松任谷由実「星のルージュリアン」ただただ怖かった “あの” フレーズ 1980年 8月5日 松任谷由実のシングル「星のルージュリアン」がリリースされた日

ポーラ化粧品 秋のキャンペーンソング「星のルージュリアン」

子どものころ、喘息持ちだった私はよく学校を休むことがあった。もちろん家でおとなしく寝ていたのだが、母親も働きに出ていて家では一人だったので、ずっとテレビをつけていた。当時はリモコン付きのテレビなど家にはなく、寝込んでいてチャンネルを変えるのも辛かったので、適当にチャンネルをひねってそのまま流していた。

あれは中学2年生、確か夏休み明けの9月だった。その日はたまたまMBS(TBS系)をつけていたので、昼になると『ポーラテレビ小説』が流れていた。ポーラ化粧品提供のいわゆる “昼ドラ” である。布団の中でボーッとしながら、「なんかドラマやってるな~」と思っていたら、いきなりテレビから気味の悪い(失礼)フレーズの歌声が耳に飛び込んできた。

 Changin~ Changin~ Changin~(gin gin gin …… 以下、エコー)

それがポーラ化粧品・秋のキャンペーンソングだったユーミンの「星のルージュリアン」であった。

まさにユーミンならでは。女性を強く後押しするメッセージ

この曲、今聞くと、1970年代を思わせるなかなかにソウルフルで渋い曲なのだ。ミディアムテンポの16ビート。サビではユーミンによるファルセットでの多重コーラスになっていたり、それはそれはカッコいい仕上がりなのである。

 何が彼女を変えさせた
 あでやかなルージュ
 のぞきこむコンパクトは
 銀色の小宇宙
 ひとはけの紅から
 夕日がはじまる
 きのう泣いてた
 素顔の女は幻

と、歌詞にも化粧品のキャンペーンソングらしい、粋なフレーズが並んでいる。

 運命だって味方なの
 魅力さえ信じれば

というフレーズからは、当時の女性に対して「自分を信じてまっすぐに生きていくこと」を強く後押しするメッセージさえ感じ取れる。

ヒットというには厳しい結果、アルバムにも収録されていない曲

しかし… しかしだ。当時 “荒井由実” と “松任谷由実” が同一人物だということがようやくわかったというレベルの中坊にそんな良さがわかるわけもなく。本当に失礼なのだが、アレンジも重くて、“ただただ怖い曲” という印象しか残らなかったのである。とても1年後に「守ってあげたい」という、温かでエバーグリーンな名曲を世に出すとは思えないほどダークな曲なのである。終盤のファルセットに差し掛かる前の

 Changin~ Changin~ Changin~(gin gin gin …… 以下、エコー)

というあのフレーズはもはや呪いの呪文のようにしか聞こえなかった(笑)。

シングルとして発売されたこの曲だが、レコードセールスもオリコン4.3万枚(最高位46位)と、ヒットというには厳しい結果だったので、やはり大衆には響かなかったのではないだろうか。後にベストアルバム『SEASONS COLOURS -秋冬撰曲集-』に収録されるまで存在を知らなかったユーミンファンも多かったに違いない。

この曲、ユーミンにとって継子(ままこ)なのか?

今ではすっかりユーミンファンである私にとって、この曲はフェイバリットソングの1つになっているのだから、好みっていい加減というか、本当にわからないものである。そこは私が音楽的に成長したのだということで許してほしい(笑)。ユーミンもサブスク解禁されたので、これを読んでいるみなさんにも、ぜひこの曲のカッコよさを聴いて感じ取ってほしい。

ところで、ユーミンは雑誌のインタビューなどで自分が嫌いな曲のことを “継子(ままこ)” と表現するのだが、この曲はどうなのだろう。やはり継子なのだろうか。一度聞いてみたい。何故なら私はこの曲をコンサートで聴いたり、ユーミンが話題にするのを見たことが、まったくないからである。

ちなみに1980年秋、資生堂のキャンペーンソングは加藤和彦「おかえりなさい秋のテーマ - 絹のシャツを着た女」、カネボウのキャンペーンソングは郷ひろみ「How many いい顔」であったことを付け加えておく。

カタリベ: 不自然なししゃも

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