BTCC第2戦:BMW2勝。ホンダ、インフィニティとの2020年濃密3強バトルはさらに激化

 2020年BTCCイギリス・ツーリングカー選手権の第2戦が8月8~9日の週末にブランズハッチのGPレイアウトで開催され、Team Dynamicsのダン・カミッシュ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR/Halfords Yuasa Racing)が、このトラックでタイトルを逃した昨季最終戦の悪夢を払拭する涙の勝利を飾った。

 続くレース2では名門West Surry Racing(WSR)の王者BMWも意地を見せ、ディフェンディングチャンピオンのコリン・ターキントン(BMW330i Mスポーツ/Team BMW)、そして僚友の若手トム・オリファント(BMW330i Mスポーツ/Team BMW)がBTCC初勝利を手にするなどBMW勢が躍進を見せた。

 また、今季からインフィニティにスイッチした2017年チャンピオンで、前戦勝者のアシュリー・サットン(インフィニティQ50BTCC/Laser Tools Racing)も2度の表彰台を手にするなど、今季は早くもBMW、ホンダ、そしてインフィニティの3強が形成されつつあると同時に、新型マシンで初ポールポジションを得たロリー・ブッチャーらのフォード・フォーカスST勢(Motorbase Performance)や、レース2で2位表彰台のトム・イングラム(トヨタ・カローラBTCC/Toyota Gazoo Racing UK with Ginsters)らが、3強包囲網を形成する戦況となっている。

 15年ぶりに開幕戦の舞台となったドニントンパークを経て、バック・トゥ・バックでの開催となったブランズハッチのフルレイアウト、GPコースでの勝負は公式練習から新鮮な顔ぶれが躍動する。

 元F1ドライバーで、昨季は自身もBTCCに電撃参戦したマーク・ブランデル率いる新チームの船出に意気込むも、開幕戦はエンジントラブルによるリタイアで涙を飲んだジェイク・ヒル(ホンダ・シビック・タイプR/MB Motorsport accelerated by Blue Square)が2度の公式練習でトップタイムをマーク。

 その勢いのまま、予選でも好調さをキープして好タイムを記録したものの、ヒルを0.055秒差上回り最前列を占めたのがFK8型に乗るカミッシュと、2台のフォード勢。ポールポジションを射止めたブッチャー、2番手カミッシュに続き、3番手にもオリー・ジャクソン(フォード・フォーカスST/Motorbase Performance)が入るなど、フォーカスSTの完成度とスピードが侮れないものであることを証明した。

「3月のテストで初めてステアリングを握った瞬間から、このクルマは競争力のあるパッケージだと確信していた。開幕ドニントンの予選ではそのパフォーマンスを充分に引き出せなかった反省があり、ここで微調整を加えたことが成功に繋がった。新型モデルの初ポールは設計と製造、チーム全員の仕事がいかに素晴らしいものだったかを証明するものだ」と予選後に喜びを語ったブッチャー。

予選上位19台までが秒差圏内というハイレベルな勝負を制したMotorbase Performanceのフォード・フォーカスST
R1は、ヒュンダイi30 Fastback N Performance、インフィニティQ50BTCC、そしてFK8型ホンダ・シビック・タイプRのクラッシュから大きく情勢が変化する
「公式練習で、フォードがタイヤをブローさせていたのは知っていた」と語るダン・カミッシュが、自らの腕で運を引き寄せる

■後方のクラッシュが悲劇の引き金に

 しかし、明けた日曜のレース1では、そのフォーカスSTを試練が襲う。無難なスタートからPaddock Hill Bend(パドックヒル・ベンド)に向けホールショットを決めたブッチャーは、首位をキープしてオープニングラップを終え、2番手カミッシュのシビックから執拗なプレッシャーに耐え続ける展開に。

 その後方では、5番グリッドからFRのトラクションを活かしてインサイドを進み、druids(ドロイド)のヘアピンで3番手に浮上した王者ターキントンが続いていく。

 レース前から「タイヤマネジメントこそ鍵になる」と語っていた2番手カミッシュだが、今季からワンメイク供給されるグッドイヤーを労りながらも、レース終盤に向けフォードのテールを追い立て続ける。

 すると、残り周回が少なくなったところで中団バトルでのクラッシュが発生。クリス・スマイリー(ヒュンダイi30 Fastback N Performance/Excelr8 Motorsport)とエイデン・モファット(インフィニティQ50BTCC/Laser Tools Racing)のバトルに追いついた大ベテラン、マット・ニール(FK8型ホンダ・シビック・タイプR/Halfords Yuasa Racing)が、GPループに入って最初の高速コーナー、Hawthorn Bend(ホーソン・ベンド)でヒュンダイのテールに続きインサイドに入ったところ、アウト側にいたインフィニティと接触しコースオフ。サスペンションを破損して自走不能となり、セーフティカー(SC)出動の引き金となってしまう。

