大阪府吉村知事「重症者が多いのは早期に人工呼吸器をつけるから」 突然の発言に地元医療関係者も当惑

大阪府における新型コロナの感染状況は悪化の一途だ。16日の新規感染者数は147人だったほか、重症者の数が過去最多の72人となったが、大阪府吉村知事が重症者の数について取材された際「早期に人工呼吸器をつけるから」と答え、地元の医療関係者などから困惑と批判が広がっている。

「命を救うため」と発言しているが

この発言が出たのは14日の囲み取材でのこと。記者から重症者の増加についての認識を聞かれこう答えたという。

「治療的な観点でいくと、報告受けているのが、大阪の場合は、死者をできるだけ減らしたいということで、できるだけ早めに気管切開をして、人工呼吸器をつけて、命を救う治療を優先している」

回答になっているのかすぐには分からない内容なので補足すると、新型コロナウイルス感染症の病態の分け方として、自覚症状が軽い状態を「軽症」、酸素吸入が必要な状態を「中等症」、人工呼吸器が必要な状態を「重症」とするのが一般的になっている。つまり知事の言いたいことは、人工呼吸器をつけた患者を重症者と呼ぶことになっているから数が多くなっているだけで、実態とは違う、ということのようだ。

地域によって治療方針が変わることなどありえない

しかしこの発言は医療関係者にとっては看過できないもの。人工呼吸器をつけるか否かは患者の個々の状態を見て判断をするべきものであり、大阪地域ではそうしている、ということが起こるはずがない。しかも人工呼吸器をつけること自体は、極めて消極的な対症療法であって、つけることによって治療効果が見込めるようなものではない(これはECMOも同じ)。この発言は関西テレビのローカル番組『報道ランナー』で取り上げられたが、この番組を見た地元の医療関係者や、その番組内でも疑問が上がった。

この番組を視聴した大阪大学医学部病理学教授の仲野徹氏が、放送後に自身のTwitterアカウントで「ありえない妄言」と切り捨てたほか、番組にコメンテーターとして出演していた関西医科大教授の宮下修行氏も、人工呼吸器を早めに装着しても本質的には治療に結び付かず、死亡者を減らすことにも繋がらないと発言し疑問を呈した。

さらに番組内では、独自取材として現場の複数の医療関係者に、吉村知事が言っていたように早めに人工呼吸器をつける措置がなされているのか聞いたところ、異口同音に「大阪だけ着けるのが早いということはない」と答えていたと明かしている。つまり吉村知事の発言は、理由は不明だが虚偽の可能性があるということだ。

もしその場の思いつきで取り繕おうとしたのであれば、行政トップとして信頼性、適格性を疑われる事態だと言わざるを得ない。「ポビドンヨード」に関する発言以来、吉村知事の言動への眼差しは厳しさを増している。

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