純喫茶とテクノポップ、不思議な心地よさ 開店35年目

クラフトワークやデビッド・ボウイのポスターやグッズが所狭しと並ぶ喫茶店「珈琲山」

 その外観はいかにも昔ながらの喫茶店という趣だが、木枠のガラス戸を開けるとテクノポップが耳に飛び込んでくる。1970年の結成から半世紀を迎えたドイツの電子音楽グループ「クラフトワーク」の楽曲だ。純喫茶とテクノポップー。ミスマッチのようで不思議な心地よさを感じる組み合わせに誘われ、横浜市南区の喫茶店「珈琲山」には開店35年目を迎えた今も、老若男女問わず多くの客が訪れる。

 前衛的で独創的な音楽活動が多くのミュージシャンに影響を与え続けてきたクラフトワークの楽曲が一日中流れる「珈琲山」は、京急線黄金町駅近くの交差点の一角にある。黒い帽子の下に金髪が映えるオーナー山崎宏和さん(52)は「自分が聴きながら仕事したいから流しているだけだよ」と照れ笑いを浮かべる。

 中学生の頃、クラフトワークやデビッド・ボウイ、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)に夢中になった。高校卒業前、両親が管理していたビルのテナントが空き、「2年やって駄目だったら就職すれば」という母の言葉に流されるように店を始めた。

 「せっかく自分でお店をやるなら、好きなものに囲まれていたいと思って」という言葉通り、店内の壁にはクラフトワークなどのポスターが並ぶ。昨年の来日コンサートは店を休んで全日程を観賞。「クラフトワークは仕事より大事だよ」と笑顔で話す。

 「他にあまりない雰囲気の喫茶店。ギャップが面白く、つい来てしまう」と話すのは、常連客の会社員(59)。店の存在は、クラフトワークファンの間でもよく知られ、店内でイベントを開きたいという申し出も多いが、山崎さんは、いつも来てくれる客の迷惑になったら申し訳ないと全て断っている。「音楽やポスターは、集客や宣伝のためじゃない」というのが理由だ。「うちはあくまで街の普通の喫茶店。音楽好きの人だけがお客さんじゃない」という言葉に、自分の趣味をことさらに客に押し付けない、山崎さんの人柄が垣間見える。

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