「国内最高級」レクサスLC500コンバーチブル、“小さめのソフトトップ”に注目

2019年の11月にロサンゼルスでワールドデビューを果たしたレクサスLC500コンバーチブル。レクサスのフラッグシップとして登場したプレミアムオープントップモデルを真夏の空の元、乗り出してみました。果たして、国産最高級コンバーチブルの味わいとは?


クーペモデルにはオープンモデルが必須

“爽やかな風を感じて”とか“心地いいエンジン音を聞きながら”などという魅力は、どんなオープンカーにも一様に備わっています。この魅力を手にするだけなら、極論ですがどんなオープンカーに乗ろうがさほど変わりがありません。

しかし、私達はオープンカーを選ぶとき、ミニバンやSUVを選ぶとき同様に悩みます。それは“屋根が開く”こと以上に大切なものがオープンカーにはあるからです。

では、その「悩みの種」とはなんでしょうか? 価格、スタイル、走行性能、ブランド……。色々ありますがプレミアムを名乗るのであれば、第一に優先したいのはスタイルではないでしょうか。佇まいの美しさ、エレガントさです。メルセデスにもBMWにもジャガーにも美しいオープンモデルがあります。

ヨーロッパでは一級品と呼ばれるスポーツカーには必ずオープンモデルが用意されていると言われてきました。こんな話があります。トヨタ2000GTをボンドカーの1台として決定するとき、映画の制作側は当たり前のように「オープンモデルを準備してくれ」と言ってきたそうです。当時、クーペモデルだけでも制作に精一杯の状態ですから、オープンなどは考えてもいませんでした。そこで急遽、2台だけ(一説には3台)をクーペの屋根を切り取ってしまい急ごしらえしたのです。それぐらいプレミアムスポーツカーにとってオープンモデルは“必需品”だったわけです。もちろん現在でもそれは変わりません。

レクサスもブランドイメージを牽引するLC500を開発する際、オープンの構想は当然あったはずです。ただ、クーペとして成立するだけでなくオープントップとしても通用するデザインの両立はそう簡単ではありません。

スポーティと言うよりもエレガントと言っていいオープンスタイル

2017年の4月、初めて国内でLC500クーペモデルをドライブしたとき、目の前でスタイルを見て、後に登場するであろうオープンモデルへの期待も高まりました。

ただ、この時点でモデル名の“LC”はLuxury Coupeの頭文字であり、LexusのChallengeをも意味していると説明を受けました。つまりLCはクーペ主体のモデルなのか、と思いました。しかし、それであってもレクサスはこのクーペモデルをどう料理してオープントップモデルとして仕上げてくるのか? なんとも楽しみな存在となったわけです。

クローズ時のスタイルこそ重要

そして今回は、その待ち望んでいたオープンモデルの初試乗が叶いました。レクサスに言わせると「ルーフを開いても閉じていても美しいシルエット」。「ルーフオープン時は、ソフトトップが完全に格納される自動開閉式のトノカバー付きフォールディング機構を採用」。そして「ルーフクローズ時にクーペのような美しいルーフラインとなるようこだわった」と、デザインの特徴を説明していました。

ルーフを閉じたままの姿で登場したコンバーチブルですが、電動のソフトトップを閉めた状態のスタイルは、クーペのグラマラスで艶めかしさを感じさせるエクステリアデザインを損なうものではありません。

クローズドの時のサイドフォルムにはクーペとは違った魅力があります

実はオープンカーにとってクローズド時のスタイルはとても重要なものだと思います。というより、コンバーチブルは“閉まっているときが基本”として考えられるオープンカーですから、この佇まいがダメというわけにはいかないのです。

それに、実際にオープンカーを購入した場合、ルーフを開け放って走るより、クローズドの方が圧倒的に多いのです。そうなるとクローズドの時のスタイルが情けないと、とても残念な気分になります。これまで何台かのオープンを所有してきましたが、クローズドのスタイルが良くないオープンカーには食指が動きません。

その点、レクサスLC500コンバーチブルの仕上げはとても上手くいっていると思います。とくにリア後方から見たスタイルはクーペのラインがしっかりと生かされ、ソフトトップならではの柔らかな質感とフォルムは、このクルマに上品さ、エレガンスを与えているように感じます。

