舞台は、今も内戦が続く中東・シリアの首都ダマスカスにあるアパートの一室。しかも、カメラはアパートの敷地内から一歩も出ない。登場人物も、そこに住む家族とお手伝い、避難してきた上階の若夫婦にほぼ限定され、時間も朝から深夜までの一日だけの出来事だ。
彼らは、その一室をシェルターにして市街戦からかろうじて身を守っている。一家の主は、内戦を戦っているのか姿はなく、女性と子供、老人のみである。我々観客にも彼らと同じ情報しか与えられないので、シリアが内戦状態にあることぐらいは常識として知っているとはいえ、日本人からしてみれば、外で何が起こっているか分からないまま身を潜めて恐怖に耐えているホラー映画と大差はない。なおかつ、自由を奪われた狭い空間の中でこそ立ち昇る葛藤や人間関係は、世界共通であり、親の愛も人間の欲望の醜さも然り。
つまり本作は戦争映画であり、今まさに世界のどこかで起きているコロナ禍以上に理不尽な悲劇に目を向けるきっかけとなる社会派要素は強いものの、それを棚上げにしてもエンターテインメントとしてドラマとして楽しめる作品なのだ。その上、ドアの覗き穴やカーテン越しのカット、制約を逆手に取ったシチュエーションが生み出すサスペンスは、映画ならではのもの。敢えて制限も設けることで、映画が持つ可能性を広げてみせた好例だろう。★★★★☆(外山真也)
監督・脚本:フィリップ・ヴァン・レウ
出演:ヒアム・アッバス、ディアマンド・アブ・アブード
8月22日(土)から全国順次公開