汗する人

 その日の最高気温が35度以上になれば猛暑日と呼ぶ。「極暑(ごくしょ)日」か何か、そろそろ40度以上を指す気象用語が要らないだろうか。きのう関東では40度を超える所もあった▲不急の外出を避け、汗が噴き出るような行いは控えたい時節だが、一方で汗する人の姿は時に尊く、忘れがたい。例えば「長崎原爆の日」、式典会場には汗を拭き拭き、手を合わせるお年寄りの姿があった▲熊本県からは“汗の便り”が届いた。7月の豪雨にやられた人吉市で、旧友が民家から土砂を運び出す作業を手伝ったらしい。県境を越えた手助けを頼めず、被災者は大変だと友人は言う▲詩人の杉山平一さんに、汗する人に寄せた一編、「風鈴」がある。〈かすかな風に/風鈴が鳴つてゐる/目をつむると/神様 あなたが/汗した人のために/氷の浮かんだコップの/匙(さじ)をうごかしてをられるのが/きこえます〉▲汗をかき、何かに一心に向かう姿を、遠くから誰かが見ている。その人はコップの氷をかき混ぜ、そっと渡してくれる。カラカラと氷が鳴る音は、汗する人だけに聞こえるのかもしれない▲きのうの甲子園交流試合で創成館高が勝利した。一度つかんだ出場が大会中止で夢と消えたが、悔し涙をひたむきなプレーで汗に変えたに違いない。耳を澄ませば涼やかな氷の音が響くだろう。(徹)

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