今日(8/17)でちょうど発売50周年、ザ・バンド『Stage Fright』の魅力とは

ザ・バンドが3枚目のアルバム『Stage Fright』のレコーディングに入ろうとしていた1970年5月、世の中の彼らへの期待度は最高潮に達していた。彼らは既にボブ・ディランのバッキング・グループとしてツアーをこなした後、自分たちだけで進む道を選び、1968年の傑作『Music From Big Pink』とバンド名をそのまま冠した2作目で、アメリカン・ミュージックの方向性を変える上で不可欠な役割を果たしていた。そして『Stage Fright』という3作目のタイトルが示す通り、グループは自分たちの実力をもっと証明すべきだと自覚していたのだった。

ザ・バンドが当時暮らしていたウッドストックの住人たち――有名ミュージシャンが多く住む町に暮らすがゆえの様々な問題を受容していた――に対する配慮として、ザ・バンドは『Stage Fright』をプライヴェートなタウン・コンサートの形で録音することを提案した。だがこの申し出は地元の町議会から突っぱねられ、彼らはアルバムのレコーディングをウッドストック・プレイハウスで、観客なしで行なうことにした。

サウンド面を統括したのは若きエンジニア、トッド・ラングレンで、ギタリスト/ヴォーカリストのロビー・ロバートソンいわく、「結果としては音響的に非常に興味深い状況になったと思います。幕を下ろした状態でプレイすればほぼ完全にドライなサウンドになるし、幕を上げれば一瞬で会場の音が加わるわけなので」。

ザ・バンドにはクリエイティヴィティを展開するプライヴァシーが与えられていたが、1970年8月17日にリリースされた『Stage Fright』には、全体として恐れや孤立といったテーマの曲ばかりが並んでおり、彼らの抱えていた名声と成功に対する不安が透かして見えた。

曲の内容も前2作と比べてパーソナルなものが多いが、ハイライトは間違いなくタイトル・トラック「Stage Fright」で、ロビー・ロバートソンのあがり症に対する葛藤が率直に描かれた曲だ。彼はオーディエンスの前でプレイすることに対する恐怖心を、普遍的な悲嘆へと転化してみせた。ロビー・ロバートソン曰く「 ‘Stage Fright’では、俺がずっと抑え込もうとしていた沢山の物事が知らないうちに這い出してきたんです」。

この曲でリード・ヴォーカルを取っているのはベーシスト兼フィドル奏者のリック・ダンコで、ガース・ハドソンによる澱みないオルガンのサポートを得てパワフルなパフォーマンスを披露している。

『Stage Fright』でも相変わらずザ・バンドの多才さは際立っている。ガース・ハドソンはレコードでは他にエレクトリック・ピアノとアコーディオン、テナーとバリトン・サックスもこなし、リヴォン・ヘルムはドラムス、ギター、パーカッション(更に4曲でリード・ヴォーカルを担当)、そしてリチャード・マニュエルはピアノ、オルガン、ドラムス、クラヴィネットをプレイしている。

こうしたミュージシャンとしての力量と、リチャード・マニュエルのシンガーとしてのスキルがすべて結集されたのが 、記憶を反芻するかのような「Sleeping」で、ロビー・ロバートソンとリチャード・マニュエルによる楽曲はロックとジャズの影響をメリハリよくブレンドし、珠玉のナンバーへと昇華されている。

このペアはまた、ザ・バンド独特の疾走感をもった 「Just Another Whistle Stop」も共作しているが、「The Shape I’m In」では雰囲気は再び暗転し、キャッチーな 「The WS Walcott Medicine Show」が続く。荒涼とした 「Daniel And The Sacred Harp」魂を売り渡そうとしているミュージシャンの物語だ。

The moment of truth is right at hand
**_Just one more nightmare you can stand
最後の審判の時はすぐそこに迫っている
あとひとつ悪夢を我慢さえすれば_**

この曲を書いたロビー・ロバートソンは、当時のミュージシャンたちが置かれていた無防備で救いのない状況を何とか伝えようとしたのだと語っていた。

リヴォン・ヘルムはロビー・ロバートソンが自分の子供のために書いたという辛辣なララバイ「All La Glory」で優しい歌声を聴かせている。ハドソンの優美なアコーディオンが、感動的な歌詞を際立たせる一方、ロビー・ロバートソンがひとりで書いた7曲のうちのひとつである「The Rumor」は力強いナンバーだ。

1970年のローリング・ストーン誌のレヴューでは、このアルバムは「つかみどころがない」と表現されていた。確かに『Stage Fright』はバンド・メンバーたちの間の絆が個人的、あるいは仕事上の軋轢によって試されていた時期に作られた、不確実性そのもののようなレコードである。しかしながら音楽として、時の試練に耐え得る力を持った作品だったことは既に実証済みだ。

「あれはダークなアルバムだよ」とリヴォン・ヘルムは後年認めている。「と同時に我々のグループの集合体としての心理的天候をそのまま写し取った作品でもある。みんな何かがおかしいと感じ取っていたんだ、あちこち綻び始めてるってね」

けれど、このアルバムは大衆に大いに愛される作品となった。『Stage Fright』はグループとして最高位であるアルバム・チャート第5位まで上昇し、50万枚以上を売り上げてゴールド・ディスクを獲得した。

Written By Martin Chilton

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