貯蓄をしていても危ない“定年後の5つの崖”、老後破綻へ転がり落ちる前に気をつけたいこと

定年までずっと働いてきたので、老後資金も退職金と貯蓄を合わせれば約3000万円の準備ができた。それに公的年金と企業年金の両方をあわせれば、何とか生活費を出すことができ、老後資金からの取り崩しも毎月5万円ぐらいだろう。だいたい生活できそうだという計算になるので一安心と思っていませんか。

たしかに、現状では100歳近くまで資金はマイナスにはならないので、安心です。とは言っても完全に安心することはできません。ずっと資金がプラスになっている人でも、定年後には5つの崖が待っています。

この崖をうまく乗り越えないと一気に、転がり落ちて、老後資金が尽きてしまうということもあるのです。「定年後に待っている5つの崖」についてお話しをしましょう。


再雇用・再就職の崖

1つ目が、再雇用・再就職の崖です。
60歳で定年退職して、その約8割の人が再雇用で働いています。しかし再雇用は、正社員ではなく、契約社員という形態をとっている会社が多く、給料が半分になるということも、けっして珍しい話ではありません。

とはいえ、高齢雇用継続給付金というのがあり、60歳の給料よりも75%未満の場合、賃金の最大15%の給付を受け取ることができました。ところがそれも2025年より段階的に廃止されるのが決まっています。

定年後は、雇用も変わり給与も少なくなると覚悟はしていても、いざ減った給与での生活は厳しいものがあります。もし、現役時代と同じような生活を続けていると、用意していた老後資金もどんどんなくなって、老後の資金計画は狂ってしまいます。

この60歳から65歳の期間は、再雇用で給与があります。これを年金暮らしの助走期間として、年金だけの生活にあわせるために支出を見直す時期と考えてください。現役時代と同じ支出を続けていると老後破綻の道をまっしぐらということになりかねません。

生命保険なども払込満了になっていたりするので、見直しが必要です。ここで年金生活への準備を進めておきましょう。

年金生活の崖

2つ目の崖が65歳の再就職の終了です。

ここから大きな収入というのが、公的年金に移る人が多いです。つまり年金生活になるということです。年金だけでは生活費が足りないという場合には、老後資金からの取り崩しになります。60歳から支出を見直しながら年金生活に移行できれば、老後資金からの取り崩し額が減って資金寿命を延ばすことができます。

また、少しでも働いていれば月に数万円ずつでも収入があれば、さらに資金寿命を延ばすことができます。この年金生活で、もっとも大切なのが収支のバランスです。キチンと管理しておきましょう。

企業年金終了の崖

3つ目の崖が、企業年金の終了です。

企業年金は、以前は終身年金があり一生涯企業年金を受け取ることができました。しかし現在は終身年金を採用している企業は少なくなっています。長寿社会でしかも低金利時代ですので、終身年金を維持するのは難しい時代です。企業年金の中心は有期年金になっていて、平均で15年の有期年金というのが多いです。

ということは、60歳から企業年金が始まると、だいたい75歳ぐらいで終了するということになります。意外に企業年金が終わるということを忘れていたという人が多くいます。

「たしかに企業年金の説明は受けたけど……」と、そのことはすっかり忘れていたとか、「ずっと受け取れると勘違いした」という人もいました。企業年金の終了の通知を受け取ってから慌てないでください。企業年金の額は、それぞれ異なると思いますが、毎月の5万円や10万円の収入がなくなると言うのは、かなりなダメージになります。老後資金の取り崩し額がグッと増えて、資金計画が狂ってしまい老後破綻なんてこともあります。注意が必要です。

介護・認知症の崖

4つ目の崖が、介護・認知症のリスクです。健康寿命というのをご存じでしょうか。

健康寿命とは、健康で問題なく日常生活を送れる期間のことです。男性が約72歳、女性は約75歳です。平均寿命との差でみると男性は8.84年、女性は12.35年です。ということは健康寿命の尽きた期間は9〜12年間あり、この期間はなんらか不健康な状態ということです。いくら元気だといっても70歳以降は、とくに健康には留意したいです。やはり大きな問題は、介護、そして認知症です。

では、介護になった時には、どのくらいの費用がかかるのかというと、約800万円です。損保ジャパン日本興亜の「介護費用に関するアンケート調査」では、介護にかかる初期費用は98.1万円、介護にかかる月額費用は12.7万円、介護費用の総額は平均787万円という結果があります。

介護の期間というのは、どのくらい続くのかを事前に予想することはできませんが、介護費用として800万円くらいは予備費を準備しておきたいものです。

配偶者死亡の崖

5つ目の崖は、配偶者の死亡です。

平均寿命を考えると、男性の方が先に亡くなって、女性が後に残る可能性が高いです。夫が先に亡くなった場合、妻には遺族年金が支給されます。金額は、老齢厚生年金の3/4の金額で、基礎年金はなくなります。また妻も老齢厚生年金を受給している場合には、一部または全額支給停止になることもあります。遺族年金が意外に少ないかと感じるかも知れません。

妻が先に亡くなった場合には、妻の基礎年金がなくなります。いずれにしても、夫婦2人分の年金が1人分になるので少なくなります。たしかに1人になったので生活費が減るかも知れませんが、年金の減少額の方が大きいので、生活は厳しくなるといえます。

その場合も老後資金の取り崩し額が多くなると予想されます。そして、何よりも精神的な面が大きいでしょう。

このように、定年後には、5つの崖が待っています。しかも避けることが難しい崖です。これは何とか事前に準備しながら乗り越えていくしかありません。万が一にも、老後破綻へと転がり落ちないように前もって備えておいてくださいね。

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