に東証マザーズにIPOした松屋アールアンドディ(7317)を最後に、約2カ月半もの間IPOは行われませんでした。沈黙期間を経て、6月26日に東証マザーズ上場の画像認識ソフトウェアの開発を手掛けるフィーチャ(4052)を皮切りにIPOが再開されました。

再開から8月11日までに15銘柄がIPOしました。沈黙期間前の初値不振とはうってかわり、15銘柄の初値はすべて公開価格を上回りました。単純平均で、初値は公開価格の3.3倍となりました。

なかでも、ともに東証マザーズへIPOを果たした、フィーチャ、ITエンジニアの派遣等を営みますブランディングエンジニア(7352)の2銘柄は、IPO初日から3日目に、公開価格に対してそれぞれ9.1倍、6倍の初値を付けました。

再開後の初値が高騰した理由

初値が高騰した理由として、約2カ月半ぶりにIPOが再開されたこと、資金吸収金額が10億円未満の少ない銘柄が多かったことなどが考えられます。また、3月期本決算を発表した多数の企業が、通常は同時に公表する今期業績予想を未定としたことも背景にありそうです。

なぜなら、IPO銘柄は今期業績計画をすべて開示しているからです。さらに、堅調な業績計画であることも投資家の買い安心感を誘った一因ではないでしょうか。

一方、セカンダリーは冴えない展開が散見されます。IPOが再開から、7月31日上場の日本情報クリエイト(4054、東証マザーズ)まで14銘柄について、初値を100として、終値を指数化した終値を指数化した単純平均のグラフを見てみます。8月7日にIPOしたティアンドエス(4055、東証マザーズ)は初日に初値が付かなかったために、含めていません。

このように、終値を単純平均した指数は右肩下がりでした。IPO後しばらくは、需給優先で株価が形成されやすく、IPO銘柄個々の実力を推し量れていないのかも知れません。

良いIPO銘柄を見極めるには

IPOはダイヤモンドの原石のような銘柄がある一方、ベンチャーキャピタルの出口案件としての銘柄もあることも事実です。

例えば、今や日本を代表する、世界3位のSPAである「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングも、かつてはベンチャー企業でした。ファーストリテイリングは1994年7月に広島証券取引所にIPOし、好調な業績を背景に株価は長期的に上昇しています。

初値で株を買ったとすると上場来高値を付けた2019年7月には、初値の約68倍となります。

ファーストリテイリングのような銘柄に投資をするためには、企業の潜在的な成長力を見極めることが重要だと考えます。上場後は業績を公表するだけではなく、取締役会の構成、買収防衛策、コーポレートガバナンスに関する考え方など、様々な情報が次第に開示されていき、企業が株主に対して積極的に対話しようとする動きも出てきます。それに伴い、投資家の選別は進んでいくと考えられます。

ただ、企業業績の中長期の先行きを予想することは難しいことだと思います。企業へ直接取材をし、一般投資家よりも詳細な情報を持っているアナリストの見解、つまり羅針盤を利用するのも投資方法のひとつの方法だと考えます。

現在、いちよし証券は中小型成長銘柄の中長期投資が重要だと考えています。

<いちよし証券 投資情報部 野原直子>

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