クルド人武装勢力 vs トルコ軍! 女学生も銃で戦う戦争のリアルを描く『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』

『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』© Rojava Film Komina, Alba Sotorra SL, Demkat Film Production

4000万人以上とも言われる人口を擁しながら国家/領土を持たない、世界最大の民族集団クルド人。『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』は、2015年に発生した、トルコ南東部の都市ディヤクバクルを巡るクルド人武装勢力とトルコ軍の戦いを描いた映画です。

『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』© Rojava Film Komina, Alba Sotorra SL, Demkat Film Production

内戦のシリアで撮影!

この作品は「内戦中のシリアが製作」「シリアで撮影」と紹介されたりしていますが、これは「国家としてのシリア(=アサド政権)が製作」ということではありません。

というのも、2011年に民主化を求める人々に対し、アサド政権が弾圧と虐殺で応じたことから内戦状態になったシリアでは、諸派勢力が勃興ないし他国から流入、国家としての体を為していない状況が続いているからです。そして撮影が行なわれたシリア北部のトルコとの国境の町コバニは、クルド人組織がISIS(イスラム国)との激戦を繰り広げながら確保し続けた「クルド人自治区」のひとつ。

『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』は、スペイン・カタルーニャの映画プロダクションの支援を受けて、コバニのスタジオとイラク北東部のクルド人自治区スレイマニヤのスタジオが製作した“クルド映画”なのです。

『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』© Rojava Film Komina, Alba Sotorra SL, Demkat Film Production

いまだ平穏とは言えないコバニで、武力衝突が日常となっている人たちが作った本作は、ドキュメンタリー映像でもなくフィクション劇映画でもない、一種独特の空気感を持った作品となっています。

戦場のリアル、その生々しさ

物語は、故郷の町ディヤクバクルに帰ってきた女学生ジランの視点で描かれます。

ジランもクルド人武装勢力の戦闘員としてトルコ軍との戦いに身を投じることになるのですが、そこにこの種の映像作品の見せ場「俺(私)は仲間の(明日の)ために戦う!」という気負いがないのに驚きます。まるで呼吸をするように戦闘モードに切り替わるのが、真に迫ったリアルです。

戦闘が始まっても、昨今の日本のエンタメ作品のような「これが……戦争なんだっ」的なショックもありません。淡々と武器を取り、淡々と戦う――そこに、長年にわたって戦い、利用され裏切られ、それでも生き延びてきたクルド人の基礎骨格のようなものを感じます。そしてそこに流れる劇伴が、先日死去したエンニオ・モリコーネによる『遊星からの物体X』(1982年)のメインテーマに似ていて、異様な生々しさをさらに盛り上げます。

『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』© Rojava Film Komina, Alba Sotorra SL, Demkat Film Production

狙撃は“1発だけ”で

ジランは、SVDドラグノフ狙撃銃を扱う女性指揮官ヌジャンと行動を共にすることになります。

SVDドラグノフはソ連軍が1963年に装備化した、セミオート式の狙撃銃。精密射撃には可動メカニズムの少ないボルトアクション式が有利なのですが、初弾を外しても続け様に次弾を発射できるセミオート式の利点も見逃せません。

けれどもヌジャンは初弾で敵を射殺します。そしておそらく、彼女は初弾を外しても第二弾を射つことなく、常に移動しながら狙撃しているのでしょう。同じ場所で狙撃を続けることは、敵に察知されて重火器による反撃を受ける危険が倍増するのです。また、ヌジャンのドラグノフには布帯が巻き付けられています。銃の外形が分からなくなるぐらい厳重に、それでいてスコープのレンズ部や排莢口は避けているという巧みな巻き方です。もちろんこれはカモフラージュのためですが、持ち運びの便や、壁などにぶつけた際に音が出にくい、といった効果もあります。

『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』© Rojava Film Komina, Alba Sotorra SL, Demkat Film Production

その他にも、壁に穴を開けて建物内を移動、敵を路地に引き込んでの一斉射撃、そして建物に手榴弾を放り込みながら前進するトルコ軍などなど、市街戦の戦術がしっかりと描かれていますが、ある意味当然かもしれません。なにしろ当事者が作った映画なのですから。

戦い終わらぬシリアとクルド人

ここ数年、シリア内戦を舞台にした力強い映画が次々と作られています。ダマスカスの一家族に焦点を絞って描く『シリアにて』(2017年)、イラクのクルド人自治区でISに奪われた息子を取り戻すために戦う女性部隊の実話ベース『バハールの涙』(2018年)、2012年にシリア内戦取材中に狙撃されて死亡した実在の隻眼の女性ジャーナリスト、メリー・コルヴィンの物語『プライベート・ウォー』(2018年)、内戦下での生活を女性ならではの目線で捉えたドキュメンタリー『娘は戦場で生まれた』(2019年)等々。

『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』© Rojava Film Komina, Alba Sotorra SL, Demkat Film Production

実のところ、国際社会がシリア内戦への人道介入を試みるたびに、シリアを地中海への出入口として押さえておくため軍事介入しているロシア(国連安保理常任理事国)が拒否権を行使するため、まったく前に進まない状態が何年も続いています。

それでもペシミスティックになることなく、声を上げ続けるのも映画のパワーだと思います。

文:大久保義信

『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』はヒューマントラストシネマ渋谷「未体験ゾーンの映画たち2020 延長戦」で2020年8月14日(金)より公開

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