米国全体の危機 (ハートに刺さるニュース解説)

©Trend Pot NY,LLC

長期化するコロナ感染 混乱と見えない終息

ニューヨーク州の新型コロナウイルス感染拡大は一旦収束したが、「米国全体の危機」は、いつ終わるか予測できない状況だ。

ベトナム戦争、アメリカ同時多発テロ、リーマン・ショックなど、多くの危機をくぐり抜けてきた米国だが、現在は初めてといっていい混乱状態に陥っている。

新型コロナウイルス感染拡大に加え、ブラック・ライブス・マター(「黒人の命は大切だ」以下、BLM)の抗議運動の急速な広がり、そして治安の悪化、学校再開に対する賛否両論など、「市民の不安(civil unrest)」をあおる出来事が同時に起きているからだ。

米国は世界最大の コロナ感染大国

ニューヨーク州など数州を除いた全米では、新型コロナウイルスの感染者数は過去最悪を更新し続けている。

全米の新規感染者数は、7月23日時点で7万 2129人と7万人を超え、4月の約2・5倍に達した。累計感染者数は8月5日時点で483万人となり、300〜400万人までわずか15日ほどだったが、すぐに500万人に迫る勢いだ。累計死亡者数は18万8000人と、日本の140倍にも上る。米国は明らかに、新型コロナウイルスに敗北した世界最大の感染大国だ。

ニューヨーク州での感染拡大はピークを過ぎたとはいえ、油断できない。南部テキサス州の病院では、助かる確率が低い高齢者よりも、若い患者を優先する選択を迫られる地域すらあるという。

客が前に立つと体温が測定されるアプリを使うレストラン

支持党派で分かれる マスク着用率

また新型コロナウイルス関連では、マスク着用をめぐるいざこざが、全米で起きており、市民分断の深刻な問題となっている。

筆者もクイーンズの近所で、マスクを顎に下げている男性に出くわし目が合ってしまった。「まずい」と思った時は遅く、向こうは私に向かって大きく口を開けながら「アアアアアアッ」と、叫び声を上げた。マスクを外していることに対する非難的な視線に対して、大声を上げて嫌がらせをしてきたわけだ。

反マスク派は、共和党、トランプ支持者など、「小さな政府」を好む。多くの民主党知事や市長らが、感染を防ぐため、公共の場所でのマスク着用を行政命令として義務付けた。

しかし反マスク派は、「アメリカ合衆国憲法に定められた個人の人権を侵害する」「マスクをするかしないかという選択の自由を侵害する」として、マスクを嫌う。人に感染させる危険性よりも、個人の人権や自由の方が保守派にとっては重要という言い分だ。

政治ニュースサイト「Axios」によると、外出時にマスクを着用している人は、民主党支持者で83%、共和党支持者で41%と大きな隔たりがある。

一方、フロリダ州最大の教職員組合、「フロリダ教育協会(FEA)」は、ロン・デサンティスフロリダ州知事(共和党)を相手取って、学校の対面授業を止めさせる訴訟を起こした。学校再開に絡む訴訟では初めてだったが、こうした動きは今後、全米に広がっていくだろう。

さらに、南部ジョージア州で6月末に開かれたサマーキャンプは、参加者全員が参加前に新型コロナウイルスの検査で陰性を証明し、期間中もソーシャルディスタンスのルールを守ったが、344人の生徒やスタッフのうち260人がキャンプの後、陽性となった。実に参加者の7割以上だ。

続く抗議活動「BLM」 市民の不安尽きぬ

最後に、未だに市民の不安をあおるのは、黒人のジョージ・フロイド氏が白人警官に首を押さえ込まれて死亡した事件に端を発する抗議運動「BLM」と、武装した連邦捜査官らの衝突だ。

最大の衝突が起きた西部オレゴン州ポートランドから捜査官は撤退したが、ニューヨークやシカゴなどの大都市に、いつ捜査官が現れるか分からない。トランプ政権が捜査官を都市に送り込むのは、ニューヨークやシカゴなどの大都市で、銃を使った犯罪が急増しているためだ。

ニューヨーク市警によると、1月1日から7月12日までに、銃による殺害事件が市内で115件あり、2019年の69件の2倍近くになる。このうち、犠牲となっているのは、1歳児を含む子どもが53人にも上り、これも19年の37人を大きく上回る結果となっている。

治安の悪化は問題だが、かといって武装した連邦捜査官が地元の自治体や警察を無視して、街中を闊歩(かっぽ)するのは間違っている。

そして、反マスク派がいる限り、新型コロナウイルスの感染拡大は長期化するだろう。この不安といつまで戦わなくてはならないのだろうか。

津山恵子 ジャーナリスト。 「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。 フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。 近書に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。