【FABRIC TOKYO×杉山文野×大谷明日香】 2020年、ファッション業界に求められるジェンダーインクルーシブの在り方を考える。

オーダースーツブランド・FABRIC TOKYOが8月8日(土)~8月31日(月)の期間、全国4店舗で展開するイベント『FABRIC TOKYO think inclusive fashion』に先駆け、株式会社FABRIC TOKYO代表取締役・森雄一郎さん、株式会社ニューキャンバス代表取締役・杉山文野さん、今回開催されるイベントのクリエイティブを担当したREING代表・大谷明日香さんがファッションとジェンダーをテーマとしたトークショーを行った。
2020年以降にアパレルブランドをはじめとしたファッションに関わる企業に求められるジェンダーやセクシュアリティとの向き合い方とは何なのか? 今回はその一部のインタビューをフォーカスしてお届け。

画像左から/株式会社FABRIC TOKYO代表取締役・森雄一郎さん、株式会社ニューキャンバス代表取締役・杉山文野さん、REING代表・大谷明日香さん

――「男性らしさ」「女性らしさ」の概念自体に何も問題はないけれど、それを強要する時代はもう終わり。

森さん:大谷さんは現在、REING代表取締役として「ジェンダーニュートラル」という言葉をキーワードにアンダーウェアの製作も行っていられますが、その工程の中でジェンダーにまつわる問題に直面した瞬間はありましたか?

大谷さん:従来までの女性用と謳われるアンダーウェアはフリルがあしらわれたデザインや、胸を寄せてバストアップを図る型など「女性性」が強調されるような、体のラインを表現するものが多いことに疑問を抱いていました。日常の中で感じたジェンダーに関する違和感に対して、REINGを通してアプローチできればと思い、プロダクト製作をスタートさせました。

REINGが運営するコミュニティ内でのヒアリングに重点を置いて、ジェンダーニュートラルなアンダーウェアのデザインやコンセプト、型のイメージまで決め、スムーズに進行すると思われたプロジェクトでしたが、リサーチで目星をつけたほとんどの工場が「男性用」「女性用」どちらかのアパレル商品を生産するラインしか持っていなかったため、形にするまでに想定以上の時間を要しました。

作り手側に立ったからこそ分かることですが、ファッション業界の生産工程という点にフォーカスして考えると、まだまだ改善の余地があるかもしれません。

森さん:なるほど。一般的なOEM生産の企業は元々持っているパターンを利用することで、スムーズな生産を可能にしていますが、REINGのように世の中になかったデザインのアイテムを生み出そうすると型の製作や生産ラインの整備などを行わなくてはいけないため、通常よりも工数と時間がかかるという訳ですね。杉山さんはいかがですか?

杉山さん:大谷さんのお話を聞いて、男女を象徴するようなプロダクトを再考・再構築するということは消費者に与える選択肢の幅を広げる有意義なことであるゆえに、それだけ労力がかかることなのだなと改めて思いました。

僕は「男性らしさ」「女性らしさ」というのが悪いとは全く思っていなくて、それを半ば強要する社会構造に疑問を抱いています。分かりやすい例を挙げれば、学校制服。男子はパンツスタイル、女性はスカートを着用することが校則で定められている学校が多いと思うのですが、中にはそのどちらかしか選択肢を与えられていないため、仕方なく身につけている学生もいるんですよね。かく言う僕もその一人でしたし。スカートではなく、スラックスを穿きたい気持ちはありましたが、周囲に浮いた目で見られるのは嫌だったので、その下に短パンを穿いて精神面でバランスをとっている時期もありました。

社会に目を向けてみると企業に勤めている女性が子育てをしながらキャリアを積んでいくことは、まだまだ難しい現状にあるため、世帯年収などを考慮して男性が働き、女性は子育てに専念せざるを得ない。今の時代、男性が子育てをすることは特別なことではありませんが、やはりこういった社会構造がライフスタイルの選択肢を狭めている気がしています。ジェンダー関係なく、一人ひとりが人生の選択肢を皆平等に与えられる社会に改善されることが今求められていることじゃないかなと思っています。

大谷さん:杉山さんがいう通り、私たちは「男性らしさ」「女性らしさ」を否定したいわけじゃなくて。“男性らしい”表現をしたい方もいれば、“女性らしい”表現をしたい方もいる。一方で、そもそも性別二元論に縛られずに生きていきたいと思う人もたくさんいる。その人らしい選択であれば、それでいいと思うんです。多様な性のあり方が“普通”である社会へと変わっていく中で、誰もが社会構造や風潮に縛られずに生きていけるようになるには、それぞれの“らしさ”を受け入れ合うことが、重要になってくると思っています

今は圧倒的に選択肢が少ないし、無意識に「らしさ」を強要してしまうという怖さもありますよね。多様な個人のあり方をお互いに尊重したい、という若い世代の声や思いと、企業やブランドのコミュニケーションが交差するような社会になればいいなと思います。

――「こうでありたい」「間違いも前に進むきっかけ」それぞれが考える次世代企業の在り方とは?

