新型コロナがNPO法人に落とす影 NZ、募金活動できず苦境に【世界から】

ロックダウン終了後、再開したカフェに集められた食品の缶詰。フードバンクに直接寄付される© Local Cafe

 新型コロナウイルスが世界を震撼(しんかん)させ続けている。私たちの身体的・精神的健康を脅かすだけでなく、経済も大きく落ち込まている。ニュージーランドでは、失業者をはじめ社会的弱者を下支えするNPO法人の多くが苦しい運営を強いられている。

 ニュージーランド国内のNPO法人や企業の責任者で作る「インスティチュート・オブ・ディレクターズ(IOD)」の創立会員の1人は2008年に起こった世界的経済危機「リーマン・ショック」と比較して、次のように危ぶむ。「リーマン・ショックの際には解散する組織はなかったが、今回はあるかもしれない」。(ニュージーランド在住ジャーナリスト、共同通信特約=クローディアー真理)

 ▽募金活動がストップ

 IODは7月上旬、今年に入ってからの運営状況を確認する調査をNPO法人の責任者約4500人を対象に行った。それによると、回答者の85%が新型コロナウイルスの感染拡大によって運営資金の調達に何らかの影響を受けていると回答したという。

 新型コロナウイルスによって経済活動が制限されたことで、現金の出入りを示す「キャッシュフロー」は深刻なダメージを受けた。ここに追い打ちを掛けたのが、7週間続いた政府によるロックダウン(都市封鎖)だった。結果、多くのNPO法人が資金減に苦しむことになった。

 ロックダウン中は外出をはじめとするさまざまな活動が厳しく制限された。募金活動もできなくなったのだ。まず、「ストリート・アピール」と呼ばれる街頭募金などが延期・中止となった。集会も原則禁止されたことで、参加費がNPO法人への寄付となるスポーツ大会やクイズ大会などの「イベント型募金」も期待できなくなった。NPO法人によっては、これらを通して市民から寄せられる金額が全収入の半分を超えるところもある。開催できないのは、運営上致命的なのだ。

 運営資金を主にパートナー企業から得ているNPO法人も同じだ。これらの企業は店舗などで買い物をした顧客に呼びかける形で寄付を募っていた。ところが、ロックダウンを受けて閉店してしまった。寄付金がほぼゼロに落ち込んだNPO法人もあるという。

慈善団体が運営するこの店舗もロックダウン中は閉店となった。影響で収益が上がらず、団体の資金計画に穴が開いた=クローディアー真理撮影

 ▽ 急速に失われる雇用

 新型コロナウイルスによる経済活動停止を要因とする景気低迷もNPOの資金繰りを苦しくしている。統計局によれば、2020年の第1四半期(1~3月)の国内総生産(GDP)は1・6%減少している。1991年3月以来最大の落ち込みだ。

 日本の厚生労働省にあたる社会開発省は「求職者のための手当」や「コロナによる失職者の救済給付金」の受給状況を発表している。それによると、6月末時点で20万人を超えている。ニュージーランドの人口は約500万人なので、少なくとも25人に1人が無職ということになる。

 経済学を分かりやすく解説することで知られ、メディアコメンテーターとしても活躍する経済学者のシャムベエル・イアクブさんはウェブサイト「ビジネスデスク」でこのことを取り上げて、こう指摘した。「ロックダウン初期に週に6千~7千という数で起こった雇用喪失は、ニュージーランドでは見たことがない多さだった」。

 今後も失業者は増え続ける―。同じ文章でイアクブさんはこうも予想する。7月10日までの統計を確認してみると、実際に毎週約4千人が失職している。

 これらの数字を見れば、経済がいかに悪化しているかが分かる。このような状態で、NPO法人に寄付をするだけの金銭的余裕がある人は多くないことは明らかだ。

 ▽CFで調達

 NPO法人の中には、新たな方法で資金を集め始める組織も出てきた。一例を挙げる。聴導犬訓練団体「ヒアリング・ドッグ」は7月下旬から犬のデイケア・サービスを始めている。安定した収入の確保を狙った取り組みだ。

 マーケティングの専門家であり、助成金コンサルタントでもあるテレーズ・ラニガン・ベーレントさんは近い将来、資金調達はオンラインに移行していくだろうと予想する。

 クラウドファンディング(CF)に切り替えたNPO法人もすでに登場している。退役軍人のための組織「ロイヤル・ニュージーランド・リターンド・アンド・サービシズ・アソシエーション(RSA)」だ。

 毎年恒例となっている退役軍人のための支援金集めが新型コロナウイルスの影響で行えなかったため、CFによる寄付を呼び掛けた。すると、9千人近くから合計約25万ニュージーランド・ドル(約1730万円)近い資金を得ることができた。これは年間に必要な金額の8分の1に相当するという。

RSAがクラウドファンディングによる寄付を呼び掛けるページ

 ▽助成金の対象外

 IODによれば、NPO法人会員の43%が提供するサービスへの需要の高まりを感じているという。特に食料品に対してのニーズは高い。 社会開発省に寄せられた「食料品購入のための特別支援補助金」の申請を見ると、4月5日からの1週間だけで7万件弱になった。これは1、2月の週平均と比較して、3倍以上の数だ。

 キリスト教系の慈善団体「救世軍」は生活困窮者などに食料品の詰め合わせは配布している。ロックダウン初期で解雇者が非常に多く出た4月19日からの1週間で5895箱になった。ロックダウンが導入される前と比べると、およそ3・5倍にもなる。

 フードバンクを運営する団体によると、初めて利用する人を目にすることが多くなったそうだ。救世軍でもロックダウン開始からの約2カ月間で、食料品の詰め合わせ3万6972箱を配布。うち約3分の1は初めて利用する人の手にわたった。新型コロナウイルスの感染拡大によって経済的苦難に陥っている人が増えていることが分かる。

 IODはニュージーランド国内に11万5千のNPO法人があるとしている。また、統計局の調査では2018年にNPO法人が国内経済に貢献した額は81億ニュージーランド・ドル(約5700億円)。23万人いるボランティアによる活動を貨幣として評価すると、40億ニュージーランド・ドル(約2800億円)に相当するという。

 両者を合わせると。8500億円。これは、18年のGDPが約3133億ニュージーランド・ドル(約21兆8400億円)だったニュージーランド経済において4%近くになる。小さくない数字だ。

 それなのに、NPO法人は新型コロナウイルスに関する経済対策として政府が支給する助成金の対象外にされている。これまで述べたように、NPO法人は社会で大きな役割を果たしている。そんな彼らを除外するのは間違ってはいないだろうか。

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