<いまを生きる 長崎コロナ禍> 佐世保のスナック オンライン接待で活路 「固定観念変える機会に」

 「オンラインスナック」に取り組む店が佐世保市にある。野口未来さん(35)が経営する「椿」。新型コロナウイルス感染拡大の波が全国を覆う中、「夜の街」に向けられる視線は厳しい。それでもスナックに束の間のぬくもりや安心感を求める人たちがいる。野口さんは、できるだけそれに応えたいと思い、カウンターに立つ。
 「カンパーイ」。8月6日夜。群馬県の50代男性がオンラインで初めて“来店”した。コロナ禍で地元の店には行けない。楽しみが減って寂しさを抱えていた時、以前旅行で訪れた佐世保にオンラインスナックの店があることを知った。男性は他の来店客とも意気投合。「今度実際に遊びに行きます」。上機嫌で退店していった。
 「直接会って話すのがスナックの楽しさ。やる前は『オンラインで楽しさが再現できるの?』と疑っていました」。野口さんはこう振り返る。
 2014年、先代のオーナーから店を引き継いだ。今は美容関係の仕事と「椿」のママの二足のわらじを履く。新型コロナで4~5月はスナックの来店客数が半分ほどに減少。店の家賃や設備費などの負担がのしかかった。思案の末、美容の仕事でやっていたオンライン会議を、スナックに応用してみることにした。
 常連客を対象に4月からオンラインでの接客をスタート。接客料金は1時間2200円。酒やつまみ類は客がそれぞれ準備する。戸惑いはあったが、いざやってみると、会話のテンポも雰囲気も対面での接客とさほど変わらなかった。「久しぶりにママと酒を飲めてよかった」。みんな喜んでくれた。
 6月、全国のオンライン対応のスナック情報を集めたサイトに登録。すると、他県からも予約が入るように。客層は老若男女さまざま。多い日には1日5組が“来店”する。それまでの営業スタイルでは到底できなかった新しい形の顧客開拓ができている。
 都会でも地方ででも、夜の街を中心に感染が拡大する事例が後を絶たない。スナックを取り巻く環境は厳しい。ただ、ふさぎこんでばかりいても活路は見いだせない。「コロナがなければオンライン接客はしなかった。苦しい状況だけれど、スナックの固定観念を変える機会になったのも事実」と野口さん。
 依然出口の見えないコロナ禍。「これからどうなるんかなあ…」。客との会話も自然と湿りがちになる。野口さんは「大変よねえ」と相づちを打ち、画面越しにグラスを傾ける。「こうしてお酒を楽しんでいる時間が、少しでも力になれば」と願いながら。

オンライン接客に奮闘する野口さん=佐世保市大野町

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