ビジネス2.0~アフターコロナを生きる~ オンライン生配信で「新しい価値」を提供へ。「ライブ・ショービズ業界」の新常態 /連続起業家・小林慎和

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新型コロナウイルスの感染拡大という波に飲み込まれた「ライブ・ショービズ業界」。ジャンルを問わずあらゆるライブイベントは中止となり、ライブハウスや劇場の運営者の他、ステージに立つアーティスト、お笑い芸人、役者、ダンサーたちが苦境に立たされています。もちろん、彼らを応援しているファンも大きな楽しみを奪われました。

今後、「ライブ・ショービズ業界」はどうなっていくのでしょうか。連続起業家の小林慎和さんによれば、すでに今後のヒントとなる新たな動きが見えているのだそう。

以前のスタイルで続けるのはハイリスク

新型コロナウイルスの感染者数が増え、日本国内で危機感が高まった2020年3月頃から、音楽やお笑いのライブ、ミュージカル、演劇・舞台、ダンスイベントなどのほとんどが中止となりました。

4月以降になると、テレビ放送にも変化が起こりはじめます。本来であればスタジオ出演するはずのタレントが、自宅からリモートで出演する機会が増えます。リモート出演の場合、大人数だと画面に入りきらないことや音声が混乱することなどから、人数も絞られます。帯番組に関しても、レギュラータレントが日ごとに入れ替わるかたちでの出演に。

ドラマや映画にしても、ロケ撮影ができないのは、もう致命的です。ドラマは過去に人気を博した作品の再放送が続き、日本国内における映画館の興行収入では驚きの数字が出ました。2019年4月の興行収入と比べ、2020年4月は、96.3%減となったというのです。これはもう、壊滅的な状況です。

もちろんこれらは、緊急事態宣言の解除を経て少しずつですが通常の形式に戻っていくことでしょう。しかし、完全に新型コロナウイルスがこの世からなくならない限り、もう元には戻れないようにも思えてきます。第2波、第3波がまた襲ってきた場合、以前のよ うなスタイルだけで続けるのはあまりにもリスクが高過ぎます。

ファンにダイレクトに届ける「配信」が増加する

これからの業界を占うひとつのヒントが、2020年5月6日にありました。三谷幸喜さん作の『12人の優しい日本人』という演劇のライブ配信イベントがそれです。約2時間のこの演劇は、14時からの前編と18時からの後編に分かれて配信されました。

この取り組みの特筆すべきところは、13人の俳優が自宅から生配信で朗読劇を提供したことにあります。俳優の近藤芳正さんが発起人となりはじまった企画で、出演者全員がカメラの前に座ったままの状態でストーリーが展開されます。ユーチューブ(YouTube)上で配信され、最初の配信から24時間が経過した5月7日夕方の時点で、なんと12万を超える視聴があったというから驚きです。

自宅でリラックスしながら、俳優たちの生の演技をパソコンのモニターを通じて見ることができるというこれまでとは異なる味わいと、ある種の興奮を覚えながらわたしも鑑賞しました。この作品には13人の俳優が出演していましたが、アフターコロナではよりその規模の大小が生まれ、それこそ俳優一人ひとりがファンにダイレクトに届ける配信が増えていくかもしれません。

そして、ひとりで配信をすることで、その演者のこれまで見えなかった魅力が発揮され、 新たなスターを輩出していく可能性も秘めています。

音楽の世界でも同様です。音楽媒体は、レコードやCDの実物からダウンロードコンテンツに変化を遂げ、さらにそこから定額のサブスクリプションモデルが主流になってきました。これは当然のことですが、1990年代に連発したCDのミリオンセラーはもう二度と出ないでしょう。数字的な評価は、定額サービスで何回再生されたか、ユーチューブなどの無料プラットフォーム上で何回再生されたかという指標に置き換わりました。

その変化のなかで、ファンが価値を見出したのが「ライブ」です。アーティストによる生の演奏と歌声の臨場感、その場でしか味わえない一体感を求め、2時間程度のライブに5000円から1万5000円程度を支出し、たくさんのライブを観に行くようになりました。夏フェスをはじめとした大規模イベントが毎年のようにあることも付け加えておきます。また、特大モニターで繰り広げられる最新技術を駆使した映像演出や、照明技術の進歩も、ライブの価値向上に一役買いました。

ライブの市場規模拡大に関しては、ここ10年間における数字を見れば一目瞭然です。音楽ライブ市場は、2009年の1500億円から、2018年には3800億円を超える規模に拡大(ぴあ総研調べ)。一方、CDをはじめとした音楽パッケージの市場規模は半減しています。

多くのファンとともに共有できる空間と体験、そして、生でアーティストを見ることができる機会に人は価値を見出しました。しかし、この新型コロナウイルスの出現により、ライブがこれまでのように実施できなくなるという危機を迎えました。では、音楽産業の未来は暗いのでしょうか? わたしはそうは思いません。

オンラインでの生配信による、ファンとの交流というチャンスが広がったからです。数百人、数千人、数万人を超えるようなファンがひとつのライブ会場に集まり、数十メートル離れた距離にいるアーティストの歌声を聞くというのがこれまでのスタイルでした。

でも、数人~数十人限定の参加者で、オンラインツールを通じてダイレクトに鑑賞できる時間も悪くありません。ファンにとっては、どちらも魅力的な時間であり、体験でしょう。これまでは後者の機会が極めて少なかっただけです。ファンからすれば、アーティストを独り占めできたような気持ちになるのではないでしょうか。

ビッグネームのアーティストになると、年末にクリスマスディナーショーなどを開催しています。それこそ、チケットが5万円以上するような高額なものも珍しくありません。なかには、プレミア付きチケットもあり、争奪戦になることもあります。

そのディナーショーでは一流ホテルのコックが腕をふるった美味しい料理も提供されますが、ファンが価値を感じるのは、その料理よりも、小さな空間で大好きなアーティストと時間をともにできることです。

その「価値」を、オンライン上の生配信というかたちで提供すればいいのです。オンライン配信の場合なら、アーティストには長時間の移動がありません。すると1日の時間が有効に使えるというメリットが生まれます。効率的なやり方をすれば、30分のセッションを1日で20回配信することも可能でしょう。パソコンのモニターやスマホ画面の前で待ち構えているのは、プライベートな世界観でコミュニケーションを待ち望むファンです。

たとえば、1セッションのチケットが5000円、限定30人の参加とします。1セッションの売上は15万円。それを1日10セットやれば、150万円の売上です。月に10回開催することができれば、1500万円の売上が立つのです。「いやいや、そんな節操のないやり方はあり得ないよ」と思われた人もいるはずです。

でも、再び新型コロナウイルスが大流行することがないとは言い切れません。いや、新型コロナウイルス以外のウイルスが、パンデミックを起こすかもしれない。

ファンがアーティストとプライベートに近いかたちで触れ合う機会を求めているのですから、双方納得のうえならこうしたビジネスが花開く可能性はあり得ます。これはアーティストに限らず、お笑い芸人、役者、ダンサーなどすべての人たちが取り組んでいく、新たな表現のスタイルになるはずです。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)

小林慎和

こばやしのりたか