やっぱり控訴

 6日の広島。「黒い雨」訴訟原告団長の高野正明さんは「被爆者」と認められた8日前の勝訴判決の喜びを携えて、仲間とともに平和記念式典に参列していた。援護の“空白”が終わることを信じて-と地元紙の中国新聞が伝えている▲「ぬか喜び」や「思わせぶり」では、その落胆や失意を説明できまい。政府と広島県・市が12日、この判決を不服として控訴した。もちろん、三審制がこの国のルールであることは承知しているが▲控訴の一方で、加藤勝信厚労相は援護対象地域の見直しに前向きな姿勢を示した。「最新の科学技術を用いて可能な限りの検証を行う」という。なぜ、判決を受け入れる、という素直な対応ではいけないのだろう▲厚労相は「十分な科学的知見に基づいたとは言えない」と判決に反発している。だが、広島地裁判決は援護対象地域の線引き自体、急ごしらえで“科学的根拠”が怪しいことに言及している。今更、改めて、どんな整理が可能なのだろう。残された時間は短い▲安倍晋三首相は、控訴について問われ「被爆者は過酷な状況の中で、筆舌に尽くし難い経験をされた。今後もしっかり援護策に取り組む」と語った▲一国の首相の言葉だ、ウソはあるまいと思う。それでも、率直な感想を抑えきれない。どの口が言うのか-と。(智)

 


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