カードを使わないと思っていたけれど…自己破産を隠していた夫との結婚生活

自己破産する人は年間、ここ6年、ほぼ7万人前後で推移しています。2000年代初めには20万人にもふくれあがったのですが、多重債務が社会問題にもなり、その後、借入金の総量規制などがされて自己破産者は減りました。ところがここ3年ほどじわりとまた増えてきています。今年はコロナ禍もあり、また増加するかもしれません。


カードを使わない人だと認識していた

行きつけのバーで顔見知りになり、つきあって1年、30歳のときに結婚したユウナさん(33歳)。彼は4歳年上の会社員でした。

「結婚式などする必要もないと思っていたんですが、彼も同意してくれました。両家の両親と会食して、あとは友だちや仕事関係の人たちを呼んでレストランで会費制のパーティをしただけ」

結婚するにあたっては、お互いの収入に応じて生活費を負担しようと話したのですが、蓋を開けてみれば収入はほぼ同じ。

「彼はけっこうお金払いのいい人で、私とのデートはもちろん、ときどき後輩や友だちに奢ったりもしているみたいだから、もうちょっと収入が多いと思ったんですよね。結婚するとき、貯金の額を聞いたんですが、教えてもらえませんでした。結婚後も、今後、家をどうするかとか子どもをどうするかとか、そういう話をしても、『計画を立ててもその通りになるとは限らないよね』とはぐらかされる。結婚まではよかったんですが、直後からなんとなく不安はありました」

そもそも彼女は、彼に惚れ抜いて結婚したわけではないといいます。27歳のとき、大好きだった恋人に裏切られて失恋したため、今度出会う人とは恋愛目線でなく、結婚目線で選ぶと決めていたのだそう。夫となった彼には、情熱的な恋心はなかったため、言いたいことも言えたし我慢する必要がなかったのです。

「それなのに結婚後は、彼のオープンさが少しなくなったというか。うーん、オープンはオープンなんだけど、何か肝心なことからは逃げられるというか。そんな歯がゆい思いが少しありました。ただ、私自身も忙しかったので、彼が貯金額を教えてくれないこと、将来の計画を話し合ってくれないことは気になっていたものの、改めて話し合いを要求することもしないで過ごしていました」

平日はお互いのペースで生活していたから、彼女はほとんど独身気分。友人と食事に行ったり気軽に飲みに行ったりもしていました。彼も同様です。ただ、週末は一緒にいることが多かったといいます。

「ふたりで映画を観に行ったりテニスをしたり。楽しかったですね。夫は『妻はこうあるべき』という人ではないので、気が楽でした」
新婚生活は忙しいながらも楽しいものだったそうです。

彼が自己破産していたことを知った日

結婚して2年ほどたったころのこと。その日、ユウナさんは代休をとって家にいました。日頃できない窓ガラスや網戸の掃除などを手がけ、ついでだからと納戸の整理も始めた。

「引っ越してからのダンボールなどもまだ入れっぱなしで。少しずつ整理しようとダンボールを開けたら、弁護士事務所からの封筒の山が目に入ったんです。夫宛だったので、見たらまずいとは思ったんですが、一方で夫が何か弁護士を必要とするような問題を抱えているのかと不安にもなって」

そこで見たのが、夫が自己破産をしていたという事実でした。ユウナさんはあわてて多くの封筒を開け、自己破産をしたのは結婚してからだということもわかりました。

「そういえば、とふと思い出しました。つきあっているときは夫がカードを使っていたような気がしていたんですが、結婚後はまったく使わなくなった。なにげなくカードは使わないのと尋ねたら、『オレ、現金主義だから。ごくまれにしか使わない』って。そのときはふうんと思っただけでしたが、結局、あの当時、いろいろ手続きをしていたんでしょうね。私設私書箱の契約書も出てきたから、弁護士さんからの書類はししょばこに送ってもらっていたようです」

貯金額を明かさなかったこと、将来について話し合おうとしなかったことも納得できたそうです。ただ、ユウナさんは「2年も隠されていた」ことに愕然としました。確かに夫婦で経済はほぼ別にしているし、自己破産がいけないことでもありません。よほどの事情があったのでしょう。でも、どうして自己破産に至ったのか、相談くらいしてくれてもよかったのではないか。そんな思いを払拭することができませんでした。

「夫に言っていいのかどうか悩みました。でも、今、夫が経済的にどういう状況にあるのかは、これからの私たちの生活にも関係してくる。1ヶ月くらい悩んだんですが、夫も家にいた休みの日、『話したいことがある』と切り出しました」

まさかの反応に…

ユウナさんは冷静に言葉を選びました。ところが意外だったのは、夫が突然逆ギレしたことです。人のものを勝手に見るなと叫んで、家から出て行ってしまいました。

「私は責めるつもりはない、話したいだけと携帯にメッセージを送り続けましたが、夫からは返事がありません。夜になっても帰ってこなくて、だんだん心配になっていって。夜中に泥酔して帰ってきましたけど」

それ以来、夫はほとんど口をきかなくなってしまいました。半年ほどたちますが、夫婦は完全に家庭内別居の状態です。2LDKの間取りですが、今はそれぞれが一部屋ずつ使っています。

「夫はステイホーム期間も通常通り仕事に出ていました。私が在宅勤務だったので、夫が帰ってくるころは自室に籠もって顔を合わせませんでした。夫からは何の働きかけもありません。ときどき声をかけてみようかなと思うけど、夫からは『話しかけるなオーラ』が出てるんですよね」

家庭内別居は半年近くになります。ユウナさんはだんだん疲労が蓄積してきているようです。こんな状態でいいはずがありません。

「私が家を出ることも考えていますが、その前にやはり話し合ったほうがいいと思うんです。夫はプライドを傷つけられたと思っているんでしょうけど、知らずに生活していた私のショックも考えてほしい」

ふたりが結婚してもうじき3年。記念日に、ユウナさんはもう一度、夫にきちんと向き合ってみるつもりだそうです。夫が自己破産に至った理由、それを話してくれなかった理由を聞かないままに生活を続けるのは確かにむずかしいでしょう。夫が心を開いてくれればいいのですが……。

© 株式会社マネーフォワード