ボズ・スキャッグスとデイヴィッド・フォスター、最初で最後のコラボレーション 1980年 4月1日 ボズ・スキャッグスのアルバム「ミドル・マン」がリリースされた日

リ・リ・リリッスン・エイティーズ ~ 80年代を聴き返す ~ Vol.7
Boz Scaggs / Middle Man

ボズ・スキャッグスのAOR、「ミドル・マン」も評価は高いが…

「AOR」の代表的作品を枚挙するときに、たいてい選ばれる作品ですね。で、そこには、ボズ・スキャッグスの『Silk Degrees』(1976)と『Down Two Then Left』(1977)もたぶん入っています。本作を合わせて、これらはボズの「AOR三部作」と呼ばれています。

ところで、AORとは Adult-Oriented Rock の頭文字ですが、「Album-Oriented Rock」という解釈もあるそうです。「(1曲1曲がどうこうでなく)アルバム全体で聴かせるロック」ということですが、このアルバムがそうなのかと言うと、私にはちょっと疑問です。このアルバムには統一性がない、と私は思っています。もっと言うと作品のデキに差があり過ぎるのです。

いや、それでも充分、買う価値のあるアルバムだとは思いますが、統一性のある名曲・名演奏で溢れた文句なしの名盤、『Silk Degrees』と『Down Two Then Left』に比べてしまうと、どうしても見劣りがしてしまいます。

A面はいい、曲順もバッチリ!

1曲目の「Jojo」、これは群を抜いて素晴らしい。このアルバムに限らず、ボズの全ての作品の中でも最高レベルの名作でしょう。95BPMというかなりゆっくり目のビートに乗せて、まさに大人のロックが展開されます。ただゆったりしているだけでなく、要所要所に、2拍3連(4分音符2つ分の長さを3等分するフレーズ)や、“1拍半フレーズ×6つ+ブレイク” といった“罠”を仕掛けて、適度に緊張の糸を引いてくれます。計算し尽くされたアレンジです。そして何よりも、ボズの独特の歌唱。ホントはめちゃ上手いんだけど、全然 “これ見よがし” でなくて、鼻歌のような軽さがある。この軽さ、やわらかさが実に気持ちいい。

2曲目「Breakdown Dead Ahead」はうって変わって速いシャッフルのロックですが、メロもいいし、ボズの歌はやはり軽やか。佳作だと思いますが、できればドラムはジェフ・ポーカロ(Jeff Porcaro)にしてほしかった。リック・マロッタ(Rick Marotta)も悪くはないけど、何が違うんだろう? ジェフのドラムに比べて “快活さ” が足りない。そうそう、前2アルバムは全曲ジェフが叩いているのに、本アルバムでは9曲中6曲なのです。これが“敗因”のひとつだな。

3曲目「Simone」もいいです。マイナー調で、歌謡曲みたいなメロディが新鮮です。

4曲目「You Can Have Me Anytime」はバラード。バラードには定評のあるボズですが、この曲はまあ “並”。個人的には「Slow Dancer」がベスト。次いで「We’re All Alone」か「Harbor Lights」。だけどこの曲の、カルロス・サンタナ(Carlos Santana)による間奏のギターソロは絶品です。サンタナのパターンと言えばパターンですが、メロディ構成が素晴らしい。歌メロよりもこちらが印象に残ります。

問題はB面、敗因はデイヴィッド・フォスターの起用?

以上でアナログならばA面が終わりなのですが、ここまではいい。曲順もバッチリだと思います。問題はB面。1曲目、CDならば5曲目のタイトル曲「Middle Man」。これ、歌がなかったら完全に “TOTO” でしょう。プレイヤーがほとんど TOTO のメンバーだからとは言え、どうなんでしょうか? デイヴィッド・フォスター(David Foster)がデイヴィッド・ペイチ(David Paich)の代わりを務めているので、フォスターがご愛嬌のつもりでやったのか? まあ TOTO のサウンドは嫌いじゃないので、百歩譲ったとしても、このボーカルはいただけません。ボズにシャウトは似合わない。これならキンボールに歌わせたほうがいい。

この傾向は3曲目「Angel You」、5曲目「You Got Some Imagination」にも現れます。“TOTOもどき”。そもそも TOTO は『Silk Degrees』の時にいっしょに演奏したのがきっかけで生まれたバンドなのに、ここではその “我が子” に頼っているみたい。

そして残りの2曲、「Do Like You Do in New York」と「Isn’t It Time」は、特にどこと言って取り柄のない凡庸な曲だなー。

ということで、B面はボロボロ。もちろん意見を異にする人もいるでしょう。そういう人はスルーしてください。思うに、フォスターの起用が二つ目の敗因かと。本アルバムでボズは、デイヴィッド・フォスターを初めて起用して、キーボードの演奏やアレンジはもとより、共同作曲者としても6曲でコラボしています。

その後、8年間も沈黙してしまったボズ・スキャッグス

フォスターは本作リリースの前年、1979年に、“EW&F” の「After the Love Has Gone」でコンポーザー、そしてアレンジャーとして、業界にその名を知らしめました。この頃は、あちこちから声を掛けられ始めた前途洋々の存在だったでしょう。そこへボズ・スキャッグスという大物からの依頼。プロデューサーとまではいかなかったけど、曲作りにまで参加するという重要な仕事に、フォスターは張り切ったと思います。

だけど実は、ボズはちょっと悩んでいた。あ、これは想像です。だって、全米2位、米国だけで500万枚以上も売り上げた『Silk Degrees』に対し、『Down Two Then Left』は全米11位、100万枚と、充分なヒットとは言え、前作が大き過ぎたゆえに、やや“盛り下がった感”が出てしまいました。内容的には、超えているとまでは言えないけど、全く遜色ないと思うのに。『Down Two Then Left』から本アルバムまでの、3年間というやや長いインターバルが悩みの現れではないでしょうか。

今まで通りのAORではもう飽きられるのだろうか? じゃあ何をやればいいのか? ロックか? ……その解を、ボズは頭角を現してきたフォスターに期待したのでしょうが、この時点での彼には力及ばずだった。そして結果としての本アルバム、全米チャートは8位とやや持ち直したものの、ボズ自身満足はしていなかったんじゃないでしょうか。

なぜなら、本アルバムの後、ボズは8年間も沈黙してしまうのです(同年内に『Hits!』というベストアルバムを出しますがこれはレコード会社主導でしょう)。そして、たとえば TOTO のメンバーや、レイ・パーカー・Jr. とはそれ以降もよく仕事をしますが、デイヴィッド・フォスターとのコラボレーションはこれが最初で最後。「相性が悪かった」と考えるしかないような……。

カタリベ: 福岡智彦

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