「また出勤していくみたい」昔ながらの船に揺られ 野母商船元会長 村木さん しめやかに 精霊流し

昔ながらのわらを使った船体にこだわった村木さんの精霊船=長崎市興善町

 元日本旅客船協会会長で野母商船グループ会長だった村木文郎さんは昨年11月、86歳で亡くなった。親族ら約20人が同社のイメージカラー、白地に赤と青のラインに彩られた船(全長約10メートル)で送った。
 生前は離島航路の維持と振興に尽くした村木さん。「温厚で、みんなをまとめることを何より大切にしていた」と長男の村木昭一郎社長(58)は振り返る。海運業者の共存を目指し、会社の規模や社員の役職にかかわらず誰にでも公平に接する姿勢が今も目に焼き付いているという。
 新型コロナ禍の中、精霊船を出すべきか悩んだ。ただ「船会社の会長が船に乗れなかったら悲しむだろう」と、参加者を絞り、全員マスク着用で臨むことを決めた。完成した船は昔ながらのわらをあしらった船体に、旅客船に見立て航海灯を取り付けた。愛着のある自社の船の写真も飾り付け、昭一郎さんは「船会社の社長としては本望だと思う」と目を細めた。
 船は金屋町の自宅を出発し、会社がある長崎港の方角へ向かった。「まるで、また出勤していくみたい」。担ぎ手たちはほほ笑みながら、坂道をゆっくりと下った。


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