何を話しているの? コーチと選手、捕手と打者の秘密の“おしゃべり”の中身は?

ソフトバンク・甲斐拓也(左)とロッテ・福田秀平【写真:福谷佑介、荒川祐史】

野球の開幕から約2か月――。野球女子みんなにもっと野球を楽しんでほしい! そんな思いでFull-Countが企画した、“野球女子の疑問に記者が答える”企画。今回は、特に質問の多かった「試合の舞台裏にまつわる疑問」後編をお届け。ランナーコーチャーが持っているストップウォッチの謎から、バッターボックスでのおしゃべり秘話まで。取材経験豊富な編集部スタッフが野球女子の疑問を解決しつつ、試合の舞台裏秘話を大放出します!

Full-Countツイッターで募集した質問に編集部が答える“後編”

――後編はまず、こちらの質問から。「選手が塁に出た時、コーチがランナーの耳元で指示を出していますが、塁を守る相手選手に、その指示は聞かれないのですか?」

N うーん、聞こえてないんじゃないかな。聞こえないように言うと思う。

F 聞こえても問題ないようなことだったら、言ってるかもしれないですね。

N うん。「よく○○見ておけよ!」とか。

F そうそう。

N 聞かれちゃいけないこととしてちゃんと言うなら、たぶんまずは聞こえないように、相手選手の位置を見ると思う。

――聞かれてはいけない指示となると、どういうものがありますか?

F たとえば、一塁のランナーコーチャーが投手のクセを見抜いた瞬間。投手って、けん制してくる・してこないのクセがある投手もいるんですよ。そういうクセを見抜くのが得意なコーチャーだと、選手に指示をする。「あの投手は、1回こっちを振り向いても、2回目振り向かなかったら絶対に投げるから、走っていいよ」みたいに。それを相手選手に聞かれたら、(次回からクセを)隠されちゃうから。

K ストップウォッチを持っているコーチャーもいますよね。

N そういう人は、「あの投手のクイック(注:投手のセットポジションからホームまで投げるスピード)は、1.1秒だよ」とか教えてあげている。するとランナーは「それなら走れる」「俺は無理かな」と、盗塁するかしないか決められるんです。

――もう一問、コーチャーにまつわる疑問が届いています。「二塁ランナーがホームに突っ込む時の判断は、三塁コーチャーに従っているんですか?」

N はい、三塁コーチャーに従ってます!

F 無視して突っ込む選手もいます(笑)。アウトになったら怒られますけど!

N セーフになっても、ちょっと怒られる。

F どちらにしても、「なんで行ったんだよ?」ってなるでしょうね。

N そこにちゃんとした狙いがあったなら、「そうか」ってなるかもしれないし。「あれは俺の指示に従わなきゃダメだ」ってケースもあるだろうね。

F 選手は(打球の行方が)見えてないですからね。打った瞬間の勢いで、ある程度の判断は下せるけどそこから先、回るか回らないかの最終判断は、三塁コーチャーにかかっている。でも、判断をギリギリまで出さないコーチャーがいるんですよ(笑)。そうすると、選手がすごく迷う。

N 選手は回るつもりで走って、三塁を蹴る。ところが半分くらい行ったところで「ストップ!」ってなると……。選手は止まらなきゃいけない。

F 選手にどういうふうに指示を出すタイプなのか、そういう視点で三塁コーチャーを見るのも、面白いかもしれないですね。

サインに捕手のつぶやきに…ハイレベルの騙し合いも勝敗のカギ?

――「サインは定期的に変えているのですか?」という疑問がきていますが、どうでしょうか?

N 変えてます!

