モーリシャス沖の貨物船の重油流出、なぜ深刻なのか

©BBCグローバルニュースジャパン株式会社

ナヴィン・シン・カドカ環境問題担当記者、BBCワールド・サービス

インド洋の島国モーリシャス沖で座礁した、日本の会社が所有する貨物船「わかしお」から流出した重油は、過去の事例と比べると量が比較的少ない――。複数の専門家がそう指摘している。それでも、サンゴ礁や島の南東部の海岸に及ぼした打撃は甚大で、影響は長期にわたるという。

沖合で起きた過去の流出事故と異なり、今回は環境保護の対象となっている2つの海洋生態系と、国際的に貴重な湿地帯である自然保護区ブルー・ベイ・マリーン・パークの近くで起きた。

つまり、流出の量よりも場所が、環境への深刻な影響という意味で、大きな懸念材料となっているのだ。

鮮やかな青緑色の海が広がり、数多くのインド・ボリウッド映画の舞台となってきたモーリシャス・マエブール村沖の青いサンゴ礁地帯は、今や黒と茶色に染まっている。

わかしおは7月下旬、ポワントデスニーで座礁。6日に重油が漏れ出した。衛星写真は、モーリシャス本島のポワントデスニーと別の島との間に、重油が広がっている状況を示している。


サンゴ礁に漏れ出した重油は1000トンを超えるとみられている。多くの地元住民がボランティアとして参加し、重油の除去活動を続けている。

座礁から2週間近くたった8月7日、モーリシャス政府は非常事態を宣言した。

生物多様性のホットスポット

モーリシャスは特有の植物や動物が密集する、生物多様性のホットスポットだ。

「風と海水の流れは助けになっていない。重要な海洋生態系のあるエリアに、重油を運んでしまっている」と、環境保護団体グリーンピースの元戦略家で、流出現場近くの島にいるスニル・モクシャナンダ氏はBBCに話した。

国連の生物多様性条約によると、モーリシャスの海は、魚800種、海洋哺乳類17種、カメ2種を含む1700種の生き物のすみかとなっている。

サンゴ礁、海草、マングローブが、並外れて豊かな海をつくっている。

「これだけ豊かな生物多様性のある海は、もうほとんど地球に残っていない」と、英ブライトン大学で海洋生物学を教えるコリーナ・チョカン博士は言う。

「流出した油は海面でギラギラしているものだけではない。油の一部は水に溶けて、水面下にムースのような層をつくる。さらに海底には分厚い残留物がたまる。つまり、海洋生態系全体が影響を受ける」


わかしおは約4000トンの燃料を積んでいたとみられている。うち1200トン近くがすでに流出したと、運航会社の商船三井は説明している。

プラヴィン・ジャグナット大統領は、悪天候の中で貨物船の燃料はタンクからすべて除去されたと話した。ただ、タンク以外に少量が残されているという。以前は、船体が真っ二つに割れ、さらに重油が漏れ出す恐れが指摘されていた。

燃料はヘリコプターで海岸に運ばれ、わかしおを所有する日本の海運会社、長鋪汽船の別の船に移される。

わかしおが、なぜこれほどサンゴ礁に近づいたのかは明らかではない。警察が現在、捜査を進めている。

商船三井の小野晃彦副社長は記者会見で、流出と「多大なるご迷惑をおかけ」したことを「深く」わびた。

サンゴの変色

深刻な影響が心配されているものの1つがサンゴ礁だ。多様な生き物が暮らすことから、サンゴ礁は海の熱帯雨林とも呼ばれる。

米海洋大気局によると、海に住む魚の約25%が、健康なサンゴ礁に頼って生きている。

サンゴ礁は海岸を嵐や浸食から守る。モーリシャスの主要産業である観光業にとって、サンゴ礁と海洋生態系は大きな柱だ。


「流出した油から毒性のある炭化水素が出て、サンゴ礁を変色させる。サンゴ礁はやがて死んでしまう」。国際的な流出問題のアドバイザーで、米アラスカ州に住む海洋生物学者のリチャード・スタイナー教授は、そう指摘する。

スタイナー教授は昨年、ソロモン諸島沖のサンゴ礁で油の流出が起きた際、同国政府を支援した。

「流出した油は多くはなく、数百トン程度だった。それでも、サンゴ礁はものすごい被害を受けた」

過去の油流出の影響

これまでの油の流出は、環境保護が重大事となっている場所では起きていなかったものの、海洋動物や植物に深刻な影響を及ぼした。

2010年にメキシコ湾でおきた「ディープウォーター・ホライズン」事故では、約40万トンの原油が流出。プランクトンからイルカまで何千種もの生き物が死んだ。

長期的な影響も出た。海洋生物の繁殖力が弱まり、成長が損なわれ、傷や病気が目立つようになるなどした。

「研究者は流出事故から何カ月間も、メキシコ湾北部の魚レッドスナッパーの皮膚に損傷があるのを確認した。2012年までには、損傷は少なくなり程度も軽くなった」と、米南フロリダ大学の海洋生物学者スティーヴン・ムラウスキ博士と、同大学のシェリー・ギルバート氏は、カンバーセション誌で報告した。


「ゴールデン・タイルフィッシュ、ハタ、ヘイクなどの経済的、環境的に重要な種が現在も、炭化水素にいっそうさらされていることを示す他の証拠もある」

1978年には、フランス・ブルターニュ沖で大型原油輸送船が座礁。20万トン超の原油が海中に漏れ出した。

フランスの海岸は約320キロにわたって原油に汚染された。軟体動物や甲殻類などの無脊椎動物が何百万匹も死に、鳥類も2万羽が死んだとみられる。カキの養殖場も汚染された。

専門家らは、こうした油の流出事故で除去できる油は、最善の努力をしても一般的に10%未満だとしている。

フランスは今回のモーリシャス沖の流出事故で、近隣のフランスの海外県レユニオン島から、汚染防止装置を軍用機で輸送した。日本はフランスの活動を支援するため、6人のチームを派遣した。モーリシャスの南東部には、同国の沿岸警備隊と警察が配備されている。

「モーリシャス政府は早急に環境影響評価をすべきだ」とスタイナー博士は言う。

「影響は何年も続くだろう」

(英語記事 Why the Mauritius oil spill is so serious