どこまでも客観性を持って向き合う 「コロナ禍と五輪」公式映画の河瀬直美監督インタビュー

東京五輪の公式映画で監督を務める河瀬直美さん

 来年夏の開催まで1年を切った東京五輪で公式映画の監督を務める河瀬直美さん(51)は、大会延期という史上初の事態にも冷静に向き合う。(共同通信=菊浦佑介)

 ―延期や新型コロナウイルスの影響を、どう受け止めているか。

 何が起きるか分からないし、コロナがいつ収束して、そうなればこうなる、という脚本が書けるものでもない。監督の立場としては、どこまでも客観性を持って向き合うことが大事。脚本や構成台本は、まだない。局面局面の空気感や状況に臨機応変に対応していきたい。

 ―延期が決まるまでは戸惑いもあったか。

 (映画製作のため)取材している選手たちが迷っちゃっていた。みんな早く決めてほしそうだった。迷いの中で何か発言してもらうよりは、決まったことを受けて発言してもらうことですごくクリアになったと思う。

河瀬直美監督(中央)。左は組織委員会の森喜朗会長、右は武藤敏郎事務総長=2018年10月、東京都港区

 ―映画への影響は。

 五輪をやるのかやらないのか、どのようにやるのか、お客さんは見に行けるのか、という「ハラハラドキドキ」が重なって、いろいろな局面を序盤で迎える。もちろん現実で生きている人間として選手の思いに寄り添えば、苦しい思いをされているのも理解しているし、涙を流すこともある。ただ公式映画を任された立場として、作品をどう成立させるかという点では映画はすごく面白くなると思う。

 ―製作期間が1年延びる。

 会場でのカメラ位置や、綿密なカメラワークのテストなど、なんだかんだ言っても準備が整っていない部分はあった。そういうことができなかったから、私の立場でいうと、その時間はいただけたという部分はある。

 ―東日本大震災からの復興にも焦点を当てる。

 福島に行ってみると、まだまだ復興が進んでいない風景にも出合うし、五輪がやってくると期待されている方もいる。その現実を切り取っていきたい。『復興五輪なんて、何を言ってるんだ』という意見も理解できるが(五輪を)待っている人たちもいて、その思いの先に何があるかを描きたい。

一時的に撤去される五輪マークのモニュメント=8月6日、東京・お台場沖(共同通信社ヘリから)

 ―コロナ禍での五輪や公式映画の意義は。

 日本だけの問題でなく、全世界が影響を受けてしまっている。日常の行動が制限され、国をまたいだ交流ができない中で、世界がコロナにどう向き合っていくか。一つの方向を指し示す意味でも、五輪を開催できれば素晴らしいことだなとは思っている。一方で完全に収束するということは難しいのではないかと思う。

 ワクチンができるまでは人と会わないことが一番だが、それが五輪にとっては一番の難題。だからこそ、来年開催されて、みんなが同じ場所に集まるというだけで、すごく感動的な祭典になると思う。簡素化しシンプルにすることで、むしろ感動を呼ぶ可能性は十分ある。

 ―必ず取り上げたい題材は。

 難民選手団。人類にとってスポーツとは何か。難民の人たちにとって、自国を追われたり、明日の家族の安全もままならなかったりする中で、例えば速く走ることで生きる道になる。スポーツは、かけがえのないものであり、生きることと同じ。リオデジャネイロ五輪で初めて立ち上がった難民選手団を東京五輪でもちゃんと引き継ぎ、記録したい。

リオデジャネイロ五輪の開会式で入場行進する「難民五輪選手団」=2016年8月(共同)

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 かわせ・なおみ 映画監督。1997年に「萌の朱雀(すざく)」で世界最高峰の映画祭、カンヌ国際映画祭の新人監督賞、2007年に「殯(もがり)の森」で審査員特別大賞(グランプリ)を受賞。生まれ育った奈良を拠点に製作活動。

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