 その車両回収を終え、レースは残り2周の16周目からリスタートが切られると、Paddock Hill Bend(パドックヒル・ベンド)を駆け下りた首位ブッチャーのフォーカスに悲劇が。

 続くヘアピン、druids(ドロイド)への進入でインサイドに飛び込んできたカミッシュとサイド・バイ・サイドになったブッチャーはブレーキング競争でロックアップ。その瞬間、左フロントのパンクチャーに見舞われたフォーカスはワイドラインとなり、そのまま無念のスローダウン。

 これで首位奪取となったカミッシュは2番手ターキントンを引き離す怒涛のスパートを見せて18周のトップチェッカー。2019年のタイトル争いがここブランズハッチGP、Hawthorn Bend(ホーソン・ベンド)のバリアで終焉を迎えた悪夢を克服し、レース後には「フィニッシュラインを通過した際は、思わず感情が溢れた」ことを認めた。

「昨年最終戦の傷心から、ここまでカムバックするのは本当に大変だった。嘘を吐きたくないので正直に言うが、チェッカーの瞬間は涙が止まらなかった」とカミッシュ。

「チームはここまで僕を精神的に支え、さらに彼らは今日僕に素晴らしいレースカーを与えてくれた。関係者全員に感謝したいし、みんなを誇りに思う」

残り2周でトップ陥落となったロリー・ブッチャー。同じくR3でも表彰台圏内走行中にタイヤを壊している
予選では14番手と出遅れたものの、R1で6位まで巻き返し、R2の表彰台に繋げたアシュリー・サットン
R2はスタート勝負で盤石の横綱レースを披露した4冠王者コリン・ターキントン。大量リードで選手権首位を堅持する

■ブッチャーが25番手スタートから脅威の挽回

 続くレース2は、さすがのカミッシュもサクセスバラスト満載のシビックで思うようにスタートが切れず、2番手BMWのディフェンディングチャンピオンが首位を奪取。序盤はそのBMWを2番手トヨタのイングラムと3番手カミッシュが追う展開となる。

 しかし終盤にパワーステアリングのトラブルが発生したカミッシュが後退すると、代わって6番手発進だったインフィニティのサットンが、ジャクソンらのフォードもかわして表彰台圏内に浮上。そのままBMWターキントン、トヨタのイングラム、そしてインフィニティ・サットンの順で18周のチェッカーとなり、ターキントンは早くも今季2勝目をマーク。さらにレース1の悲運で25番手からスタートしたブッチャーが4番手までカムバックし、このレースもうひとりの主役となった。

 そして最終レース3は、リバースポールから発進したモファットのインフィニティと、2番手ステファン・ジェリー(BMW125i Mスポーツ/Team Parker Racing)に対し、彼らと同じFRマシンに乗るオリファントが豪快なオーバーテイクを披露。

 2周目のホームストレート上で前を行く2台に対し、アウト側から仕掛けたブラック&ブルー/レッドのBMW330i Mスポーツは、そのままPaddock Hill Bend(パドックヒル・ベンド)で大外刈りを披露して一気に首位に躍り出る。

 レース中盤で2番手に浮上してきたサットンのインフィニティがテール・トゥ・ノーズにまで迫ったものの、ここで落ち着いた対処を見せたオリファントが15周を抑えきり自身初のトップチェッカーを受け、WSRにとっても記念すべきBTCCで300回目の表彰台を獲得。2位にはこの日2度目のポディウムとなるサットンが続き、終盤まで3位を走行していたブッチャーは再びのパンクで後退。代わってBMW125iのジェリーが今季初表彰台を得ている。

 この結果、4冠王者ターキントンがランキング首位を堅持し、16ポイント差でサットン、さらに9ポイント差でオリファントが続く展開となったBTCCイギリス・ツーリングカー選手権。第3戦も1週のインターバルを経た8月22〜23日にオールトンパークで争われる。

R1は4位、R2では2位表彰台のトム・イングラム(トヨタ・カローラBTCC/Toyota Gazoo Racing UK with Ginsters)は、R3のオープニングでアクシデントに巻き込まれる
R3全域に渡ってドッグファイトを繰り広げたFRサルーンの2台。BTCCで3年目のトム・オリファント(BMW330i Mスポーツ/Team BMW)が待望の瞬間を迎えた
「タイヤは厳しかったが、コース上で強い場所とトラクションにだけ気をつけた。まだ信じられない気分だ」と、喜びを語ったトム・オリファント

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