竹内まりや「プラスティック・ラブ」シティポップブームの火付け役

1984年 4月25日 竹内まりやのアルバム「VARIETY」がリリースされた日

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海外でも大人気! 日本のシティポップ

今日はまず、NHK Eテレで2020年3月まで放送されていた『世界へ発信!SNS英語術』を紹介したい。この番組はいわゆる “語学教育番組” ではあったが、Twitter の投稿をテーマの “#”(ハッシュタグ)から紹介したり、出演者に英語でツイートさせたりした点が新しかった。

この番組で特に僕の記憶に残っているのが、「海外で人気!日本の “シティポップ”」と題した2020年2月の放送回である。番組の Twitter では、放送前に「いま、70年代~80年代にかけての日本のポップスが海外で “シティポップ” と呼ばれ、大きな人気となっています」「海外でのシティポップブームの火付け役となった、#竹内まりや のある曲の動画とは!?」などとツイートされていたから、僕も観る前から興味津々であった。

海外からはこんなツイートが!

放送では、日本から離れて起きた思わぬブームの背景について解説しつつ、例えばこんなツイートの数々を紹介していた。

#YamashitaTatsuro is the soundtrack of my life #citypop

Never thought I'd ever be interested in 40-year old Japanese pop, but as it turns out I can't stop listening to Taeko Onuki or Akiko Yano.

I probably listened to Plastic Love like a thousand times....helped me stay focused.Gotta reminisce in those 80's memories that I never had. Good times!#MariyaTakeuchi #PlasticLove #citypop #vaporwave #retro

Man the song "Ride on Time" by Tatsuro Yamashita is a gold mine that I can't... Stop ◎ Listening ◎ Tooo good.

I would die for Tatsuro Ysmashita. All of his songs are absolute bangers #citypop #tatsuroyamashita

Who would've thought that Mariya Takeuchi and Tatsuro Yamashita are married? The queen and king of City Pop are husband and wife. Wow.
最後のツイートはインドネシアからだそうだが、「シティポップのクイーンである竹内まりやとキングである山下達郎が夫婦だったことに驚いた」だなんて、日本人である僕にとってはなんだか新しい。この2人の他にも大貫妙子や矢野顕子の名前が出てきていて、とにかくこの界隈の音楽が “シティポップ” と呼ばれているようだ。

シティポップブームの原点、竹内まりや「プラスティック・ラヴ」

放送では、解説者の佐々木俊尚が、2018年に竹内まりやの「プラスティック・ラヴ」が YouTube で驚異的な再生回数を叩き出したことについて触れ、「この曲こそが今のシティポップブームの原点になった」とコメントした。

このことは、米国の音楽誌『Rolling Stone』で既に触れられていて、2019年5月に掲載された「City Pop:Why Does the Soundtrack to Tokyo’s Tech Boom Still Resonate?」という記事(日本版では「日本のシティポップは、なぜ世界中のリスナーを虜にしているのか?」と題して2019年8月に掲載)の中でこのように紹介された。

Last year, the all-powerful YouTube recommendations algorithm passed through this prism of sound and offered up "Plastic Love," a 1984 song by Mariya Takeuchi that came out of nowhere to garner millions of views.

昨年、極めて優秀な YouTube のリコメンデーション・アルゴリズムによって、竹内まりやの1984年作「プラスティック・ラヴ」は何百万という再生回数を記録した

こうした世界的な盛り上がりを背景に、今度は発売元であるワーナーミュージック・ジャパンが、リリースから35年を超えた2019年5月、新MVを発表した。このように、最初に非公式の動画がアップロードされ、2,500万回以上も再生された後に、満を持して公式動画が登場するという流れは、とても現代的だと思う。

山下達郎プロデュース、ムーンレコード移籍第一弾アルバム「VARIETY」

ところで、「プラスティック・ラヴ」が収録されたアルバム『VARIETY』は、日本人アーティスト作品の中で僕が学生時代に一番聴いたレコードであり、個人的にとても思い出深い。彼女のムーン・レコード移籍第一弾として1984年にリリースされたが、彼女にとって結婚後初の、そして初めて全曲竹内まりや作詞・作曲、山下達郎全面プロデュース・アレンジという作品だった。

『VARIETY』以前の彼女は、質の高い作品を出してはいたものの、どこかアイドル的な扱いを受けていたし、他人が書いた楽曲も多かったので、正直アーティスト感は薄かった。だから、この作品は、アーティスト竹内まりやのデビューアルバムと言ってもいい。『VARIETY』の名にふさわしくバラエティ豊かで、多種多様な楽曲が揃っていることから、まるで「竹内まりやはこういう曲が書けますよ」というメニューを見せられているようでもあった。

そんな中で「プラスティック・ラヴ」は、ディスコっぽいサウンドで、失礼ながら以前の彼女のイメージにはなかった “クールで都会的” なムード満載だった。彼女の作品の中で最も山下達郎っぽい曲で、実際に彼自身もライブでこの曲を何度も演奏している。きっとこの曲がなければ、竹内まりやが外国人から “シティポップのクイーン” なんて呼ばれることはなかったんじゃないかとさえ思う。

シティポップが海外の音楽ファンの目に留まった理由

さて、「プラスティック・ラヴ」を含めた、シティポップと呼ばれる日本語の楽曲たちが、どうして英語圏の音楽ファンに見つかったのかだろうか。これについての僕の仮説はこうだ。

アナログのポップスが量産されなくなった現代では、AORとかスティーリー・ダンのような都会的で洗練された、でもちょっと小難しい音楽を志向するオタクたちの関心は、旧譜に向かわざるを得ない。だから、必ずいつかは追求し尽くしてしまう日が来るわけで、そんな人たちの中に非英語圏にまで手を伸ばそうする輩がいたとしても、全く不思議ではない。

一方で、アナログ時代の音楽で、そんなオタクたちを満足させられるような作品など、世界広しと言えどもそうそうないだろう。そこで辿り着いたのが日本語の楽曲たちだった、ということではないだろうか。少々消去法的ではあるが、とにかく “日本語を理解できなくても手を伸ばしたくなる” クオリティだったことは間違いない。

歓迎すべきはグローバリゼーションとインターネット

そう言えば、テレビ東京の『YOUは何しに日本へ?』では、シティポップが何度も取り上げられている。この番組は「訪日外国人を空港で勝手にお出迎えして直撃取材を敢行」することで知られるが、2017年8月の放送回では、大貫妙子のアルバム『SUNSHOWER』のアナログ盤を探すために来日した米国の音楽ファンに密着。結局、西新宿のレコード店で奇跡的に発見するのだが、番組で取り上げられたことが話題となって、このアルバムの再プレスが実現した。

また、同年12月の放送回では、スコットランドから予算10万円で40枚のアルバムを買いに来たファンに密着。最もお目当てだった吉田美奈子の「恋は流星」(アルバム『TWILIGHT ZONE』に収録)のオリジナル盤を発掘できたものの、予算オーバーで購入を断念するという顛末が放送された。

もちろん、こうやってTVで取り上げられるのは、氷山の一角に過ぎないのだろう。でも、こういうことが日常的に起こっているのだとすれば、それはまさにグローバリゼーションとインターネットによってもたらされた “新たな機会” と言えるし、僕たち日本の音楽ファンにとっても歓迎すべきことだと思うのである。

■ 竹内まりや / プラスティック・ラヴ
■ 作詞・作曲:竹内まりや
■ プロデュース:山下達郎
■ 発売:1984年4月25日(収録アルバム『VARIETY』リリース日)

カタリベ: 中川肇