終戦の日

 〈…明日も明後日も、きっとこれまでと同じ日々が続くと期待できるからこそ、人は心安らかに暮らすことができる。逆にその予定調和的日常に飽き足りなさを覚えるから、私は非日常的な探検行を志向する〉▲作家で探検家の角幡唯介さんが少し前に全国紙への寄稿で、探検家の心情をこう説明しながら、それが逆転したコロナ禍への困惑を記していた。北極圏を横切る旅の途中でカナダの入国拒否を知り「事態の深刻さ」を知ったそうだ▲〈未来予期のできない時間を求めていた私がじつはコロナ以前の予定のまま旅に出発して、逆に日常に生きていた他のすべての人々が、いま目の前で何が起きるかわからないという未知なる現実に直面している〉▲改めて読み返してみて、「明日をも知れぬ不安」の中で皆が日常を生きる状況は、戦争中とちょっと似ているのかもしれない、と少し考えた▲いくら8月でも、いくら今日が「終戦の日」でも、それは飛躍が過ぎるのだろう。私たちの多くは戦争のリアルを知らないのだし、戦争とウイルス感染は怖さの質が違う▲ただ、さまざまな事柄が「今はそんな時期ではない」と説明され、その先の思考が停止すること、誰かの明快な号令がどこか歓迎され、相互監視が横行すること-その危うさは心に留めておきたい。(智)

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