仮にこれが耐候性や騒音に対しての対応策として、スチール製のバリオルーフのようなものになっていたら、これほどの華やかで上品な雰囲気にはならなかったかもしれません。やはりプレミアムなオープンカーには、ソフトトップが似合うという確信を持つことが出来ます。

夏の大都市でオープンはNG

さっそく走りながらソフトトップを開放します。時速50km/hまでなら走行中でも開閉は可能です。

それにしても日本の夏、とくに東京など大都市の夏にオープンカーで走ろうなどと思わない方がいいです。日本の夏はもっともオープンにふさわしくない季節なのです。一方で室内には強烈な冷風が吹き出し口からどんどん送られてきます。さらにシートは冷風が放出されるシステムが装備されており、迷わず最大の風量を選択します。このため実際には思ったほど苦痛ではありませんが、それでも全身をつねに湿り気をたっぷりと含んだモワッとした空気が取り巻いています。

少しばかりトランク部分の長さが気になりますが、まとまりはあります

クルマの注目度が高いだけに、灼熱の都市部では「無理しちゃって」と見えてしまうでしょう。できれば都市部を抜け出してからオープンにするとか、秋から春までのシーズンでのオープンをお薦めします。この手のエレガントさが売りのオープンほど、その方が似合っています。

お買い得なオープンモデル

さすがに太陽の直射に耐えられなくなりました。20分ほどオープンで走ったところで木陰に逃げ込み、オープン時のスタイルをチェック。

2+2の4人乗りですが、リアシートはクーペよりも窮屈で緊急用です。外見上は2人乗りのオープンカー。少しばかりキャビンの後方からトランク・リッドの後端までの長さが間延びしているように見えます。後ろ斜め7:3ぐらいから眺めたときにそう感じたのですが、それ以外は抑揚が効いたサイドフォルムのボリューム感とノーズから後方にかけての伸びやかなデザインによってエレガントな佇まいを演出しています。これならフォーマルな場にも乗り付けられる雰囲気を持っています。

クーペ以上に前後にきつめのリアシート。完全なエマージェンシー。

スタイルチェックの次はもう一度、16秒(開放時は15秒)の時間をかけてクローズドにし、走り出しました。この電動のソフトトップは4層構造で静粛性を追求したものと言われています。小さめなソフトトップであると同時にガッチリとした構造のため横風などの影響も少なく、快適なクローズドドライブが始まりました。

ボディのガッチリ感を確保するために重要な役割を果たすルーフを取り去ってしまうわけですから、ボディ側を強化しなければいけないわけですが、その対策も上手く仕上げています。例えば軽量でボディのガッチリ感を高めるアルミダイキャスト製のリアサスペンション・タワーブレースもあります。さらには床下結合部を強化したりしていますから、ソフトで柔らかな乗り心地を実現しています。これであれば477馬力の5リットルエンジンのパワーでも十分に受け止め、しなやかで快適な走りを得ることができます。

パワフルなエンジンではありますが、そのアウトプットは乱暴な素振りを見せません。10速のオートマチックトランスミッションのお陰もあるのでしょうが、実にスムーズでシームレスな加速感ですから、なぜかワイルドに走りたいという気分になかなかなりませんでした。ゆったりと高速をクルージング、市街地では静々とゆっくりと走る。そんなドライビング・スタイルこそLC500コンバーチブには似合うと感じました。

テストの走行距離223km、オンボードの燃費計は6.1km/Lを示していました。これで1,500万円也。

クーペのLC500が1,350万円ですから150万円の追加で、このオープンモデルが手に入ります。ちなみにポルシェ911のクーペモデルとカブリオレの価格差は225万円、ジャガーFタイプのクーペとコンバーチブルの価格差は236万円です。オープンモデルはクーペモデル以上に特別な存在となり、価格差はけっこうあります。

それを見れば150万円の差であり、さらにクルマとしての魅力を考えると、なかなかお買い得感のある価格設定だと思います。ようやく日本にもプレミアムを名乗れるオープンモデルの登場となったようです。

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