F サインもたぶん、何種類かパターンがあるんですよね。

K 1年に1回とか、何か月に1回とか、変える周期が……。

F あります。球団によってまちまちですけど。

N 自分の知っている範囲だと、まず選手がトレードされたら、変えます! あと、選手たちが作戦が見抜かれてるなって感じた時。そうなると、球団全体で「変えよう」ってなるみたいです。

F 試合日ごとに変わるところもありますよ。例えば、ABCと3つのパターンのサインを持っていて、「今日はAパターンでいこう」とか。

N 全体のサインだけじゃなく、バッテリー間のサインも、見抜かれていると思ったら、その日だけ変えることもあるみたいだし。イニングで変えることもあります。

F やっぱり、その道のプロがやっているから、ずっと同じサインだと数試合で見抜けちゃうんですよね。たぶんプロに限らず、高校野球や大学野球でも変えているはず。

N 強豪校は特にね。多いところは100何種類もあるって聞いたことがあるよ。

K 選手も覚えるのが大変ですよね。

F だから覚えられない選手は試合に出られない。覚えられなくても出られる選手は、サインがいらない選手。打席に入れば打ってくれる! っていうバッターじゃない限り、覚えなくていい選手はいない。

N そういう選手に限ってだけ、サインが変わったりすることもあるんですよ。すっごいシンプルになったりね(笑)。「お前のサインは、帽子のつばを触った後のこれだけだぞ!」とか。

K サインは、結構複雑ですよね。“取り消し”のサインもありますし。

N そう。たとえば、“帽子のつばを触った後に鼻を触ったら盗塁”ってサインがあるとする。でも、“その後に胸を触ったら、前に出した盗塁のサインは取り消しだよ”みたいな。で、その後にまた帽子のつばを触って新しいサインを出し直したりする。

F だまし合いですよね! 盗塁のサインを出しておきながら、取り消しで別のサインを入れて……ってなると、相手は「あれ? さっき盗塁のサインが出てたのに、なんで?」ってなる。

――それでは舞台裏編、最後の質問はこちら! 「捕手が打者に話しかけることがあると聞きましたが、本当でしょうか?」

N&F これ、めっちゃありますよ?

K 打者は気が散らないんでしょうか?

N それが作戦です!(笑) よっぽどのことがない限り、ルール違反にはなりません。

K 何を話しているんですか?

F 世間話ってパターンもあるよ。今年でいえば、ソフトバンクから福田秀平選手がロッテに行ったでしょ? 福田選手が打席に立つと、甲斐捕手が話しかけるんですって。「福田さん、元気ですかー?」って(笑)。そうしてバッターの気を逸らしたり、集中力をそぐようなことを、ちょっと仕向けたり(笑)。結構、どの捕手もするって言いますね。

N そうそう。「ホームランバッターが来たよ~!」とか「さっき、変化球打たれたから、どうしよっかな~?」なんて言ってみたり(笑)。

K あはは! それ、打者は無視してもOK?

N 無視する人もいるし、話しちゃう人もいるし。話すのが上手な捕手もいるんです。

F 逆に打者が捕手に話しかけることも。「どうせストレートで来るんでしょ~」なんてカマをかけてキャッチャーを混乱させて、自分が投げてほしい球種に引っ張ってくるとか。

K 本当にだまし合いですね!

N でも、だまし合いだけでもないんです。時々、ここはヒットを打たれてもいいって場面があったりもして。たとえば10対0で点差が開いて、8回表の先頭打者がこの試合で引退する、みたいな場面。すると捕手がその選手に花を持たせるために、「○○さん。全球ストレートでいきます!」って言うこともあるって聞いたことが。もちろん本当はダメなんだけど、そんな素敵な話もあるんですよ。

「試合の舞台裏にまつわる疑問」、いかがだったでしょうか? 他にも「選手にまつわる疑問」や「ルールにまつわる疑問」に、ユニークな質問がたくさん来ています。 「僕らで答えられるかな?(笑)」なんて言いつつも、記者は大張り切り! “野球女子の素朴な疑問”シリーズ、続きを楽しみに待っていてくださいね。(構成・中塚真希子 / Makiko Nakatsuka)

© 株式会社Creative2