6日間滞在できる雲仙 ワーケーション施設充実へ コロナ禍対応で市観光戦略

お盆前の雲仙温泉街。コロナ禍で地獄巡りをする観光客もマスク姿が多い=雲仙市小浜町雲仙

 観光客の漸減傾向に加え、全国的な新型コロナウイルス感染拡大で落ち込む雲仙市の観光業-。雲仙温泉の魅力を高め、市内観光の浮揚につなげようと、市や温泉街関係者らが官民で練り上げた「雲仙市観光戦略-雲仙温泉編」が6月末に策定された。戦略では、10年後の「6日間滞在できる雲仙」を目指し、コロナ禍の新しい生活様式に対応した現代版「雲の上の避暑地」の構築に取り組む。自然体験観光や、旅先で休暇を楽しみながらテレワークする「ワーケーション」施設の充実などに向け動き始めた事業を探る。

■「3密」回避
 観光戦略の一環で今月1日にスタートした電動アシスト自転車レンタル(レンタサイクル)事業「UNZEN旅チャリ」は、観光客に自分のペースで自然に触れてもらう取り組み。運営する同市の観光まちづくり会社「雲仙みらいかたる」事務局の百崎浩之さん(49)は「コロナ禍で温泉街の客が少なく、レンタサイクルの利用もこれからというところ。それでも、利用客からは『また乗りに来たい』という感想をいただいている」と期待を寄せる。
 「3密」を回避しやすいトレッキングやキャンプなど自然体験の選択肢が多いのが雲仙観光の強み。レンタサイクルは、観光客の行動範囲を広げて長期滞在を促す狙いがある。戦略は自然体験をさらに充実させる方針で、白雲の池キャンプ場では、雲仙が外国人避暑地だった明治~昭和初期を追体験する「天幕レストラン」イベントを10月から毎月1回開き、地元食材の料理を提供することを検討。散策を楽しみながら複数のチェックポイントで飲食するイベント「温泉ガストロノミー」の準備も進んでいる。
 雲仙の自然は、コロナ禍で生まれた新しい働き方にも対応しやすい。今月6日に開かれた戦略会議の会合では、休暇先で滞在しながら働く「ワーケーション」ができる環境整備について活発な意見が交わされた。
 ビデオ会議システムなどの普及でリモートワークを導入する企業が増える中、温泉街では旅館やホテルがネット環境を充実させ、ワーケーション対応の連泊滞在プランを商品化する動きが広がっている。市は3月末で廃校になった旧雲仙小の校舎をワーケーションの拠点として活用できないか検討している。親がリモートで仕事をしている間に、残りの家族が参加できる料理教室などの計画もある。

雲仙市観光戦略のWG会合で、新たな取り組みを検討するメンバー=雲仙市、雲仙お山の情報館別館

■募る危機感
 温泉街の昨年の宿泊客数は約26万3千人で、10年前の約3分の2の低水準。昨年は日韓関係悪化でインバウンドが減少、今年は先の見えないコロナ禍で逆風が強まっている。「7月は県民向けの宿泊費助成に助けられ、韓国人客が減った昨年(の7月)よりも宿泊客が多かったが、8月は助成が終わり、さっぱり駄目だ。高校の雲仙合宿(学習合宿)のキャンセルがかなりきつい」と、旅館支配人の一人は表情を曇らせた。
 こうした状況の中、市観光戦略策定委(委員長・宮崎高一雲仙温泉観光協会長、17人)は「全てのステークホルダー(関係者)が一丸となり、覚悟をもって、変化に挑戦する」を合言葉に掲げている。宮崎委員長(57)は「私も含め、温泉街の住民は危機感が人一倍強い。唯一無二の『雲仙らしさ』のイメージを共有しながら事業を進めたい」と強調する。

■目標100億円
 かつては山岳信仰の霊山として知られた雲仙岳。温泉街は標高約700メートルで下界よりも気温が約5度低く、外国人が数週間単位で滞在した「避暑地」としてにぎわった。戦略では、こうした自然と歴史を生かした雲仙温泉ブランド「生きる力がよみがえる、雲の上の避暑地」を目指していく。
 10年後の温泉街の総売り上げ目標は約100億円(2019年実績、約66億円)。収益性を高め、まちづくりや人材育成への投資を促し、温泉街の魅力を向上させて集客する好循環を築く。具体的には四つのワーキンググループ(WG)で取り組みを検討し、事業者を募って実施していく。
 宮崎委員長は「10年後の目標の達成に向けて、WGが戦略の推進エンジンになるが、メンバーにはそれぞれ本業があり、何年も注力し続けるのは難しい。出来上がった事業を継続するための新しい体制づくりも急ぐ必要がある」。待ったなしの苦境の中で、最適な実現方法を模索していく。


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