森さん:お二人の話を聞いて、ジェンダーを意識することなくその人が好きなものを純粋な気持ちで選べる社会へと導くことがファッション業界全体の一つのミッションのようにも思えてきました。FABRIC TOKYOでは昨年に引き続き、REINGさんご協力のもとで『FABRIC TOKYO think Inclusive Fashion』という性別関係なくオーダースーツを作れるイベントを8月末まで開催するのですが、こういったイベントはいかがですか?

杉山さん:オーダースーツを作れるイベント自体もそうですが、ショップスタッフの方たちから多様な性を受け入れるコミュニケーションをお客様が体験できるというのは、とてもいいことなんじゃないかなと思いました。胸部の摘出手術をする28歳まで正直、ファッションを楽しいと思ったことはなかったし、コンプレックスを隠すことに重きを置いて洋服を選んできました。また、心は男性であるけれど、体型や骨格は生まれ持った女性ですから、雑誌や店員さんのアドバイスも中々取り入れづらいし、リアルショップに足を踏み入れるのにも躊躇していた時代もありましたね。
ただ、こういったイベントがあると、アイテム選びの相談もしやすいし、自分では気づかなかった魅力を引き出す方法も知れたりすると思うので、いいですよね。

森さん:最後に今後、企業に求められる姿勢はどういったものだと考えていますか?

杉山さん:新型コロナウイルスの世界的流行により、10年スパンで物事が考えられない時代に突入してから、何事においても変化していくということを身をもって感じる場面が多くて。時代によってプロダクトや価値観も大きく変わってきますが大切なのは「こうあるべきである」ではなく「こうでありたい」をお互い尊重できる社会。各企業が消費者の小さな声を拾いつつ、その人たちにも寄り添った事業展開ないし活動を行うことが、理想とする社会へ近づく一歩になるのでは思っています。

大谷さん:正解がない時代だからこそ、企業は一貫としたビジョンを持たなければいけないと思っていて。違う価値観の人が共存できることが多様性だと思っているので、賛否両論の意見が出るのは当たり前のこと。ただ、仮に否定意見が大多数を占めた場合に謝罪の一言で終わらせるのではなく、商品にしろイベントにしろ、どのような意図やメッセージを伝えたかったのかを明確に伝えることも大切なことなのではないでしょうか。企業として社会・人と繋がっていることを意識して、ビジョンを組織に所属する人が共有できていれば、間違いも前に進むきっかけになると考えています。

■ 森雄一郎
オーダーメイドスーツブランド『FABRIC TOKYO』代表取締役。リアルショップでの採寸後にサイズデータをクラウドに保存、スマホからいつでもどこでもオーダーメイドのスーツが注文できるサービスが話題に。
■ Twitter@yuichiroM

■ 杉山文野
フェンシング元女子日本代表。現在は株式会社『ニューキャンバス』代表取締役としてLGBTについての講演や企業研修、コンサルテーションやメディア出演など、多様な性を尊重する社会を目指して活動中。
■ Twitter@fumino810

■ 大谷明日香
「二元論に囚われない個のあり方」をテーマとした製品開発・企画などをするブランド『REING』代表。8月末まで全国4店舗のFABRIC TOKYOで開催中のイベント『FABRIC TOKYO think inclusive fashion』のクリエイティブも手掛ける。
https://reing.me/
■ Twitter@aska28d ■ Twitter@Reing_me

■ FABRIC TOKYO think inclusive fashion
男女の性別関係なく、自分らしいメンズパターンのオーダーメイドスーツを購入できるオーダーイベント。
期間:2020年8月8日(土)~8月31日(月)
場所:FABRIC TOKYO 表参道(東京)ほか、全国3店舗で開催
※受付時間は各店舗にお問い合わせください。
■ FABRIC TOKYO think inclusive fashion
■ Twitter@fabric_tokyo

取材・撮影/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO

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