アッパーミドル今井美樹とヤンキー工藤静香の対決!資生堂 vs カネボウ CMソング戦争 1988年 8月17日 今井美樹のシングル「彼女とTIP ON DUO」がリリースされた日

__資生堂 vs カネボウ CMソング戦争
1988年秋のキャンペーン__
▶ 資生堂(彼女とTIP ON DUO / 今井美樹)
▶ カネボウ(MUGO・ん… 色っぽい / 工藤静香)

ライバルであり好対照、資生堂とカネボウの関係

これまで資生堂とカネボウのライバル関係を、CM と音楽を中心に振りかえってみた訳だが、資生堂とカネボウはライバルでありながら、好対照でもある。

資生堂は、広告を通じて常に女性の「自立」や「社会でのあり方」を模索・提案してきた。より具体的には、「女から憧れられる女性像」を描いてきた。男性の視線も気になるけど、それ以上に女性の視線はもっと気になる、というのが根底にある。

カネボウには、そこまで気負った感じはない。大事なのは男の視線であり、「モテたい、ちやほやされたい」感がより強い。もっといえば、男に媚びる姿勢で一貫している。そうした宣伝コンセプトは、むしろ潔いし、マーケティング上も資生堂との差別化戦略をとるのは、まちがっていない。

資生堂のガールポップ vs カネボウのヤンキーアイドル

88年も、両社のプロモーション方針は実に対照的であった。とくに88年のCM対決は、ガールポップ vs ヤンキーアイドル(歌謡アイドル)の代理戦争の観があった。

資生堂の CMソングの顔ぶれは、春は CM 用に作られたZUMA BAND(with 今井美樹)『恋のライブリップ』、夏はブレイク寸前のプリンセス プリンセス『GO AWAY BOY』、秋は再び今井美樹『彼女とTIP ON DUO』。

春秋と CM に起用された今井は、この年に女性誌の表紙を席巻しており、主なものだけでも「Ray」「JJ」「ViVi」「CanCam」「non-no」… と、彼女を表紙にしている雑誌のテイストからわかるように、アッパーミドルの女性の憧れを体現した存在だった。『彼女とTIP ON DUO』(作詞:秋元康、作曲:上田知華、編曲:佐藤準)は彼女にとって初めてのオリコンTOP10入り(8位)であり、TBSザ・ベストテンが翌年に終了したため、同番組でランクイン(8位)した唯一の曲でもあった。

カネボウの CMソング兼タレントのラインナップは、アイドル歌手がずらり。春『吐息でネット』南野陽子、夏『C-Girl』浅香唯、秋『MUGO・ん… 色っぽい』工藤静香である。それもちょっとヤンキー受けする、大衆的な顔ぶれだ。春は2代目スケバン刑事、夏は3代目スケバン刑事、そして秋は本物のスケバンである。

しかも、なんと3曲ともオリコン1位を獲得している。ただし、それが CMタイアップの効果なのか、もともと有ったアイドルのパワーなのか、88年にもなると因果関係は混沌としていた。いずれにしても、カネボウはティーンで化粧初心者の客をつかむ方策に、ヤンキーに躍起になっていたことがわかる。

今井美樹と工藤静香、味わい深いその後の人生

さて、秋のCM で対決した今井美樹と工藤静香のその後の人生を考えてみると、なかなかに味わい深い。

布袋寅泰と一緒になることで、ミュージシャンとしての幅を広げたばかりか、『PRIDE』(作詞・作曲とも布袋)という最大のヒット曲・スタンダードナンバーを手に入れた今井。全国の木村拓哉ファンを敵に回し、あまつさえ、解散問題に関連して SMAP ファンからも不興を買った工藤静香。結婚することで相乗効果を生み、かたや結婚することで自らの価値を著しく落とすことになった。

女の人生はかくも、波乱万丈だ。そんな女性たちを美しく彩ってきたのが、資生堂とカネボウという昭和を代表する化粧品会社だった。

88年の秋、まもなく、あと数ヶ月で、昭和が終わろうとしていた。

※2017年3月15日、2019年4月14日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: @0onos

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