【大学野球】あっと驚くタイブレーク外野手登板で勝利 法大監督が投手1人を残して起用した理由

試合中、マウンドで投手にゲキを送った法大・青木監督【写真:編集部】

1点勝ち越した延長12回に2年生・野尻を投入、その裏にあった青木監督の計算とは

あっと驚く野手登板の裏に、指揮官の明確な狙いがあった。14日に行われた東京六大学春季リーグ戦、法大は延長戦の末に明大を下し、開幕3連勝を飾ったが、珍しい場面が起きたのは決着の延長12回だった。青木久典監督がマウンドに送ったのは、11回から途中出場で右翼の守備に就いていた外野手登録の野尻幸輝(2年)。リスクのあるタイブレーク、ベンチに投手は1人残っていたが、起用の理由とは――。

神宮のファンがどよめいた。延長12回に7人目の投手としてコールされたのは外野手登録の野尻。11回から途中出場し、味方が1点を勝ち越した12回表には豪快なフルスイングを見せながら、3アウト目の打者となった背番号25がその裏、そのままマウンドに向かった。ベンチには投手も1人残っているにもかかわらず。しかし、そんな周囲の心配は杞憂に終わった。

驚きは先頭だ。無死一、二塁。その初球から、相手はバントを試みた。マウンド方向、やや三塁寄りに転がった打球。これに野尻は素早くマウンドを降り、捕球すると送球に選択したのはサードだった。鋭く身を回転させて投げると、間一髪で二塁走者を封殺。さらに一塁に転送され、「1-5-3」の併殺を完成させたのだ。

たった1球で2死二塁の展開に。一気に沸き立つ場内と法大ベンチ。さらに続く打者も140キロ超の直球を投げ込み、最後は3球目で一飛に打ち取り、延長12回、タイブレーク3イニングの末に3時間35分の熱戦に終止符を打った。殊勲の野尻は歓喜の輪で味方に手荒い祝福を受けたが、そんな様子を見守っていた青木監督。なぜ、タイブレークというプレッシャーのかかる状況で敢えて投げさせたのか。

木更津総合(千葉)時代はエースナンバーを背負った野尻は甲子園に出場したが、肘に不安があった影響もあり、大学は野手に専念。リーグ戦どころか、練習試合の登板すらなかった。それでも「(タイブレークを見据えて)もしかしたらと思って、『行くぞ』と事前に話していた」と明かした指揮官。オープン戦で登板させる機会は与えられなかったが、本人が自らブルペンに入り、シート打撃に登板する姿を見て、決断を後押しした。

もう一つ、野尻の守備力も計算にあった。ベンチにはもう1人投手が残っていた。「フィールディングのレベルを考えた時、野尻の方が上手い。ピッチングはもちろん、投手の方がいいけど、あの場面は相手投手が打席。バントがあるので、守備力は野尻が上と考えて、勝負をかけました。(バントで)強い打球が来れば、やってくれるかなと」。まさに青木監督の狙い通り。抜群のフィールディングが併殺に結びついた。

「自分は投手も好き。投げる機会を与えてくれてうれしい。高校時代は内野手もやっていたので、フィールディングには自信があった」と胸を張った野尻。指揮官は「夏場のリーグ戦で投手もへばっているので、短いイニングでいかないと。彼が野手でも投げられるのはベンチとしてありがたい。またこういう機会があれば、チャンスを与えたいし、頑張ってもらいたい」と感謝した。

1試合総当たり、8日間で5試合を戦う真夏の短期決戦。法大が総力戦で3連勝を飾り、波に乗っている。(Full-Count編集部)

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